こらぼでほすと 拾得物4
黒猫も紫猫も、いつも右側に居る。それは、右目の代わりをしているからだ。五年前からずっと、それはそのままで、親子猫たちも無意識に、そう並ぶようになってしまっている。
鷹が、温かいお茶を運んで、左側へ座り、それから手渡している。ごく普通にしか見えないから、ライルは気付かなかった。鷹が、そのまま肩を抱きにかかった時点で、悟空のライダーキックと、シンのロボットパンチが炸裂しているのが、微笑ましい光景だ。さらに、止めに、レイがスリーパーホールドで首締め技を仕掛けている。
「ギブッッ、ギブッッ。レイ、マジギブッッ。」
「いい加減やめてください、鷹さん。ママは、うちと三蔵さんとこで半分んこなんですから。」
レイは、トダカ家の人間みたいなもんだから、トダカ家でニールを確保が基本だ。なんせ、そうすると、美味しいものが食べられて、至れり尽くせりの世話をして貰えるからだ。
「レイ、その辺でやめとけっっ。こらっっ刹那、参戦するなっっ。」
もちろん、うちのおかんに何をする、と、イノベーター様も参戦だ。さらに足技なんぞ決めているし、シンと悟空は足の裏をこしょばせていたりする。年少組も連合されると、鷹でも太刀打ちが出来ない。ぎゃあぎゃあと暴れるのを笑いつつ、ニールが止める。刹那の肩を、トントンと叩くと、すぐに刹那は、ニールの右側に立つ。悟空も、シンとレイも、ニールの声で手を止める。餌付けされた年少組は、ニールの言うことだけは聞く。
「あの人さ、あれでいいんじゃねぇーかな。俺、あの人が、MS転がしてたったほうが想像できないよ。」
それを観て、ライルは微笑む。一回死んだんだから、もういいじゃないか、と、思うのだ。今までと入れ替わっただけだとも思う。地上に居た自分と宇宙に居た兄。その居場所が変わっただけだ。身体も右目も犠牲にして、辛うじて生き延びたのだとしたら、もう、十分だと思う。
・・・・・・一人にしないでくれよ、兄さん。俺、まだ、墓に名前彫ってもらってないんだからさ。あんたが彫ってくれないと家族勢揃いしないんだぜ?・・・・・・
ここにいてくれれば、摺り抜けて消えてしまうことはない。そう思うと、少しぐらい身体が壊れていてもいいや、とか思ってしまう。
「そりゃ、ライルくんは、五年前を知らないからねー。」
トダカは、そう苦笑した。穏やかな表情の裏に、かなりの挫折と諦めを隠しているのを知っているから、見た目で図れるものは少ない。四年前は、戻りたいともがいていたのだから。
「ライルもさ、ママが寝込むようなことはしてくれるなよ? 寝込まれると、いろいろ困るんだからな。」
ハイネも、そう戒める。かなり近しいところにいたハイネは、その葛藤をよく知っている。できれば、マイスターたちは無事でいてほしい、と、思う。
「俺? 俺は大丈夫さ。なんせ、刹那との愛に生きるからさ。」
「・・・・あ、そうなんだ。」
「うんっっ。」
「おまえ、ママと全然違うな? せつニャンが間違えないわけが、ちょっとわかったぞ。」
ライルとニールは全然違う、と、刹那は言うのだが、確かに全然違うと、ハイネも感じた。というか、こんなノーテンキだったら、ニールも寝込まないんだろうなーと考えた。
昼間から夕方まで、ぐだぐだと宴会は続いたので、夜の食事も、それで賄えた。解散したのは、宵闇が迫る時間だった。
「なあ、刹那。」
片付けも終わって、全員が帰ってから、ライルは、のんびりテレビを見ている刹那の頬をツンツンとつついた。
「なんだ? 」
「可愛がって欲しいんだけど? 」
「ああ、わかった。じゃあ、マンションに帰るぞ。」
「え? ここでいいよ。濃厚によろしく。」
で、この会話が二人だけというなら、いちゃいちゃしているだけだが、側には寺の住人も揃っているのが、ミソだ。ぐふっと、ニールと三蔵が、お茶に咽る。悟空は、ニヤニヤと、その会話に笑っている。
「ニール、マンションの鍵を貸してくれ。」
ごく普通に、刹那は、えふえふいってるニールに手を差し出して、そう頼む。
「生々しい会話は、二人でやってくれないか? うちのママには、毒だぞ? 」
さらに、げふげふと咳をしているニールを眺めつつ、三蔵が返事する。いくらなんでも、実の弟と、黒猫の生々しい夫夫生活なんて聞きたくもない。
「そうか。すまない、ニール。こいつは、こんななんだ。わかりやすくていいんだが。」
刹那にすると、やりたい、と、はっきり言ってくれるほうが有難い。恋の駆け引きとか、秋波なんてものでわかれ、というのは無理だ。
「・・・うっうん・・いいんだけどさ・・・・・・マンションな。」
居間のチェストから、カードキーを取り出して渡す。いつ、誰が帰ってきてもいいように、あちらは掃除してあるから、問題はない。俺のいないところで、いちゃこらしてくれ、と、内心でツッコんだのは言うまでもない。
「冷蔵庫は、電源切ってある。だから、何もないから、コンビニで買い物していけよ。」
「わかった。また、明日、戻ってくるつもりだ。」
「えーーー爛れたことしようぜ? せっかく、時間制限なしなんだからさ。」
・・・・・・うわあーーー聞きたくねぇーーー・・・・・・
ニールの頬が引き攣る。
「それでもかまわないぞ、ライル。」
「刹那、ママが困ってるから、さっさと行け。・・・・・ママ、大丈夫か? 」
刹那のストレート言語も、ライルのエロエロ言語も、悟空には効果はない。普段から、キラの天然電波言語とか、無意識いちゃこら沙・猪家の夫夫会話とか聞いているから、びっくりするほどではないからだ。
「着替え、もしかしたら、おまえのは小さいかもしれない。ライルは、俺のがあるから、どうにかなるだろ。」
で、そういうことに気付くのが、おかんだ。ちょっと前に刹那が戻った時も、背が伸びていて、ちょっとサイズが小さかったことを思いだした。
「どうにかする。」
「お金は? カード持ってるか? 」
「持ってる。歌姫から貰った。」
「兄さん、金は心配いらないぜ。俺、あんたからの仕送りを残してるからさ。」
「ああ、じゃあ、刹那の着替えを買ってくれよ、ライル。」
「了解。さあ、ダーリン、行こう。」
立ち上がって、ルンルンとライルは刹那の腕を取る。刹那のほうも、立ちあがって、「じゃあ、また。」 と、部屋から出て行った。玄関の閉まる音がしてから、たはーと、ニールは息を吐く。
「中身はかなり違うな? 」
「てか、刹那って、あれでいちゃいちゃしてるつもりなのかな? 」
「ごめん、もう、聞きたくない。」
卓袱台に突っ伏してニールが泣き言を呟くと、すぐに、悟空が話題を変えた。
「うんうん、ほら、お茶でも飲んでさ。テレビでも見ようよ。俺、風呂沸かしてくる。」
とたたたたーと、廊下へ出て行った悟空を見送って、三蔵も、ちょっと複雑な顔をする。まあ、あまり聞きたくないだろう。
「慣れろ。イヤなら、あのアホを躾けろ。」
「・・・・できません・・・」
「諦めろ。」
「・・・そうですね・・・・俺、刹那が、ああいうことを普通に言うのが、一番心臓に悪いです。」
「キラは、もっと酷いぞ? 」
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義