こらぼでほすと 拾得物4
梅雨の季節だけは、ニールは寺に滞在していない。だいたい、寒暖差で、具合が悪くなって、歌姫の別荘か本宅で寝込んでいることになる。それが落ち着くと、しばらくは実家と化しているトダカ家で、のんびりと暮らして、初夏あたりに寺に戻る。そして、今度は、三蔵と悟空が、七月か八月に三蔵の所属する宗教界の本山へ仕事で戻るというスケジュールになっていて、その間は、ハイネとニールが寺の留守番をしている。
「ちびたちは、どうなんだ? 」
「すぐではないけど、また宇宙へ戻るでしょう。・・・・・・・あんまり変わらないんじゃないですか? まあ、心配は減ると思うけど。」
組織は存続する。刹那たちも、現役続行だ。だから、今までとあまり変わらないだろう。たまに、降りてきて、こちらに顔を出すぐらいのことだ。
「きっちり親離れしやがったな? ちびは。」
「そうですね。悟空だって、そうでしょう? うちの子たちは、みんな、自立してて強いですよ。それで、優しいですからね。どこへ出しても恥ずかしくない子たちです。」
ここ数年、何かと年少組の面倒を見ていたニールからすると、どの子もべた褒めになる。『吉祥富貴』の年少組も、成人して、自分の道なんてものを模索している。今は、何をするかで迷ったりもしているが、それでも後ろを振り返っていない。だからといって、保護者を蔑ろにすることもない。ちゃんと、それなりのコミュニケーションは取れていて、仲も良いのだ。シンたちは、プラントへ戻るかもしれないが、トダカは、それでもいいだろうと納得している。たまに、顔を見せてくれるなり連絡してくれれば、保護者としては満足なのだ。
切れるものではない絆だから、寂しくても悲しいものではないんだよ、と、トダカは言う。そこまでの心情に、三蔵もニールも到達はしていないが、トダカの言うことは理解は出来る。たぶん、ニールのほうが早く手放してしまうことになる。
「サルは、まだ、だ。あれで満足してろ。」
「いや、かなり親離れしてますよ。あんたが寂しいから、そういうことにしたいだけでしょ? 」
「おまえだって、そうだろ? せっかく帰って来たのに、ちっとも側にいやがらねぇーと嘆いてたくせに・・・・・」
「まさか、ライルと結婚してるとは思わなくて・・・・どうしていいんだか、なんで。」
有り体に言うと、息子が嫁を伴って帰ってきたことは喜ばしいのだ。ただ、その嫁というのが、十四、五年ぶりの実の双子の弟というのが、ミソなわけで、何を話したらいいのかも、よくわからないなんてことになっている。そして、息子の刹那は、相変わらずのストレート言語で、仲を取り持つなんて芸当は不可能だったりもする。
どちらも話せないことが多すぎて、面と向かって会話することもできない。特に、ニールの過去なんて、話したくない事柄だらけだ。
「気にするから、話し辛くなるんじゃねぇーのか? 距離感なんて慣れれりゃ、どうにかなる。」
「そういうもんですかねー?」
「どうせ、縁は切れないんだ。気長にやりゃーいんんだよ。どうも、おまえは気が短いってか、なんでも即断即決しようとする。悪い癖だぞ?」
スパーと紫煙を吐き出して、坊主は障子を開いて、脇部屋の廊下から灰を外へ落とす。
「はははは・・・・もうクセになってて抜けなくて。」
「あっちだって、そう思ってんじゃないか? 」
「・・・・・そうですね。」
ニールも苦笑している。雨が、ぽつぽつと落ちていて、本格的に降り出しそうな様相の空になっている。少し涼しいぐらいの温度で、布団を肩まで被って、その雨模様を眺めている。
外から黄色の傘が入ってきて近寄ってくる。傘から現れたのは鷹の顔だった。
「三蔵さん、あんた、携帯を、どっかに放置してるだろ? 連絡入れたのに繋がらないから探したぜ。」
「おう、何か用か? 」
「オープニングの衣装さ、全員が色を変えることになったんだけど、あんた、紫と黄色のどっちがいい? 」
「その両極端な選択肢は何事だよ? 鷹さん。」
「瞳の色か髪の色とのマッチング。ちなみに、ママは緑だ。ライルとお揃いで、刹那が青。キラも青だが、こっちは、紺碧ってやつ。まあ、そういう感じで、イメージカラーをホストがスーツで表現することになってるんだ。」
「なら、赤でいいだろ?」
「悟浄が赤なんだ。」
ちょっと携帯を貸せ、と、三蔵は、悟浄に連絡して、「ゴキブリは赤茶にしろ。」 と、怒鳴っている。
「具合は、どうだ? 」
それを横目に大笑いしつつ、鷹は、ニールのほうへ声をかける。
「いつも通りです。・・・・明後日には、どうにかなってますよ。刹那とライルは、店へ顔を出しましたか? 鷹さん。」
「ああ、やっぱり、あいつは筋肉があるから、おまえさんよりスーツの幅が必要みたいでさ。直しをしてもらってるよ。・・・・・・なんか、キラが言うには、おまえさんの治療もできる可能性がみつかったらしいぞ。」
「え? 」
ただし、ダブルオーのツインドライブシステムと刹那が揃ってないとダメなんで、ちょっと先のことになると思うけどなー、と、鷹は、お気楽に重要なことを伝えて来る。
「なっ治るんですか? 」
「らしい。・・・・ダブルオーを作り直す時間は、まだかかるだろうけどな。」
大破しているダブルオーは、ほとんど一から作り直しだから、その時間は、かなりかかるだろう。それでも、治る可能性があるというのなら、待つ時間も気にならない。
「完全に治るかどうかは、まだわからないからな。可能性が出てきたってとこだけ、覚えておくように。」
ぬか喜びにならないように、鷹は釘は刺す。復帰できるかどうかまでは判明していないからだ。ただ、起き上がれなくなるのだけでも解消させてやれたらな、と、スタッフは思っている。
「おい、鷹さん。俺は、赤にしてれ。エロガッパは赤茶だ。」
どうやら、交渉は終わったらしく、三蔵が携帯を鷹に投げて寄越す。赤って・・・と、その破壊力のありそうな衣装に、ニールも鷹も意見したいのだが、坊主は、どこ吹く風と流すだろう。顔が派手だから、シャツの色で、どうにかなるんだろうと、自分たちを納得させることにはした。
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義