再会
「私は卿と親しくするつもりはないのだ。私に関わろうとしないでくれ」
これ以上なくきっぱりと絶縁状を叩きつけられて言葉を無くす。さっきまで穏やかに話ができていたから、不意打ちだった。
記憶があってもなくても、関係ないんだ。
そこまでして……俺を避けたいんだ。
俺がショックを受けている間に官兵衛殿は荷物を持って歩き始めていた。
慌てて呼び止める。
「ちょっと官兵衛、」
殿、と続けそうになったせいで尻すぼみな呼びかけになったが、官兵衛殿は足を止めた。
「……卿は」
地の底から響くような、ゆっくりとした低い声。彼が努めて感情を押し殺すときの声だ。聞き逃すまいと耳をすます。
「卿はただ――」
「……ただ?」
繰り返しながら、振り向いてくれればいいのに、とぼんやり考えた。彼の微かな感情の動きは、大抵の場合目に出るから。
けれど俺に見えるのはゆっくりと首を振る官兵衛殿の後ろ頭だけだ。
「いや。……言っても仕方のないことだ」
そう言うと、彼は早足で立ち去ってしまった。
もちろんもう一度「官兵衛」と呼びとめたけれど、俺の声は彼には届かなかったようだった。
いつの間にか官兵衛殿の姿は視界から消えていて、俺は彼を引き止めようとのばしていた手を下ろす。
ぱたん、と寂しい音がした。
「言っても仕方ない、ね……」
彼は俺に何を望んでいるんだろう。困ったことに推測すら浮かんでこない。
生まれ変わってから――もしかしたら彼と再会してから――俺はすっかり馬鹿になってしまったんじゃないだろうか。ま、平和な証拠と言えばその通りなんだけど。
何もわからなくて、俺はやがて考えるのをやめた。
どんな理由があって官兵衛殿が俺を避けているのだとしても、彼を諦めるなんてできるわけがないんだから。