監獄島へようこそ!!
「そりゃあ、そうでしょう」
帝人は尚も落ち込み続ける静雄の頭を撫でた。
「さあ、別れの挨拶です。臨也さんは外に出てください」
「俺死ぬじゃん」
「知ったことじゃないです。所長が出ろと言ったら出なさい。死刑囚」
「やだっ、この娘怖い」
「出たくないなら部屋の隅で縮こまってオブジェっぽくなっててください」
「シズちゃん優先とかどういうことッ?!」
「オブジェにならないなら首を落としますよ」
「やだっ、怖い」
臨也が壊れた本棚の陰に座り込んだのを見て帝人は静雄の目隠しとヘッドフォンを外す。
「今までの会話を聞いてて、視線を部屋の隅に向けない静雄さんは本当にいい人ですね」
微笑む帝人に「俺のこと殺す気満々!」と臨也は震える。臨也には逃げ場がないのだから酷い話だ。
「中継繋がってます」
映し出される立体映像。
「静雄さん、もう決定したことはどうしようもありません。落ち込んでも仕方がありません」
「あ、あぁ」
顔を上げられない静雄を帝人は促す。
『元気?』
「お前もその」
『うん、平気』
静かすぎる兄弟の会話に帝人は咳払いする。
「外部との交信は540秒に定められています」
『じゃあ元気で』
「あぁ」
会話は終わったとばかりに二人して帝人を見る。
「短すぎて……いいえ、いいんですけど。とりあえず、所長の身内ということで器物破損及び職員への危害は相殺します」
「竜ヶ峰……?」
「被害があった時、僕はたまたま席を外していました」
「はい。部屋には私しかいませんでした」
『庭師の制服って』
「バーテン服でいいじゃないですか。いっぱいあるし」
「ベストとか似てますよね」
「すまねぇ」
『頑張ってね』
「あぁ!」
言葉少なく通じ合っている兄弟には悪かったが規定は規定なので通信の終了を帝人は告げる。
『デリート及びカスタマイズの指示はそっちからって』
「報告書はまとめて転送済みです。身内は忘却措置の対象外ですから監獄島の所長に就任しても静雄さんとの思い出がなくなることはありません」
『……聞いてる』
「役員である僕に対するものも」
帝人の言葉に幽は頷き静雄は「ありがとう」と頭を下げた。今生の別れにしてはあっさりとし過ぎているがまた会えることを信じているのだろう。
「身内を裁くことはあり得ませんから静雄さんがあちらの監獄へ移転ということはないです。こちらへ視察に来ることはあるかもしれませんけれどね」
静雄が改めて帝人に対して口を開くと「ずるーい」と遮る臨也の声。
「何その特別扱い。そりゃあ世紀のビックスター様が監獄所長に就任っていうのは企業にプラスだけどさ、故意だろうが事故だろうが帝人君を殺しかけたなら極刑でしょ」
「いーざーやー」
静雄が青筋を浮き上がらせて手近にある一トンはするテーブルを持ち上げる。
「あぁ、フォローが無駄に……」
杏里の疲れた溜息に帝人は意を決して静雄に抱きつく。
ちゅっ
響くリップ音。目を見開き固まる三人を尻目に帝人は壊れた窓へ静雄を押す。そのまま部屋が傾いているかのようにすんなり静雄はテーブルとともに落下した。
「あ、三階だけど大丈夫だよね」
「今、今どこ、どこにしたッ!」
「見えなかったんですか? 秘密です」
「平和島さん、自分から後ずさった様な……」
絨毯に残った靴跡を冷静に杏里は見る。
「おかしい! 贔屓ッ。これは贔屓だ!」
「波風立てないで下さいよ。これ以上は庇えません」
「ずるい、ずるい。帝人君は俺の全身キスしてくれていいよ! そうしなよ。大体さぁ庭師の衣装って、もっさい繋ぎとかの作業着じゃないの? 違うの?」
「格好いい中年紳士のカジュアルな姿が庭師です」
「えー?」
「手拭いを首に巻けば庭師です」
「あんな庭師はいないッ」
「僕が庭師だって言ってるんですから庭師です」
「庭って帝人君のテリトリーじゃないか! 二人で花園でイチャイチャするのかぁ」
「すぐにそういう発想、不潔」
杏里に軽蔑の眼差しを向けられて臨也は息を飲む。別に杏里だけなら痛くも痒くもなかったが帝人も同じ表情だった。
「職場内イジメだ」
「うるさいですね」
「一般囚人から役持ちになったんですからキリキリ働いてください。あなたが死んでも代わりはいるんですから」
「鬼がいるー」
臨也の言葉など帝人も杏里も聞きはしない。
当然だ。囚人に人権などない。昔はともかく今は。
作品名:監獄島へようこそ!! 作家名:浬@