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風魔が言葉を話さない理由その壱(幼少捏造)

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 目を覚ましたのは見覚えのない部屋だった。
 二十畳はあるのではないかと思われる、布団が布かれている以外には生活感がまるでないだだっ広い部屋で、生活臭も無いに等しく昨日こしらえた場所だと言われても納得してしまいそうだ。
「…………?」
 なにも思案する事がなく、ふと疑問に昨日手刀を打ち込まれた場所はどうなったのだろうかと思い喉へ手をやれば血まみれの包帯が巻かれていて触った指には血がべっとりと付着していた。気味が悪くなって部屋から出ようと襖に向かえば後ろから肩を叩かれた。
「大丈夫、か」
 耳元で言われた言葉に聞き覚えがないものの風のように気配がない男と限定すると一人しかおらず、急いで振り返れば刀も兜も籠手も置き去りにした小太郎がいた。
 瞳を隠すように鬱蒼とした赤髪の中、映えるように爛々と輝いた瞳は黄金色。まるで大型の獣のような出で立ちであった。
「……」
 ぱくぱく、口を動かしてはみるものの何を言ったらいいのか分からずに舌からは言葉が出てこない。しかしながら意志の疎通をしなくてはならないと思い小さく首を縦に動かせば、昨日の傷がずきずき悲鳴をあげる。
 それを知ってか知らずか小太郎にひょいと片手で抱きかかえられては肩をぽんぽんと叩かれながらまた耳元で囁かれた。
「本当は俺達、代々の小太郎は話してはいけない存在だ。一族の実質的長になる為には何代目も全て声帯を痛めつける、でも俺の先代は慈悲深い男で助けてくれたんだ」
 途端に小太郎は咳き込みはじめた。話しては駄目という一族のルールならばめったやたらに言葉を発するとは思えないし、久し振りに喉を使っているのだろうと他人事に思った。
「……、だから俺はこんな小さい声でだが話す事が出来る。手加減した筈だから小さい声になっちまうが話せるだろう、けれど仲間の前では、敵の前でも話すな。そしたらお前は殺されてしまう」
 訳がわからなくなった。どうして彼は僕に言葉を話す余裕を与えたのだろう、敵にも味方にも話してはいけないのならいっその事一生話せないように痛めつけてくれればよかったのに。
 それを察したらしい小太郎は僕の頭を喉に怪我与えた腕とはまるで別物なのではとまで思わせる手で撫でてくれた。子供じゃない、と頭を振るなり相手の腕を掴めばやめてくれるのだろうけどどこか懐かしくて制止は出来なかった。
「大切に思いたい奴と話せないだけで仲違いしちまったから、と俺の先代は言ってたかな」
 三代目が一番人間らしかったのかもしれない、と四代目は苦笑しながら言っていた。
「独りだけで話すのは虚しいな。…俺は仕事ばっかして大切な人が見つけられなかった、お前が代わりに見つけてくれよ」
「……ん、父さ…っ」
 ひゅうひゅうと鳴る喉元に無理をさせて言葉を吐けば、口にせり上がってきた物が同時に零れ落ちた。赤い僕と小太郎の髪みたいなそれは血でしかなく、それを見れば小太郎は目を見開いた後に額に手をあてて苦笑をした。
「やっぱり言わなくてもわかるもんだなぁ。ごめんな? これはルールだったから教えてやれなかったし、さっきの戦いで家督をお前に譲った事になってるし俺は隠居決定だから、もう会えないな」
 目尻を下げて困ったように曖昧に笑う父親は今まで会えなかった日付を塗りつぶすかのように鮮明に記憶の中に焼き付けてくれた。
 どたどた、と渡り廊下を人が歩いてくる音がする。それに気付けば小太郎は僕を下ろして、屋根裏へと飛び入って消えてしまった。
「今日から、お前が小太郎だ」
 と、一言を残して。
 それと同時に襖が開けば大振りな木箱を従者に持たせた長が嬉々とした表情で立っていた。
「あぁ、いい目をした跡継ぎを先代は残したね。これが今日から君が着る衣類だよ」
 畳に箱を下ろせば鈍い金属が擦れ合う音がして、蓋を開ければ先ほど争うのに使った対刀と顔を覆い隠すような兜に身体にぴったりと沿いそうな忍び装束が入っていた。
「一度着てみるといい。サイズが合わなかったらもう一度作り直させるから」
 そう言われれば着ざるを得なかった。服に手を伸ばせば着終わったら呼べと言う旨を告げたかと思えばそさくさと部屋を出て行ってくれたので、渡された衣服に袖を通せばいつ採寸したのか疑問になる程に身体の筋肉を浮き彫りにするかのようなサイズをしていた。腰辺りにある金属でこしらえられた防具も籠手さえも完璧に合致した。
 兜も箱には入ってあったが形が気に食わなくて部屋に置いてあった兜を拝借して被る事にした。サイズはてんで合わない訳ではないものの少々大きく目元はおろか鼻まで覆い隠すようなデザインだが別に視界が大幅に妨げられてもさして問題がないような気がした。
 襖をうっすらと開けると長がただ一人残っていてこちらの姿を見ると不審な目をしてこちらを見てきた。入っていた兜を付けていないからだろう、と一人思いながら相手の発言を待つ。
「…その兜を使うとは思っても見なかったけど似合えばいいんじゃないのかな」
 曖昧な返事を零すと髪をむしゃくしゃに弄くれば、大きいため息をつかれた。
「ところで、先代は知らないかな? 代を譲った後は首を跳ねて殺すのが習慣なのだけど」
「…………!」
 頭が真っ白に変色した。籠手を纏っていない方の腕を長に突き出せば襟をひっつかみ、床に叩きつけた。なにやら罵倒している気もしないではないがそんなもの知った事ではなく首から滴る血を指になすりつけて白い敷き布団に文字を書く。
『なぜ』
「それがルールだからだよ、小太郎。私達は闇に生きる者共だ、現役を退いたら重鎮になるか死ぬかの二つしか選択はない」
『先ほどまでの長を』
 自分の血を墨代わりに書いていると知らない内の出血を含めて貧血のような状態に陥った。頭の中がくらくらしてきて兜の重みが耐えきれなくなって外し、籠手も畳に放り投げて筆談を続ける。
「でも今の長は私と君だ。でも君は決定権は持ち合わせていない、だから彼には死んでもらう」
 もう筆談の価値が見受けられもしなかった。ふい、と横を向けば「人殺しになれたらなんて事もなくなる」と不愉快な言葉を残し襖を開け放って出て行ってしまった。戦うわけではてんでないのでタイトな忍び装束を脱ぎ捨て、襦袢を羽織るだけの体制に戻る。先ほど着ていた服に血はついていないだろうかと少々心配になったものの、丁度傷を覆い隠さないデザインだったのか着替える前に渡された包帯のおかげなのか変色はしていなかった。
 それに対してため息をつけば、ひゅうと喉を風が通る音がした。首筋を辿るとよくわかる裂傷傷は致命傷は避けているものの声帯を著しく傷付けられているのが冷静に考えられたら。
 これはきっと背負うべき罰なのだ。命を奪う者として、影に風に生きる魔としての宿命と共に考えが張り巡らせる事が出来た。傷はこんなにも疼き、後遺症は将来を妨げて、痛みを与えた物事は決して忘れられはしないと、先代の小太郎が残していった兜を撫でながらそんな事を学んだ気がした。
 僕も彼のように髪をざんばらに伸ばして何にもかも踏襲して。彼が探しても見つけられなかったモノでも探してみようかと、人殺しだけで一生を全うして終わらない方法を考えあぐねる事に暫く没頭していたいと思う。