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Behave badly

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木々が立ち並ぶ並木道沿いの壁を飛び超え、裏路地に向かう。
ようやく抜け出せた包囲網に安堵の息をつきつつ、速度を徐々に落とす。あの何処でも瞬時に移動できる鍵を使えばいい話だが、あれは情報管理室によって管理されているため、居場所がすぐばれてしまう。
あの鍵一つでどのように管理するのか、甚だ疑問だが、世の中知らない方が身のためになることがある。摩訶不思議な鍵もそのうちの一つであろう。
裏路地を器用に走り抜け、目指す先は燐にとって何より大切な場所である。――南十字男子修道院。
燐がまだ十歳のころ、両親が亡くなり、それからずっと過ごしてきた場所でもある。腕時計に視線を落とし、目の前の修道院を見上げる。未だ明かりは灯っていない。夜が明けてまだほとんど時間が経っていないのだから、皆寝ているのだろう。吹き抜ける肌寒い風に身を竦ませる。しばらくの逡巡の後、裏手に回ると続く塀に飛び乗る。そのまますぐ目の前に迫る屋根に飛び移れば、古い瓦が軋みを上げ燐の足元を不安定に揺らす。定まらない足場を必死に確保しながら、壁伝いに目的の窓まで慎重に足を進める。
そっと、そっと。音を立てないように窓を開ける。備え付けの悪い――いや、老朽化が激しいため鍵が閉まらない窓をゆっくりと開ける。カタリと音が鳴り、燐は動きを止めた。そして、耳を欹てる。しんと静まり返った部屋にほっと息を吐く。そして、さらに慎重に開けてゆけば、見えたのは未だ薄暗い室内である。靴を脱ぎ、身体を滑り込ませると燐は唇を引き上げた。視線の先は二段ベッド。ゆっくりと近づき、ベッドの傍に膝を折る。聞こえてくるのは、穏やかな寝息である。覗きこんだ先にいるのは、まだあどけなさが残る少年であった。
燐にとってたった一人の肉親――十歳年下の弟はまだ中学生である。癖のない、少し茶色みがかった黒髪に手を伸ばす。目を細め、そのまま手を頬に滑らせれば、胸の内に溢れたのはじんわりとした温もり。
「――雪男」
起こさないようにゆっくりと顔を近づけた時だった。
またしても後頭部に衝撃を感じ、弟の眠るベッドに倒れ込んだ。
「――コソコソ帰ってきたと思ったら、何弟の寝込みを襲ってやがる」
痛む頭を押さえつつ、振り返った先にいたのは燐と雪男の後見人である藤本獅郎だった。この修道院で神父を務めるものでもある。黒いカソックを纏い、首に掲げる十字架は燐の胸に輝くものと同じである。
「~~~何しやがる!クソジジイ!」
死んだ両親のかわりに自分たちを育ててくれた養父であり、燐の上司でもある。最上位聖騎士――祓魔師の頂点に君臨する男は、腰に手を当てると燐を見据えた。
「ほお~~口だけは相変わらず一人前だな。――神木君から連絡があったぞ。お前、また報告をサボったそうだな?まったく、いい加減そのサボり癖を直せ、ついでに、誰かれ構わず盛るのはやめろ。今月入ってもう、四人だぞ?そろそろ身を固めたらどうだ」
いつもと同じ説教が始まり、燐は床に胡坐をかいたまま口を尖らせた。任務のサボりが養父にばれたとなれば、すぐさま支部に連行されるのが落ちだ。癪に障るが、もはや諦めるしかないだろう。腹を括り、立ち上がった時だった。
「――兄、さん?」
聞こえてきたのは、寝惚けた声。慌てて振り返った先にいたのは、半分瞼が閉じたままの弟だった。燐を捉えると、ふにゃりと笑みを零し笑う。その姿に燐も顔を綻ばせていた。
「また、仕事なの?」
「ん?――ああ、まあな」
「そっか、せっかく会えたのに……。気を付けてね」
――いってらっしゃい。
そう言って笑う弟の頭をくしゃりと撫で、燐は立ち上がった。傍にいた養父が、にやにやと意味ありげな笑みで見つめてくるが、それを無視し背を伸ばす。
腰に掛けてある鍵を手にし、扉に向かう。ドアノブを握りしめると同時に振り返り、唇を引き上げる。
「――行ってきます」
それだけを言い残し、燐は扉をくぐった。
それは、とある祓魔師の朝の出来事だった。
作品名:Behave badly 作家名:sumire