こらぼでほすと 拾得物8
ぶらぶらと散策していると、ちょうど予約の時間だ。荷物は、レストランのバンケットに預けてしまえば問題はない。予約名を言うと、ウェイティングバーに案内される。軽いカクテルを注文して、飲んでいると、ウェイターが案内に来る。本当に本格的なとこを選んでくれたんだな? と、ニールが感心するほどだ。昔の稼業で、こういう場所の出入りもしていたから、ニールは戸惑わないが、普通の働き人で、ここは使えない。つまり、歌姫様は、フェルトに、それ相応の相手を願っているのだろう。
「ラクスの判断基準も厳しいな? 」
「え? 」
「こういうとこで、まごつかないほどの生活している人間とフェルトは付き合わせたいってことだぞ? かなりの高水準だ。おまえの相手が見つかったら、外野は、さぞかし五月蝿いんだろうな? 」
「その五月蝿いのの筆頭は、ニールだよ? 」
「あ、あーまーなーーー。だって、うちの娘を幸せにしてくれる相手でなきゃ、俺は許さない。」
選んだ相手を判断するのに、いろいろと細かいことを言うつもりなんだろう。というか、うちの娘とか言ってる段階で、相当に親バカモードだ。たぶん、イアンもスメラギも似たようなことを言うに違いない。血の繋がった家族はないが、フェルトには、ちゃんと家族がいる。そう思うと、自然と笑えてしまう。
「好き嫌いはないが、あまり香味野菜の多いものは避けてくれ。それから、俺たちは、アルコールは、あまり飲まないから、シャンパンのハーフボトルぐらいでいい。後は、ガス入りのミネラルウォーターで。」
ワインリストを差し出されて、ニールは、すらすらとリクエストする。銘柄はお任せするよ? と、リストを返した。夜景のよく見える席に案内されて、給仕たちのサービスも丁寧だ。さすが、天下の歌姫様が予約してくれただけのことはある。
よく冷えたシャンパンが用意されて、カチンと、鳴らして乾杯した。
「それでな、恋人同士だと、『きみの瞳に乾杯』 とか、言うわけだ。」
「・・・・・親父ギャグ? 」
「そうくるのか? せっかく雰囲気を盛り上げたってーのに。」
どうせ、俺は親父だよ、と、ニールが拗ねたフリをする。それを見て、フェルトは大笑いだ。王道デートのシチュエーションだが、どうしても、親猫と子猫という関係は解消されないものらしい。
作品名:こらぼでほすと 拾得物8 作家名:篠義