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【P4】泥む春【花主】

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「ったく。…俺だって、陽介と離れるのは寂しい。できればずっと一緒にいたい」
 そうして静かに、鳴上は続ける。
「だったら、この先もずっと一緒にいられる様に頑張ることが、俺達がこれからできることだろ」
「悠…」
「俺だって、ちゃんと陽介のこと好きなんだから。……それに」
 一旦言葉を切り、鳴上が上体を少し起こして、ちゅ、と唇が触れるだけのキスをした。

「こういうことは、俺達が別々のいきものだからできる――――違うか?」
 それじゃ、答えにならないか?

 ひとつになりたい、とけあいたい。
 だけど溶け合ったら、どうやって互いの存在を確かめればいい?

「……そうだよ、な」
 本当は、そのことにも気付いてる。分かってる。
 それでも、駄々をこねる子供のように、イヤだ、と繰り返す俺が、心の奥に潜んでる。
「…ホント、バカだな」
 そうしてきっと、そんな俺がいる事に鳴上も気付いているんだろう。溜息とともに漏れた声が、少しだけ切なそうに聞こえた。
「バカって言うな」
「うるさい、ガッカリ王子」
 そう言って、鳴上は少し怒ったような、照れているような、どちらとも言えない顔で俺の鼻を抓みあげる。
「ガッカリ王子って言うな。くそ…、そんな口は塞いじゃる」
 顔を振って鳴上の鼻挟みを解き、がう、と今度は俺が鳴上の鼻先に軽く噛み付いてから、唇を重ねた。

 ああ、やっぱり好きだな、敵わねぇな。

「お前が、誘ったんだからな、悠」
「…いいよ。そういうことにしといてやるよ」
「…満足するまで付き合ってもらうぜ?」
「わかった。その代わり」
「その代わり?」


「お前は笑ってろ」

 春がくるまで、もう少し。
 もう少しだけ、このままで。