こらぼでほすと 拾得物9
クリスの爆弾発言に、当の本人のティエリアが、「ちあうー」 と、叫ぶ。そりゃ、誤解されるわなあーと、ライルとニールが、うんうんと頷いていたりする。
「この子、ティエリアだよ? クリス。ちょっと事情があって、小さくなってるんだ。」
「「はい?」」
今度は、クリスとリヒティが驚く番だ。マイスター回収には、リヒティも出張っていたが、ティエリアのことは知らされていなかった。事情の説明をすると、えーーーと、驚きの声が上がる。
それを聞きながら、モレノが、ニールとライルに近寄ってきた。
「どっちが、ロックオンなんだ? 」
「現ロックオンは、俺です。こっちが先代。・・・・・えーっと、ドクターモレノでしたっけ?」
同じような顔で並ばれると、普通は判別がつかない。ライルのほうが、紹介して握手を求める。
「ということは、俺が知ってるのは、先代のほうだな?」
「そういうことになりますね。ご無沙汰してました。・・・・・俺は、あなたたちが亡くなったということは、後で聞いたんで。」
「そりゃ、おまえのほうが先に戦線離脱したからな。・・・・しかしまあ、よく、生きてたことだよ。それに、双子の弟が居たなんてな。」
どっちも有り得ない状況で、宇宙に放り出されている。生きてるのが不思議な状態だったから、苦笑して握手する。
「ドクターたちは、今までは、どちらに? 」
「プラントだ。リヒティの身体が、ちょっと特殊なんで、あちらでしか治療できなかったんだ。で、その合間に、ああいうことになっちまったのさ。」
リヒティの身体は、半分が人工物だ。普通の身体ではないから、医療技術のみで、どうにかなるものではない。だから、時間もかかったし、それまで専属で管理していたモレノも離れられなかったらしい。
「おやっさんには?」
「降りる前に顔を出してきた。いきなり殴られた。」
「相変わらずだなあ。ははははは。」
直接には話していないが、スメラギやフェルトから、イアンが親友を亡くして落ち込んでいたことは、ニールも聞き知っていた。そりゃ殴るくらいはするだろう。
「ねーねー、ニール、ライル、刹那、クリスたち結婚したんだって。」
フェルトが、二人と赤ん坊を紹介してくれる。男女の双子だという赤ん坊は、クリスとリヒティの腕で、すやすやと眠っている。
「へぇークリス、とうとう決めたのか? 」
「まあね。こっちが、ロックオンね? そして、こっちがニールか。」
刹那が、べっとりとくっついているので、それでクリスにはわかるらしい。抱いてみる? と、クリスからニールは赤ん坊を手渡された。まだ、生後半年だから、人見知りもしないらしい。
「名前は?」
「この子が、女の子で、リーベ。リヒティのほうが、男の子で、フリーデンよ。」
妹の世話をしていたニールは、赤ん坊を簡単に抱き上げる。まだ、小さくて性別なんかはわからない。かわいい、と、ニールが微笑むと、刹那も覗き込む。
「刹那、こういう赤ちゃんが欲しかったら、ライルじゃ無理だぞ? 」
女性と付き合ったら、こういう宝物ができるんだ、と、説明するが、刹那は、「ライルでいい。」 と、断言した。
「え? 刹那? もしかして、こっちのロックオンと付き合ってんの?」
「ああ、これが俺の嫁。そして、こっちが、おかんだ。」
「はあ? ロックオンを両方とも獲得したわけ? 欲張りすぎっっ。ひとり、フェルトに回しなさいよ。」
「フェルトは、おかんのほうは貸している。」
「てか、刹那も大きくなったなあ。俺と並んでる。・・・・・俺、マイスター組の回収の手伝いはしてたんすよ。エターナルの操縦士で。」
「わぁーリヒティー、もう復帰してるんだねぇ。」
「今回が初参加。まあ、ご苦労様だよ、アレルヤ。」
なんていうか、もう新旧取り紛れて、わいわいと話が弾む。とりあえず、ほとんど誰も欠けずに組織が存続していることが喜ばしい。ちょっとライルだけが、話の輪から外れてしまうのは仕方がない。五年前のことなんて、まったく知らないからだ。話下手の刹那が、その傍に立つ。
「みんな、組織の人間だ。先の時に亡くなったと思われていた。」
「ああ、わかってる。あんたは交流を深めなくてもいいのかい? リーダーさん。」
「俺は別にいい。・・・・おまえが寂しそうだからな。」
「カタロンに帰ったら、俺だって、こんなだよ。・・・・たぶんな。」
もう帰ることもないけど、と、内心でライルは付け足す。アイルランドに降りた時に、そちらのほうは退席してきた。組織のほうで骨を埋める覚悟だから、と、諜報活動はできないことを報告してきたからだ。まだ、それなりの連絡網は生きているが、それは、共同路線を張る場合のためのものだ。元カレにも、そう説明したので、円満退社ではある。
「元カレとは連絡を取り合えばいいだろう。あっちは、まだ未練がありそうだ。」
「え? 」
「おまえを嫁にしたことは、俺からも報告してある。」
「そんなこと、言われなかったぞ? 」
「浮気は推奨しておいたからだろう。」
「・・・あのな・・・・刹那、そういうのはさ。・・・そりゃ、まあ、クラウスは相性が良かったけどさ。一応、結婚したからな。」
おまえだけでいいんだよ、と、小声で耳元に囁いたら、刹那も微笑んだ。そこへ、つかつかとクリスがやってきて、ライルに人差し指を突きつけた。
「新ロックオン、刹那を蔑ろにしたら、あたしが許さないんだからね。あたしの可愛い弟を悲しませたら報復するわよ? 」
「クリスティナ・シエラ、俺は浮気は容認しているんだが? 」
「ダメよ、そういうのは、ずるずると不倫になるんだからね。うふふふふ・・・・もし、刹那を捨てたら、あたしが凹にするから、安心して。まだ、仕事は現役なの。」
クリスは、システムの専門家だ。キラほどではないが、その技術力はハイレベルだ。おかしなことが発覚したら、ケルビィムに不具合を引き起こすくらいは朝飯前だろう。
「しんぴゃいしゅりゅにゃ、くりぃしゅ。おりぃがかんししていりゅ。」
ティエリアが、ぴょこぴょことやってきて、クリスの服の裾を掴んでいる。ヴェーダとなったティエリアなら、細かなこともチェック可能だ。
「おいおい、クリス。刹那はさ、女性と交際したほうがいいと思うんだぜ? 俺は。」
赤ん坊をだっこしたまま、ニールが、その意見に反論する。適当に別れて、ちゃんとした男女交際を、と、願っているおかんとしては、一時期の火遊びぐらいで終わってくれ、と、思っている。
「ぬあーにぬかしてんのよっっ。元ロックオン。こういうのは、きっちり付き合ってもらったほうがいいのっっ。相思相愛なら性別なんか関係ないのよ。刹那も、浮気はダメだからね。」
ふんっっ、と、クリスは仁王立ちで、刹那とニールを叱り付ける。母は強しを地で行く態度だ。
「人の恋路は邪魔すると、馬に蹴られるぞ? 元ロックオン。」
「そうっすよー元ロックオン。自分が選ばれなくて拗ねてるのは解るけど。」
「拗ねてねぇーよっっ。リヒティー、相変わらずKYだな? おまえさん。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物9 作家名:篠義