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『序章』


監獄島における日常

 吹き飛ぶ紙、紙、紙。響き渡る怒声と嘲笑。
 折れる木々。破壊される人工島。輝く警告の赤。
「退いてください、帝人君」
 杏里に押しやられて帝人は息を吐く。
 肩を落としながら「ごめんね、園原さん」と告げれば「気にしないで下さい」と返された。少女と呼ぶには落ち着いた杏里の背中は力強い。
 へし折れた窓枠を手にして杏里は三階から飛び降りた。
 窓枠と一緒に手にしたカーテンを木に引っ掛けたのだろうが器用に落下の力を殺して着地する。処刑文句の序文を律儀に読み上げる杏里。それを無視するように破壊活動をする二人、折原臨也と平和島静雄。二人に向かって杏里は手の中の窓枠を投げつける。正確には二人にではない。

 狙いは折原臨也だけだ。

 杏里の到着にやっと気づいた静雄は足を止めて視線を上に向ける。手を振る帝人に表情を失くして膝をつく。
 臨也は窓枠を避けたものの杏里から振り下ろされた日本刀をナイフで受ける。笑っているが瞳はギラついている。
「どうして囚人が武装しているんですか」
「あれー? その物騒な刀こそ規定違反でしょ。刃渡り三十センチ以上のものは所持しちゃいけないんじゃない?」
「私は特例が許されています」
「俺も許されてますー」
 軽い臨也に杏里は怒ることもなく瞳を赤く光らせる。
「おぉ、こわっ。帝人君助けてっ! 勝手に死刑執行しようとするよぉ。何この処刑人。俺の首落とす気だよ」
「鮫のエサにしてあげます」
 杏里の構えが変わる。距離を取ろうと後退しかける臨也に「ストップ」とかかる声。
「ストップ! ストップッ!! 止まりなさい」
「とりあえず、みなさん所長室まで連行しますんで」
「みなさんって言っても静雄はもう竜ヶ峰のところに行ってるがな」
「俺のフォークリフトは人間運搬用じゃねぇ」
「はいはい、乗って」
 渡草のぼやきを流して狩沢は杏里と臨也を手招く。
 白亜の城のような建物。
 監獄島における中心、所長室。
 十代後半にしか見えない最高責任者の自宅でもある。
 今は大きく穴が開いていた。
 平和島静雄が投げた木が固いはずの壁面を抉ったのだ。
 図書用のフォークリフトで杏里と臨也は三階の所長室へと運ばれる。
「ちょ、何それ! 羨ましッ」
 目隠しとヘッドフォンをつけて座り込んだ静雄を帝人が後ろから抱きしめていた。抱き締めるというよりはもたれかかっているのかもしれない。
「視界に入るとすり潰したい、声が聞こえる範囲にも居て欲しくない、臭いも苛立つ……ちょっと五感を手近なもので封じようかと思った結果がこれです」
「その近さだと帝人君の匂いしか分からないとか、そういうこと? 死ね! ふざけるな」
「あなた達、外に出る気がありませんね?」
 帝人の言葉に静雄は首を振る。
「聞こえるんですか? それで」
「密着してるから振動で僕の言葉が分かるみたい。だから、会話は成立します」
「会話してないじゃないか」
「ともかくですね、あなた達の刑期はプラス千年です」
 静雄の肩が目に見えて落ちる。蹲るかのようだ。
「そんなのの背中撫でる必要ないよ。今回だってシズちゃんがやったことで俺は関係ない」
「臨也さんが避けなければこんな事になりませんでした」
「俺に死ねって言ってるの?」
「うちの医療班は優秀ですから死にかけからちゃんと復元してくれますよ」
「冗談じゃない。得体の知れないものを混ぜ込む気だろ」
「機械人へ差別はやめてください」
「あぁ、そうだねぇ」
 臨也は杏里に視線を向ける。歯を食いしばるように杏里に帝人は話題を変える。
「静雄さんには庭師を、臨也さんには僕の助手をしてもらいます。期間は一年ほど。その成果次第で刑期の圧縮を行います」
「寛大な救済処置に感謝してください。所長への敵対行動は死を意味します。折原臨也、ここで首が落ちないのは所長の特例のお陰であり、あなたに価値なんてありません」
「外の奴らから『聞きだせ』って言われてるんじゃないのかな? 俺の情報が欲しいはずだよ、彼らはさ」
「外と中の秩序は違います。何を吠えたところで」
「はいはい、ここの正義は帝人君だね。君に言われるまでもないよ。犬のように使われてやろうじゃないか」
「どう切り出そうかと思ったんですけど、納得済みなら良かったです。臨也さん」
 帝人は笑顔で臨也を手招く。屈むように言われて少しだけ期待してドキドキと胸を高鳴らせた結果、首が非常に苦しい。唇に触れるものなど何もない。
「くびわ?」
「犬には首輪が必要ですよね」
「そうですね?」
 首を傾げる臨也に「電磁波が脳と心臓に作用して息の根を止めます」と帝人は微笑む。
「決められたエリア以外に移動しようとした場合、動作します。エリア分けはこちら。時間別になります」
 臨也に紙を渡す。
「帝人君、ふやけて分からないんですけど。ってか、今時紙媒体ってここはどれだけ時代錯誤をまかり通す気なの。いや……デジタルだと情報が飛ぶのか」
 後半の臨也の独り言には応えず「花瓶が倒れて水を被りました」帝人は事実を告げる。全部臨也と静雄が暴れたせいだ。
「うっかりすると俺はし」
「とりあえず現在は所長室だけが平気です。その内ちゃんとエリアは僕が動かせるようになりますけどまだ試作品の段階なので、誤作動したら……ごめんなさい」
「ごめんで済まないでしょ」
「苦しまずに終わらせて貰えて良かったですね」
 杏里の言い回しに臨也はいやな顔をする。なんだってこんなことになるのだろう。
「全く散々だ」
「僕の部屋の状態が散々ですよ」
「すみません」
 蹲っている静雄の背中にもたれて帝人は「ちゃんと働いてくださいね?」と口にする。ちゃんと頷く静雄に臨也は嫌そうな顔を隠さない。
「ずるい。ずる過ぎる」
「そんな静雄さんに抱きつきたいんですか? 残念ながら捻りつぶされますよ」
「帝人君さぁ、実はすごい怒ってるよね」
 上を見れば門田が天井の崩れを検分している。ぱらぱらと何かが落ちてくる。
「シズちゃんが引き抜いた樹って天然もので帝人君が毎年成長楽しんでたヤツだよね。本当はすっごいムカついてる?」
「本当も何も人の自宅兼職場に風穴をあけられて『仕方がないですね』で済むはずがないでしょう。馬鹿ですか」
 静雄が小さくなる。
「まぁ、静雄さんは悪くないですよ」
「何処が? 諸悪の根源じゃん」
「どの口が」
 杏里が臨也の首元に刃先を向ける。
「幽平さん、いえ平和島幽さんが新設する監獄島の所長になられるらしいです」
「シズちゃんの罪は弟が被るから悪くないって? 帝人君も性格悪いなあ」
「静雄さん、厳重注意じゃ足りないんですもん」
 帝人に頭を撫でられながら静雄はどんどん小さくなっていく。懐かしい土下座スタイルかもしれない。
「ついでではありますけど臨也さんも」
「クルリとマイルが?」
「立候補して青葉君に却下されたみたいですけど、美しい兄妹愛ですね。大切にしてあげてください」
「はっ! 平和島幽が目的だろ」
作品名:監獄島へようこそ!! 作家名:浬@