Calling You
女が座っていた椅子の上から、その豪華な花束をとりあげる。見舞いの花束にしては、においがつよく、華やかなものだった。
「だれだ?―― う〜ん・・名前がねえじゃん。・・・なんか、このカード、香水みたいなにおいするな」
「きれいな字だね。女の人じゃない?『 おかげさまで、たいへんたすかりました。ありがとうございます。 はるか遠くより 愛をこめて 』だって。にいさん、どこかで、なにかいいことしたの?」
「・・・う〜ん・・・寝てる間に、なにかあったっけ・・・。いや、それよりも、なんで突然、それが椅子の上に現れたんだ?・・・・」
変なところで勘のいい兄弟は、打ち合わせたように、そこで口を閉ざす。
「――― ・・・ま、きれいだから、よしとするか・・・」
「豪華すぎて、病室には合わないね。―― あ、そうだ。これって、大佐にあげたらどうかなあ?ほら、女の人にあげるのによさそうだし」
「ああ、下心まるだしな感じでいいんじゃねえの。・・・いちおう、あんなでも、ときどき、世話になってるしな・・・」
「ときどき・・・かなあ・・・・あ、にいさんがひとりで全部食べた果物、すごく高そうな詰め合わせだったよ・・」
「よし、決まりだ!ぜんはいそげっていうしな!ちょっと渡してくる!」
「はあ!?ちょ、ちょっとにいさん!」
病院を抜け出した子どもにめまいを感じた男が、渡された花束のメッセージカードをみつけ、迷うことなくその場ですべてを燃やし、まだ本調子でない子どもが真っ赤な顔で男に攻撃しようとしたとき、タレ目の男が進み出た。
足払いをかけられた子どもは男の懐に倒れこみ、中断されておもしろくなさそうな顔をする上司に、部下は忠告した。
「――― 大佐、あんまり無下にすると、ビン詰めにされるかもしれないっすよ?」
それにわらう上司が、部下に告げる。
「魔女のコレクションになるなら、おまえもいっしょだ」
じりりりり じりりりり
いきなりそばの電話が鳴って、みながそれを見る。タレ目が上司をうかがいながら受話器をとりあげ、耳にあてる。
低く、艶のある女の声が告げた。
『 どうせなら、三人ごいっしょに、どうぞ 』
Calling You
――― END ―――
作品名:Calling You 作家名:シチ