こらぼでほすと 拾得物4
こういいう人だったっけ? と、ライルは、庭と台所を行き来している兄の姿を回廊から眺めつつ、過去を振り返る。とはいっても、十四、五年も前のことだから、かなりあやふやだ。確かに、妹の世話は、よくしていたと思う。
「えーーーーー俺らのないのーーー? なんでーーーー? 」
「ごめんごめん、でも、チューリップとおにぎりはあるから、それだけ詰めるか? 」
「いえ、そのままでいいですよ、ママ。シン、俺たちは、連絡してなかったんだから諦めろ。」
年少組のシンが、自分の分がないと喚いているのを宥めているのを見ると、ああ、兄さんだなーと思う。エイミーが、駄々っ子すると、あんなふうに謝っていたからだ。
・・・・しかし、あの性格で、テロリストってーのが、すっごく笑えるんだけど?・・・・
周りの世話をして、わたわたと日常を送っている人が、元テロリストだった、と、言っても、俄かに信じられない。だが、組織での兄の評価は高かったから、ライルは比べられて辛かったのも事実だ。
どげしっっ
ぼーっと眺めていたら、ケツに蹴りが入った。外へ運ぶ荷物を手にしているライルのダーリンだ。
「手伝え。」
「うん。」
境内の新緑の美しい桜の木の下に席は作られていた。歌姫がデリバリーさせた料理が、ちゃんと、低い卓に準備され、飲み物も冷やされている。
そこへ、ニールが朝から作った家庭料理も並べられる。それらを運んでいるのが、刹那と悟空だ。
「オーナー、そろそろ始めましょうか? 」
吸い物を配り終えた八戒が声をかける。一応、酒も用意しているが、軽いピクニック風なので、本格的に飲むほどではない。料理のほうは和洋折衷に、いろいろなものが大皿盛りにされていて、各自で取り分けるバイキング方式である。もちろん、ランチボックスは、配布されている。小ぶりの紙箱に、キレイに盛り込まれたお弁当だ。
「では、無事生還記念パーティーパートツウを始めましょう。ライルさん、おかえりなさい。」
歌姫の音頭で、食事会は始まった。別に来賓の挨拶とかライル本人の紹介があるとかいうことはない。基本、無礼講。名目だけ記念パーティーというだけだ。
刹那は、やっぱり、ニールの右側に座って、ランチボックスを開けている。そして、その刹那の右側にライルが座っている。ある意味、見事なシンメトリーを成しているわけで、周囲もそれを見て、ほおう、と、感心する。
「飲んでばかりいないで、食事しろ。」
「さっき、詰めながら、つまみ食いしてたから、ちょっと休憩。」
「嘘をつけ。ほら、口を開けろ。」
で、いちゃこらしているように見えるのが、親子猫のほうだから、なんだか、おかしい。強引に、おにぎりを口にかぶらせているのが刹那で、齧らされているのがニールだ。相変わらず、黒猫は、親猫のことになると饒舌で世話焼きだ。
「あーーー僕もする。はい、ママ、あーん。」
キラが、ニパニパと笑いつつ、焼き鳥を口元に運ぶ。
「だあーーーーっっ、おまえは、アスランにやってこいっっ、キラっっ。」
「あら、それじゃあ、私が・・・・」
今度は、ラクスが、焼き海老を差し出す。うりうりと、口元に差し出されるから、仕方なく口にする。すると、キラが、ずるいっっと、やっぱり、口元に運ぶ。
「なに? そのハーレムは? 」
ライルが驚いているが、誰も気にしない。だいたい、こういう席で弄られるのは、ニールになっている。
「いよっっ、ママっっ、人気者っっ。」
「ハイネ、てめぇー代わってやるから来いっっ。」
やだよーん、と、ハイネは、手を振って逃げていく。食べないと、こういう目に遭わされることになっているのは、いつものことだ。
「ラクス、キラに食わせろ。俺はいいから。・・・・・シン、酒はやめとけよ? レイ、シンの見張りな? 悟浄さん、ビール足りてますか? 」
で、まあ、こういう場面でも他人のことばかりになってるのが親猫で、ちっとも食べている暇はないのだ。だから、刹那が、その腕を取って座らせるし、その前でキラとラクスが、あーんとする。おまえが食べろという無言の圧力であるらしい。
「いいなーー俺も、刹那に、あーんして欲しいなーーーー」
それが羨ましいと、ライルが口を尖らせているが、当の刹那は、すっきり無視だ。
「刹那、ライルも構ってやれよ、拗ねてるから。」
「そうだよ、刹那。嫁にしたなら、世話は刹那の仕事だからね。」
「キラ、おまえの言い方も、どっかおかしいと俺は思うんだがな? 」
「え? そうかな? 」
天然電波に常識を求めてはいけない。何年も、それを見ているが、どうしても慣れないものだ。ごたごたとキラたちと騒いでいるニールは放置して、ハイネが、まずライルに挨拶をする。もちろん、マトモな挨拶ではない。
「これからよろしくな。俺は、ハイネ・ヴェステンフルス。あんたの兄貴の間男をしてる。」
「え? 」
「ママを嫁にしたいってのは、多いんだぜ? 三蔵さんに先を越されたから、間男なんだよ。」
「おいおい、ハイネ。聞き捨てならないな、よろしく、ライル。きみのお兄さんの恋人のムウ・ラ・フラガだ。きみは結婚してるんだねぇー残念だな。」
「はあ? 」
「ふたりとも、冗談はやめてくださいよ、本気にされるでしょ? 初めてましてでもないんですが、ライルさん。無事で何よりでした。」
「まったく、あんたらのはシャレになってねぇーよ、ライル、嘘だからな。」
ライルのほうへやってきた面々は、挨拶して、ビールを注ぐ。いや、こちらこそ、と、ライルも愛想良く挨拶する。一応、大手商社で営業マンをやっていたから、この程度の社会性は身についている。
ちょっと話していて、何気に兄のほうを見たら、コップが空だ。それで、ビールをいれてやろうとしたら、鷹に、その手を止められた。
「危ないだろ?・・・・・ ママ、飲み物は何がいい? 」
お茶をお願いします、と、振り向いて軽く会釈するニールに、鷹が、ご所望のものを取りに行く。ビールはダメだったのか、と、思ったら、ハイネが苦笑しつつ、ライルの肩を叩いた。
「ママ、右側の視界が狭いから、そっちから接近するとびっくりすんだよ。それと、酒も弱いから、ビールをコップ三杯ぐらいで十分なんだ。覚えといてくれな? 」
「え? それ、どういう・・・・」
まったく、と、ハイネと悟浄が呆れたように刹那を睨む。全然説明していないのかよ、と、ツッコミを入れる。どうも、黒猫は言葉が足りない。
「ライルさん、ニールは怪我が元で右目の視力がないんですよ。それから、身体も普通の人より弱ってるんで、お酒もあんまり飲めないんです。日常生活は、普通に送れてますが、それ以上のことはできないので、そのつもりでいてくださいね。」
そして、ツッコミして説明しないハイネと悟浄を押し退けて、八戒が説明する。この程度の情報くらい渡しておいてくださいよ、刹那君、と、内心で、ツッコミしているのは同じだ。
「右目? 」
「だから、せつニャンは右側にくっついてんのさ。もう、慣れてるから、危ないことはないんだけどな。最初の頃は、距離感が掴めなくて苦労してたからさ。」
「えーーーーー俺らのないのーーー? なんでーーーー? 」
「ごめんごめん、でも、チューリップとおにぎりはあるから、それだけ詰めるか? 」
「いえ、そのままでいいですよ、ママ。シン、俺たちは、連絡してなかったんだから諦めろ。」
年少組のシンが、自分の分がないと喚いているのを宥めているのを見ると、ああ、兄さんだなーと思う。エイミーが、駄々っ子すると、あんなふうに謝っていたからだ。
・・・・しかし、あの性格で、テロリストってーのが、すっごく笑えるんだけど?・・・・
周りの世話をして、わたわたと日常を送っている人が、元テロリストだった、と、言っても、俄かに信じられない。だが、組織での兄の評価は高かったから、ライルは比べられて辛かったのも事実だ。
どげしっっ
ぼーっと眺めていたら、ケツに蹴りが入った。外へ運ぶ荷物を手にしているライルのダーリンだ。
「手伝え。」
「うん。」
境内の新緑の美しい桜の木の下に席は作られていた。歌姫がデリバリーさせた料理が、ちゃんと、低い卓に準備され、飲み物も冷やされている。
そこへ、ニールが朝から作った家庭料理も並べられる。それらを運んでいるのが、刹那と悟空だ。
「オーナー、そろそろ始めましょうか? 」
吸い物を配り終えた八戒が声をかける。一応、酒も用意しているが、軽いピクニック風なので、本格的に飲むほどではない。料理のほうは和洋折衷に、いろいろなものが大皿盛りにされていて、各自で取り分けるバイキング方式である。もちろん、ランチボックスは、配布されている。小ぶりの紙箱に、キレイに盛り込まれたお弁当だ。
「では、無事生還記念パーティーパートツウを始めましょう。ライルさん、おかえりなさい。」
歌姫の音頭で、食事会は始まった。別に来賓の挨拶とかライル本人の紹介があるとかいうことはない。基本、無礼講。名目だけ記念パーティーというだけだ。
刹那は、やっぱり、ニールの右側に座って、ランチボックスを開けている。そして、その刹那の右側にライルが座っている。ある意味、見事なシンメトリーを成しているわけで、周囲もそれを見て、ほおう、と、感心する。
「飲んでばかりいないで、食事しろ。」
「さっき、詰めながら、つまみ食いしてたから、ちょっと休憩。」
「嘘をつけ。ほら、口を開けろ。」
で、いちゃこらしているように見えるのが、親子猫のほうだから、なんだか、おかしい。強引に、おにぎりを口にかぶらせているのが刹那で、齧らされているのがニールだ。相変わらず、黒猫は、親猫のことになると饒舌で世話焼きだ。
「あーーー僕もする。はい、ママ、あーん。」
キラが、ニパニパと笑いつつ、焼き鳥を口元に運ぶ。
「だあーーーーっっ、おまえは、アスランにやってこいっっ、キラっっ。」
「あら、それじゃあ、私が・・・・」
今度は、ラクスが、焼き海老を差し出す。うりうりと、口元に差し出されるから、仕方なく口にする。すると、キラが、ずるいっっと、やっぱり、口元に運ぶ。
「なに? そのハーレムは? 」
ライルが驚いているが、誰も気にしない。だいたい、こういう席で弄られるのは、ニールになっている。
「いよっっ、ママっっ、人気者っっ。」
「ハイネ、てめぇー代わってやるから来いっっ。」
やだよーん、と、ハイネは、手を振って逃げていく。食べないと、こういう目に遭わされることになっているのは、いつものことだ。
「ラクス、キラに食わせろ。俺はいいから。・・・・・シン、酒はやめとけよ? レイ、シンの見張りな? 悟浄さん、ビール足りてますか? 」
で、まあ、こういう場面でも他人のことばかりになってるのが親猫で、ちっとも食べている暇はないのだ。だから、刹那が、その腕を取って座らせるし、その前でキラとラクスが、あーんとする。おまえが食べろという無言の圧力であるらしい。
「いいなーー俺も、刹那に、あーんして欲しいなーーーー」
それが羨ましいと、ライルが口を尖らせているが、当の刹那は、すっきり無視だ。
「刹那、ライルも構ってやれよ、拗ねてるから。」
「そうだよ、刹那。嫁にしたなら、世話は刹那の仕事だからね。」
「キラ、おまえの言い方も、どっかおかしいと俺は思うんだがな? 」
「え? そうかな? 」
天然電波に常識を求めてはいけない。何年も、それを見ているが、どうしても慣れないものだ。ごたごたとキラたちと騒いでいるニールは放置して、ハイネが、まずライルに挨拶をする。もちろん、マトモな挨拶ではない。
「これからよろしくな。俺は、ハイネ・ヴェステンフルス。あんたの兄貴の間男をしてる。」
「え? 」
「ママを嫁にしたいってのは、多いんだぜ? 三蔵さんに先を越されたから、間男なんだよ。」
「おいおい、ハイネ。聞き捨てならないな、よろしく、ライル。きみのお兄さんの恋人のムウ・ラ・フラガだ。きみは結婚してるんだねぇー残念だな。」
「はあ? 」
「ふたりとも、冗談はやめてくださいよ、本気にされるでしょ? 初めてましてでもないんですが、ライルさん。無事で何よりでした。」
「まったく、あんたらのはシャレになってねぇーよ、ライル、嘘だからな。」
ライルのほうへやってきた面々は、挨拶して、ビールを注ぐ。いや、こちらこそ、と、ライルも愛想良く挨拶する。一応、大手商社で営業マンをやっていたから、この程度の社会性は身についている。
ちょっと話していて、何気に兄のほうを見たら、コップが空だ。それで、ビールをいれてやろうとしたら、鷹に、その手を止められた。
「危ないだろ?・・・・・ ママ、飲み物は何がいい? 」
お茶をお願いします、と、振り向いて軽く会釈するニールに、鷹が、ご所望のものを取りに行く。ビールはダメだったのか、と、思ったら、ハイネが苦笑しつつ、ライルの肩を叩いた。
「ママ、右側の視界が狭いから、そっちから接近するとびっくりすんだよ。それと、酒も弱いから、ビールをコップ三杯ぐらいで十分なんだ。覚えといてくれな? 」
「え? それ、どういう・・・・」
まったく、と、ハイネと悟浄が呆れたように刹那を睨む。全然説明していないのかよ、と、ツッコミを入れる。どうも、黒猫は言葉が足りない。
「ライルさん、ニールは怪我が元で右目の視力がないんですよ。それから、身体も普通の人より弱ってるんで、お酒もあんまり飲めないんです。日常生活は、普通に送れてますが、それ以上のことはできないので、そのつもりでいてくださいね。」
そして、ツッコミして説明しないハイネと悟浄を押し退けて、八戒が説明する。この程度の情報くらい渡しておいてくださいよ、刹那君、と、内心で、ツッコミしているのは同じだ。
「右目? 」
「だから、せつニャンは右側にくっついてんのさ。もう、慣れてるから、危ないことはないんだけどな。最初の頃は、距離感が掴めなくて苦労してたからさ。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義