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Calling You

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カタカタカタカタ
 
                 カタカタカタカタ


          この音は?歯車だろうか?

 カタカタカタカタ        カタカタカタ


      真っ暗なはずだったのに、いつのまにか、うっすらと明るい。

    カタカタカタカタ


            目の前には白い布


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ



           ―――――― ああ、また、はじまる






          
      ※※※※※ 



 珍しいこともあるな、と思ったのは一瞬で、すぐに、いやな予感にとらわれた男は、ペンを走らせて視線のぶつかったタレ目に、そのメモをふってみせる。
「・・・いや、それは別にかまわない。それと、『迎え』を出そう」
 出された『迎え』が自分だと判断したタレ目の男が、飄々とその紙片を受け取り、簡略の敬礼をしてみせ、ドアへとむかう。
 入れ違いに入る女のためにドアを支え、大佐命令で要人を出迎えてきます、と軽い調子で伝えて、すんませんけどあっつくてうまいお茶の準備たのみます、と付け加える。
「エドワードくんたちね?」
 女が心得たように口にする。きれいな色でしあげられた、いつもは硬い口元が、こどもの名を呼ぶときに自然とほころび、それに見とれたタレ目は、ごまかすように渡された紙片を振ってみせた。
「それが、どうも大将、調子悪いみたいで・・」
 上司が走り書きした文字並びは、『 強情な病人確保 』だった。
「あら?風邪でもひいたのかしら?」
「とにかく、『確保』してきます」
 お願いね、と見送られて、こちらには、さっきよりも力をいれて敬礼してみせた。


 車をはしらせ煙草をくわえ、『病人』ねえ・・・と考える。
 出会って数年だが、丈夫というか、頑丈というか、しぶとい印象しか、あの兄弟にはない。まあ、弟はちょっと特別だけど、兄のほうは、あの年齢で、あの大きさで、あの環境で、たくましく元気に ――― と、考えて、煙草を口からはずし、大きくけむを吐いた。
 ―――― 病気になったからって、どうしろと?
 面倒見のいいしっかり者の弟に看病してもらうのはきっと、ほんとうに最後の手段だと考えているだろう。
「・・・・――― はあ〜〜〜〜」
 思わず、やりきれない大きな息がもれる。
「・・・強情にも、なるわなあ・・・」
 自分があれぐらいのとき、どうだった?
 熱がでた。頭が痛い。怪我をした。――― どれのときも、大人がそばにいてくれた。
 がらにもなく、そのとき額に当てられた大人の手を思い出して、煙草をはさんだ手を、自分の額に持っていっているのに気付く。
 ふっ、と笑い、煙草を灰皿に押し込んだ。
 

 
「あ、少尉」
「お・・・・」
 駅のベンチに仲良く座る兄弟は、いつものように、すぐに目につく。
 弟が立ち上がり頭をさげるのを止めようとして、いつものように隣に座ったままの兄を認め、言葉が止まる。
「こんな調子なんです」
「・・・・・ぅす・・・・」
 弟に紹介された『こんな調子』の兄は、眼だけ動かし、小さく無愛想な声で挨拶した。 「・・・いつからだ?」
 思わず出した質問の声が、自分でもとがったものになってしまったのを感じるが、しかたがない。
 久しぶりに会ったこどもの顔は真っ白を通り越し、土気色(つちけいろ)で、目はおちくぼみ、隈にふちどられている。まだ大人になりきれない輪郭が、ひとまわり小さくなったようだ。
「・・・『いつ』、って・・・えっと・・・」
 普段は軽い男の、硬い声に気おされたように、本来は強気な声がどもる。
「一ヶ月ぐらい、だと思います」
 代わりに弟が答え、兄が口を閉ざした。
「・・・一ヶ月?・・・たいしょう、なんで、もっと早く帰ってこなかったんだよ?おら、病院いくぞ」
「ち、ちが、」
 もがく子どもをベンチから軽く持ち上げる。機械部分を差し引いても、やはり軽くなっている。
 抵抗する力も気力も、本当の子どものように、弱かった。
「―― あのぉー、少尉?大佐に伝えたんですが、聞いてくれました?」
 荷物を持った弟が忙しい金属音をたて、赤い布でくるんだこどもを抱え、ずんずんと進む男を、慌てて追う。車に兄をつっこんだところで、追いついた弟を振り返った。
「大佐に?おれが命じられたのは、コレの確保だけど?」
「いや、ですから。・・・・病気というか・・・」
「病気だろ?こんな顔色で、こんなにやつれちまって」
「病気じゃねえよ」
「にいさんは黙ってて」
「とりあえず、病院直行な。軍の病院に行って」
「病気じゃねえって」
「そうなんです。病気・・・では、ないと、ぼくも思うんですけど・・」
「はあ?アルまでなに言ってんだ?どーみたって」
「だからあ、病気じゃねえよ」
「じゃあ、病気以外のなんだっていうんだ?」
「病気じゃなくて、――― 眠れねえだけなんだよ!」
「・・・・・・・」
 停めた車の中の子どもが、うらめしげに男をみあげてくる。
 白目が充血し、きれいな眼もだいなしだ、なんて考えながら、聞き返した。
「・・・――― えっと・・・、・・・なにか、悩み事か?」








「一ヶ月くらい前です。にいさんが、うなされて目覚めるようになったのは」
「うなされる?―― では、その頃はまだ、眠れていたわけだ」
 執務用の机に座った男は、腕を組み、先ほど久しぶりに会った子どもの、変わり果てた様子を思い出した。
「はい。・・・はじめは、ひどく、夢見が悪いんだなって、それぐらいにしか、思っていませんでした。・・・そりゃ、今までも、そういうときってありましたし、・・・ぼくはいつも、そういうときでも、何もしてあげられないですけど・・・・。でも、今回は、今までとなんだか違ってて・・・。あったかいココアを飲ませてあげて、もう一度寝たほうがいいよって、ベッドを指すんですけど、・・・にいさん、なんだかベッドに戻るのもいやみたいで・・・」
 大きな身体を小さくして話す弟は、指先を合わせるようにうつむく。
「―― ベッドを変えたりは?あと、宿を変えるとか」
 病院から行き先を本部に変えて兄弟を連れてきた男は、火のつかない煙草をもてあそびながら聞いた。
「ええ。変えました。―― 何度も。・・・一週間、続いたとき、病院にいくか、・・・ここに、戻ろうって、にいさんに言いました」
「アレが、そう簡単に、うなずくわけもない」
「はい・・・。一週間もしたころには、はじめから眠ろうとしなくなって、本を読んでごまかしてたんですけど・・・・」
「読めないだろう。ちゃんと睡眠もとっていないのでは」
「・・・本当は、眠くてしかたないのに、寝る時間がもったいないとか、最初のうちは、いつもみたいに強がっていられたんですけど・・」
「身体と頭は、睡眠を欲する」
「移動の電車でうとうとするんですけど、それも、いやな夢を見て、おきるんです」
「一ヶ月もちゃんとした睡眠をとらず、それでも戻ってこないとは、とんだ馬鹿者もいたものだな。あの強情豆のことだ。倒れてもいないのに、どうしてここに戻る必要があるか、とでも言い続けたんだろう?」
作品名:Calling You 作家名:シチ