回り道
驚いた顔で、綾瀬川は振り返った。
一か月悩んでようやく買った菓子を、俺は綾瀬川に渡せなかった。チョコレートに特別な意味を見出せなくて、一日中抱えていた菓子の包みはもうよれていた。
俺はそれを、綾瀬川に押し付ける。
「俺、今日一日綾瀬川に渡そうとしたんだけどさ、できなくて」
「……どうしてだよ」
「喜んでもらえなかったら、とか、それどころか突き返されたら、って思うと……」
「いくら僕でもそこまでしないよ」
「……拒否されたら、嫌だったからだ」
「あのさ」
菓子と俺の顔を交互に何度か見た後、綾瀬川が口を開いた。
夕暮れの中、綾瀬川の顔は赤かった。
「渡した時はさ、檜佐木のことをどう思っているのか、よくわからなかったんだ。でも」
好きか、そうじゃないか。
勘違いさせるような大きさで渡してきたくせに、悩んでいたのかよ。
俺が勘違いしてもよかったのかよ。お前からのチョコレートを本気だと思いたくて、俺は一か月も悩んでいたんだ。
「檜佐木からだけ、義理でもおかえしなくてさ。それが、嫌だったから」
斑目からのお返しの菓子を、お前は嬉しそうに受け取っていた。
それが、嫌だった。だから、ガキみたいにお前を避けた。
「それで、順番おかしくなっちゃったけど」
心臓が、高鳴っていた。
好きって、綾瀬川から言ってもらえる?
その期待に、俺はどうしようもなく浮かれた。
「返事、しなよ」
「……これ、やる」
不満そうな目で、綾瀬川が見ていた。
なんて奴だ、自分ははっきり言わないで。俺にだけ言わせようってのか。しかもえらそうだし。
綾瀬川は何も言わない。俺は、一生懸命言葉を探した。
「義理じゃねえよ」
それだけ言うのが、やっとだった。
それも下を向いて、情けねえ声で。
手の中の、菓子の包みがなくなった。そうか、綾瀬川は受け取ったのか。
「……ありがと」
小さな声で、綾瀬川が言った。
俺は、綾瀬川の顔が見れなかった。
「…っ」
「この道を抜けるまでだ」
指先が、絡んでいた。
俺は小さくうなずいて、ゆっくりと歩き出した。