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こらぼでほすと 拾得物10

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 デートと言ったから、そういうもんだろうと、悟空とフェルトは思っていたのだが、当人は、まったく違うことを考えていた。

「ドライブしようと思う。クルマなら、外気温に触れずに移動できる。」

「どこへ? 」

「行けるところまで行って戻ってくる。特区の外へ出るとは思うが・・・・・できれば、海の方向。」

「「海? 」」

 別に、刹那は何をしたいと思うわけではない。ただ、二人でのんびりと会話しつつ、過ごせたらいいだけだ。ついでに、海を見たいな、と、思いついたにすぎない。自分が、そういう無駄なことをしてみせたら、きっと、親猫は微笑むだろう。それができるのは、平和だからだ。だから、極端な話、別荘でだらだらと過ごしてもいいぐらいなのだ。

「クルマから眺めるぐらいなら、ニールにも無理はないはずだ。」

「まあ、そうだな。」

 悟空とフェルトは、あまりにも刹那らしいデートなので笑ってしまった。ぶっきらぼうだけど、目的がはっきりしている。ソフトクリームのコーンを、むしゃむしゃと食べて、悟空が、「そういうのなら、全然オッケー。ママと海を見て来い。」 と、頷いた。

「でも、ちゃんと食事はさせないとダメだよ? 刹那。ニールが弱るでしょ?」

「ああ、ナビに、そういう情報はあるだろう。本人に選ばせる。」

 昨今のクルマには、そういうナビゲートもあるから、知らない地域でも問題はない。ニールが食べたいと思うものを検索してもらえば済む。まあ、そうは言っても、ニールは、刹那に、「何が食べたい? 」 と、尋ねるだろうが。

 ライルは、ライルが行きたいと思うところがあるので、それに付き合う。そういう形のデートだ。だが、ニールは、刹那が行きたいところへ連れて行け、と、言うから、刹那が考えることを実行する。どちらも、刹那のことを想っているのだが、方法は逆なのが不思議だ。たぶん、それが嫁とおかんの違いなのだろう。

「楽しんで来いよ? 」

「ああ。」

「天気がいいといいね? 」

「雨でもかまわない。」

 これで、刹那は楽しいらしい。ちゃんと嬉しそうに頬を緩めているから、悟空とフェルトも、うんうんと嬉しそうに笑っている。



 何が食べたい? と、兄に尋ねられて、「あっさりしたものがいい。」 と、言ったら、じゃあ豚しゃぶかなあーと、精肉売り場へとカートを進める。カートには、子供を乗せる場所がついていて、ティエリアが、ちょこんと乗っている。そのカートを押そうとしたら、ティエリアに拒否されてしまったので、ライルは後ろからついてくだけだ。

 いい大人だから迷子になるわけでもないから、ぶらぶらとあっちこっちの売り場を覗いてみる。料理はしないから、原材料があってもピンとはこない。出来合いのものが並べられている一角を探検して、ちょっと食欲が刺激されるものを見つけて取り上げた。生春巻きは、南国の食べ物で、ビールにも合うし、あっさりしている。これはいいな、と、兄を探して、そのカートに放り込んだら、「え? 一個? 」 と、驚かれた。

「俺が食べたいだけだぜ? 」

「どうせ、刹那たちも食べるって言うよ。三パックな? それから、もやしを三袋頼む。」

 他にも食べたいものがあったら運んで来い、と、言われて、とりあえず、もやしを探しに生鮮野菜方面へ足を進めた。それをゲットして、それからギネスを探して六本パックを手にして、兄のところへ戻ったら、年少組もやって来ていた。

・・・・・ほんと、あんたってさ、そういうのが似合うよな? ・・・・・

 年少組に囲まれて笑っている兄を見ると、ライルも、ほっとする。あの人や自分が十数年前に失くしたものは、ああいうものだった。ようやく、自分たちは、また獲得したのだと思う。今度こそ失くさない。絶対に、と、ライルも、その光景で気持ちを再確認する。マイスターとして生きる覚悟をしたものの、どこか不安なものはある。だが、あの兄たちの創り出す光景を護りたいと思えば、落ち着くのだ。

 ゆっくりと歩いて、カートに頼まれたものを放り込む。ありがとう、と、兄が言うので、なんか泣きたいくらい幸せな気分になって抱きついた。

「お、おい? 」

「兄さん、大好き。」

「はいはい、ありがとよ。てか、こんなとこで告白すんじゃねぇーよ。」

「はじゅかちいやちゅ。」

 ニールの背後から抱きついているライルに、ティエリアは容赦なくツッコむ。そして、カートに入っている長ネギで、その頭をぽかぽかと叩いた。

「こら、ティエリア。食べ物で遊んじゃいけません。」

「あしょんでにゃい、しぇいしゃいをくわえていりゅ。らいりゅ、はにゃれりよ。」

「やだ。これ、俺の兄さんだもん。」

 べえーと舌を出してティエリアをからかっているライルに、刹那は溜息をつく。三十路の男がする態度とは、到底思えない。

「刹那、あれ、引き剥がして。暑苦しい。」

 フェルトも、眉間に皺を寄せつつ苦笑している。同じ顔なのに、なぜ、ああ、あほなんだろう、と、思いつつ、刹那が、ライルを引き剥がす。

「独占するな。これは、俺のおかんだ。」

「ライル、俺のママでもあるからな。」

「あたしのママでもある。」

「おりぃのおきゃんだじょっっ。」

 四人に睨まれて、はいはい、と、ライルも手を離す。大人で双子で、衆人環視の前で過激なスキンシップをした自覚は、ライルにはない。

「だいたい、おまえらさ。俺をちっとは敬えよ。俺と兄さんは、同い年なんだぞ? 」

 とか、わけのわからないことを吐く。

「刹那、殴ってもいい? 」

「すまない。こいつは、あほなんだ。大目に見てやってくれ。」

「刹那はライルに甘いよね。」

 あほなところが可愛いと思っている刹那は、他の者に謝罪はする。八個も年上の嫁だというのに、あほ扱いだという事実は、ニールだけが胸を痛めていたりする。

「はいはい、五月蝿くしない。・・・・・食べたいものがあったら持って来い。悟空、緑マメの春雨を、五袋探してくれ。刹那とフェルトは、スイカを一個。はい、ミッションスタート。」

 おかんの命令に、勝手知ったるスーパーなので、悟空は、りよーかい、と、叫んで走り出しているし、刹那とフェルトも、果物売り場と思われるところへ向かっている。

「ティエリアは、何がいい? 」

「わからにゃい。」

「うん、じゃあ、目に止まったら教えてくれ。」

 ほら、行こうとライルに声を掛けて、ニールは動き出す。こういうのが、ずっと続けばいいなあー、と、内心で願っているのは、内緒だ。