二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Calling You

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 椅子から立ち上がった男は、兄弟に頼んだ、地方の情報収集の報告書を机に投げた。
「―― そんな頭で書いた報告書をわたしに出すとは、いい度胸だ」
「・・・たいさ、そんな状態でも仕事しようとしたんだから、ほめてやっても・・」
 火のない煙草を口はしにくわえた男は、いつもより字が激しく乱れたその書類を手に、上司をみやる。
「・・・ほめる?自分の体調管理もできず、弟に担がれてどうにか戻った部下を、『ほめる』?いいか、さきほどアレに、点滴をした軍医が、わたしになんと言ったか聞きたいか?『大佐殿、いくら錬金術師といえども、こんな子どもの部下を、ここまでこき使うのはいかがなものか?』だぞ?みながみな、わたしが出した指令のせいで、鋼のが倒れて帰ってきたと思ってるんだ」
「・・・・すみません・・・。ぼくがついていながら・・・」
 小さくだされた弟の謝罪に、男は片手をあげる。
「きみのせいではない。すべて、アレの自己責任だ。――― きっときみは、アレがうなされて起きるたび、・・・今までも、暖かいココアを飲ませてきたのだろう?ベッドを変え、宿を変え、すべての宿屋もまわりつくし、野宿しても同じ状態がつづき、ようやく、『眠る』こと自体に問題があると、アレが納得するまで付き合って、それでも、報告書をしあげるまで帰らないと言い張るのを最後まで待って、ここに連れて戻ってくるなど、わたしになど、とても真似できない。――― きみが、あれほど思いつめたような声で『どうしたらいいのかわからない』と連絡をくれたのは、正解だ。そこに立つ煙を止められた煙突のような男でも、頼りになることもある。きみたちは、ここに、―― 戻ってくればいい。それをアレが実行できるのは、素直なきみが一緒にいるからだ」
「・・・はい・・・」
 ほめられたことに戸惑うような返事が、あまりに歳相応で、ハボックは煙草をかみそうになる。大佐おれの例えがびみょうにひどいですよ、なんてごまかして、煙草をそのままゴミ箱に捨てる。
 奥にある宿直室で点滴を受けたアレよばわりの子どもは、つきそいの中尉が見守るなかで、うまくすれば平穏に眠れているかもしれない。そう願いながら、からだの大きな弟にうちにくるかと誘えば、首をふられる。
「―― にいさんがおとなしく病院にはいるとも思えないので、ぼく、手伝います」
「・・・そうだよなあ・・・。大佐、たいしょうが入る病院って、どういうとこっすか?まさか、精神科とかじゃ・・・」
 明日、こどもをつっこむ予定の病院に連れてゆくのも自分だろうと思い、たずねれば、窓際に立った男が、不機嫌な顔でふりむいた。
「・・・病院にいれるのは、明日になってからでいいだろう。せっかくだが、人数は少ないほうが都合がいい。兄上の身の安全はこの男がしっかりとみとどけるので、きみは今夜から、中尉のところでゆっくり休みたまえ。動物は『癒し』になるというし、中尉も明日は休みだからちょうどいい。ああ、少尉は、 ――― 」

 あああああああああああああああああ

「――― ・・・・・」
「・・にいさんだ・・・」
 思わず駆け出したハボックは、廊下でざわつく人垣をかきわけてそのドアに押し入った。
「たいしょう!?中尉!っ ――― 」
 飛び込んだとたん、人差し指を口にあて、シィーーーーと静かにするサインを、もらう。女はそのまま、赤い布でくるむようにいだいたものを、空いた手でやさしくなでさすり、だいじょうぶよ、と静かに繰り返す。
「へいきよ、エド。もうだいじょうぶ。ゆっくり呼吸して?ね?ここには、あたしとあなたしかいないし、・・・だいじょうぶよ」
 赤い布からのぞく金色の小さな頭に女はささやく。
 ハボックはゆっくりとあとずさり、部屋をしりぞいた。ドアを少しあけたまま、廊下にたまっていた野次馬を散らす。
 ドアのすきまから、今まで聞いたこともない小さな声が、女に謝罪していた。
「・・・ごめん・・中尉、・・あの、おれ・・・」
「だいじょうぶ。ここにいるわ」
 断固としたような、優しさにあふれるそれに、ハボックまでが、救われる。
「少尉」
 呼ばれてあげた視界の先、廊下の暗い電灯のもと、当然のように上司が待っている。
「―― おまえは、わたしと、さがさなければならないやつがいる」
「・・・まさか・・・また・・・」
「ふん。それはわたしも同じ思いだ。風船みたいに割れる男や、星から雨宿りにきた男など、断固として無視したいところだが、――― 無視もできまい?」
 水色の、みたこともないすかし入りの封筒を、手袋をした手がどこからともなく取り出した。
「・・・いつです?」
「さっきだ。おまえが飛び出していったあと、いきなり、机の上にあった」
「・・・今度はどんなのです?」
 しかたなく、上司に歩み寄り、煙草をポケットに探す。
「おまえが前に餌付けされた『割れる風船男』だ」
 煙草をさがすことをやめ、渡された封筒から、同じ質の紙を出す。

 『 急啓

        きみのだいじな金色に

        いやなほうき星がぶつかった
 
        親切にも教えてあげることにしたのは
 
        きみがどう出るか、興味があるからさ 
 
                                    
                               草々 』


「・・・これで?どこを探せばいいんですか?」
「街中だ」
「街中ね」
 それ以上は愚問だった。
 いつだって、むこうからやってくるのは、すでに、実証済みだ。








 いらっしゃい、と陰気な声が暗い影から発せられた。
 重くきしむドアをあけた中は、ランプがぼんやりと光る空間で、目が慣れて、ようやく酒瓶や、声と同じ陰気な様子のバーテンダーがおさまるカウンターが、わかる。
「おそかったね」
 隅から声がして、黒いシルエットが浮かび上がった。
「・・・・おそいって・・そっちの都合だろう?」
 街中をぐるぐると歩き回り、一時間ほどしてようやく行き止まりの見たこともない路地につきあたり、道をもどろうとしたところで、唐突にこの店があらわれたのだ。
「ああ、きみはたしか、ぼくの煙草を気に入ってくれた『お友達』だね?」
 文句を言った男に、いま気づいたとでもいうように、笑った男がマッチを擦った。いっぺんで明るくなったカウンターの隅に、忘れられないその姿をみてとる。
 くわえた細巻きの煙草。白い中性的な顔だち。黒い髪、黒い服、白いアスコットタイ。
 マッチと煙草のにおいがまざり、一気によみがえった記憶が、身体の産毛を逆立たせる。
「『ほうき星』とはなんのことだ?まさか、鳥に姿をかえる民族じゃないだろうな」
 上司のいらついた声に、相手が微笑む。
「それは、ぼくの知らないところだ。ぼくのいう『ほうき星』は、夢魔のことだよ」
「むま?」
 あわ立った腕を抱えるハボックがくりかえすのに、煙草を吸いつけた男が小さくわらう。
「そう。―― ただし、この『夢魔』は、はみだしものでね。ぼくが知っている本来の夢魔は、悪夢をたべる獣を連れていて、良い夢をみさせてくれる一族だ」
作品名:Calling You 作家名:シチ