こらぼでほすと 拾得物4
シンの手には、果物が詰められたタッパーが、レイの手には、また、おどろおどろしい液体の入ったペットボトルがある。だいたい、天気予報で、スタッフも判るから、差し入れが届く。
「おう、悪いな、シン、レイ。そこ、置いといてくれ。」
「はあ? 聞こえないぜ? てか、良薬口に苦しだろ? レイの飲んで、口直しに、これだからな。」
ずるずると、ニールの身体はレイが起こして、自分の身体にもたれさせている。そして、王子様顔の涼しい声で、「飲まないなら、力づくですから。」 と、耳元で囁かれるに至って諦めてニールも口にする。二日酔い用のものよりは、マシではあるが、まずいものはまずい。うえーーーーーーと、舌を出すと、シンが、輪切りのバナナを、すかさず、口に放り込む。
「刹那、お粥もちょっと食わせろ。それからクスリ飲ませるからな。」
「了解した。」
そして、刹那も、この世話は慣れたものだ。有無を言わせてはいけないのだ。土鍋を近付けて、レンゲで、ニールの口へ運ぶ。ふた口ほど食べさせると、すかさず、シンがクスリを放り込み、最後にレイがお茶を、目の前に差し出す。慣れているからこその連携というものだ。その間、ライルは、あまりの手際の良さに見ているだけで終わってしまった。
「・・・おまえらな・・・・俺は寝たきり老人じゃねぇーんだよ。」
「いや、近いもんがある。だいたいさ、悟空が用意していったもんに手をつけてないだろ? その段階でダメな病人確定だ。なあ? レイ。」
「まったくです。悟空が、わざわざメールをくれたんですよ。八戒さんに漢方薬を頼んでくれたのも、悟空なんです。」
刹那が戻れなかった時間で、すっかり悟空が、ニールの介護担当者に落ち着いている。具合が悪くなる前に、さっさとナマケモノモードにさせるから、ダウンしても軽傷で済んでいる。悟空にするとおとんとおかんの世話は、俺の担当だからな、ということだったらしい。はい、終わり、と、レイと刹那が、ニールを布団に沈め、シンが後片付けをする。終わると、シンは立ち上がる。
「刹那、俺らは、これで帰る。後は、夕方までに一回水分摂らせろよ。じゃっっ。」
「残りは、冷蔵庫にいれておくから、食べられそうだったら食べさせてくれ。」
おまえが食べてもいいぞ、と、レイも立ち上がる。こちらも用事が済んだら、次の用事が目白押しだ。なんせ、オープンセレモニーまで、残り丸二日しかないのだ。
「あっ、忘れてた。ライルさん、あんたのお披露目するからさ、明日にでも店のほうに顔出してくれる? 衣装合わせするから。」
「え?」
もちろん、歌姫は、出し惜しみはしない。ライルのお披露目だって、一緒にやっちゃうのだ。ティエリアたちが降りてきたら、マイスター勢揃いで、また、お披露目はするが、とりあえず、ニューフェイスということで、紹介するらしい。
「ママの具合がよかったら、だぶるロックオンということにします。よろしいですね? ママ。」
やるなら徹底的に、が、基本の『吉祥富貴』だから、ニールとライル真ん中に刹那でお披露目するつもりで計画している。ダブルロックオンだから、同じ衣装だが、体型がかなり違うからライルだけは試着が必要になる。
「俺はいいけどさ。ライル、大丈夫か? 」
おまえさん、前の時は、えらいことになってたもんな、と、ニールは笑っている。ライルは、以前一度だけ、『吉祥富貴』で、ホストをさせられている。組織から特別ミッションだと、オーダーが出たから、何も知らずに降りて来たのだ。その際に、お客様に蹴られるわ、ドライブで怖くて叫びまくるわ、で、へとへとになっていたのだ。
「兄さん? なんで知って・・・・あんた、もしかして・・・・」
「二階から見てた。あのお客様は、元々俺のお客様だからな。挨拶だけはさせてもらったんだよ。」
ライルには生きていることは内緒だったから、お客様に、一人ずつの接客をさせてもらった。
「あの女、また来るのか? 」
「そりゃいらっしゃいますよ。ダブルロックオンを楽しみにしていた方ですから。」
「次、殴ってもいいか? 兄さん。」
「・・・・返り討ち覚悟ならな。刹那、俺の買い物したら、そのまま店に顔を出してこい。試着なら早いほうがいい。」
どうやら、実弟は店に出る前提で喋っているので、それなら、それでいいか、と、ニールは刹那に誘導させることにした。日曜は、晴れるよ? と、キラが言ってたから、明日には楽になっているだろう。じゃあ、一緒に行こう、と、四人がいなくなったので、やれやれと、ニールは寝たまま伸びをして、また、ぐだぐだナマケモノモードで布団の中で丸くなる。
ティエリアからの報告を確認して、虎たちエターナル組も一端、地上へ降りることになった。まだ、一ヶ月ちょっとかかると言われたら、さすがに、戦艦で待機しているには時間が余るからだ。
「イザークたちは、どうするんだ? 」
プラントが拠点であるイザークとディアッカは、わざわざ、特区へ降りなくてもいい。一ヶ月もあるなら本業のほうへ顔を出してもいいのだ。だが、イザークは、ふっと笑った。
「ラクス様から、ケーキ選定の依頼が来ている。手配はしたが、チェックは俺がやるべきなんでな。」
「特区の店だからさ、俺らも、あっちへ降りるぜ。虎さん。」
そう言われて、もう、そんな時期か、と、思いだした。だから、鷹とアスランも、戻って来いと連絡してきたのだろう。せっかくなら、マイスター組も勢揃いさせたかったところだが、ちょっと間に合わなかった。
各人の誕生日も、それなりのお祝いをするが、キラは特別だ。『吉祥富貴』のナンバーワンで、オーナーの想い人で、なんていうか、もう、いろんな意味で、『吉祥富貴』を代表する人物だからだ。毎年、上得意のお客様も招待して、この日は騒ぐのが通例になっている。
「そういうことなら降りるとするか。ダコスタ、ドックの責任者のところへ行くぞ。」
歌姫から言われなくても、そういうことなら、お祭り騒ぎには参加する。エターナルは、定期点検まで二ヶ月あるから、ティエリアたちが降りられるようになったら、こっちに戻ることにすればいい。それまでは、ドックに係留して、エターナルも、しばらくお休みだ。
「おら。」
「ああ、すいません。」
ぼおーっとしていたら、ペットボトルが出てきた。本堂の地下で射撃練習をしていたのか、坊主からは硝煙の匂いがしている。様子を見に来てくれたらしい。
あまり動かないと評価されている三蔵だが、誰もいなければ、ちゃんと世話はしてくれる。まあ、憎まれ口は、もれなく付随はしているが、それも、本心ではないから、ニールのほうは気にしない。
「来月は、どうするつもりだ? 」
「まあ、いつも通り、前半はドクターのとこで、後半は、トダカさんちでしょうね。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物4 作家名:篠義