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【カイハク】死が二人を分かつまで

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「死が二人を分かつまで」



怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
お前が長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくお前を見返すのだ。



ある夜、郊外の屋敷に、賊が侵入した。
盗まれたのは、僅かな宝石と貴金属。それに銀の食器と蝋燭立て、幾ばくかの現金。
家主は貴重品が盗まれたことよりも、ご自慢の書架を荒らされたことに立腹し、警察に速やかな犯人逮捕を訴えた。
単純な窃盗事件。誰もがそう考えた一夜の出来事は、数日後に一変する。


早朝の悲鳴に叩き起こされた人々が、寝ぼけ眼で噂し合う中、駆けつけた警部は、制服姿の警官達に引き上げるぞと声を掛けた。

「しかし、警部」
「あー、駄目駄目。こいつは、俺ら一般人向けの事件じゃねえんだ。これ以上触るな足を踏み入れるな。お前の首程度じゃすまねえぞ?」

不服そうな警官達を宥めながら、警部は火のついていない葉巻をくわえる。

「てな感じでいいですかい?クリソプレーズさん」
「お気遣い感謝いたします、警部。それと、私のことはクリスとお呼び下さい」

後ろでふわふわと笑う女性に、警部は頭を振って、

「いや、やめときましょう。仕事と魔道士は出来るだけ避けろってのが、死んだじいさんの遺言でしてね」
「残念ですね。生きておられれば、お爺さまと分かりあえたかも知れませんのに」

クリソプレーズの言葉に肩を竦めると、制服警官達を連れて立ち去った。
一人残ったクリソプレーズは、さっと室内に目を走らせる。
盗品であろう宝石や貴金属が散らばる中、無惨に引き裂かれた男の死体が床に転がっていた。手元近くには、何も書かれていない本が開かれている。

「あーあ。遅かったか」

首を振ると、ベッドへと視線を向け、

「今、誰が動けます?」

腰掛けて白紙の本をめくっている男に、眉一つ動かさず問いかけた。

「んー。その前に、どこから入ってきたかくらい、聞いてもらえませんか?」
「玄関から。ルビーが大丈夫でしたよね?あの子、カイトとの相性はどうですか?」
「どうですかねえ。何せ、癖のある子ですから」
「いいわ、ルビーに連絡取って下さい。カイトを連れていくようにと」
「はい、クリソプレーズさん」
「クリスと呼びなさい」