こらぼでほすと デート1
クルマは、乗り心地のいいものがいい、と、勧められて借り出してきた。持ち主の歌姫も、長時間なら、と、勧めてくれたものは、運転手付きで、デートにならないと却下した。それなら、これを、と、用意してくれたのは、オフロードにも対応できるクルマだった。雨だから、無理をさせないように、と、注意されたのだが、なぜか、保護者はぴんぴんしている。
どこへ行くんだ? と、尋ねられることもなく、クルマを適当に走らせている。目的地を入力すれば、そこまで自動運転も可能だが、思いつくままなのでハンドルを握っている。
「次のSAで停めてくれ。」
サングラスをした保護者が、そう言う。そろそろ走り出して二時間だから、休憩なんだろう。運転している俺の休憩ということだ。保護者は、これといって難しい話をするわけでもなく、ただ、のんびりと助手席に収まっていた。「せっかくのデートなのに、雨だったな。」 とか、「寒い時期じゃないから、濡れても風邪はひかないな。」 とか、そんなことを、ぽつりぽつりと言うだけだ。
次のSAへクルマを乗り入れた。そこそこ大きなSAだったから、大きな公園まであった。
「しばらく、休憩。」
「ああ。」
保護者は、そのまんま外へ歩いていく。雨なのに、傘も用意していなかったから、ちょっと濡れている。傘を買おうと、そこのショップへと向かった。トイレにでも行ったのか、保護者の姿は、そこにない。ハイウェイの案内表示板を見上げて、今、向かっている方向を確認する。このまま北上すると、海に出る。特区は、小さな島だから、東西南北、どこへ進んでも海に出る。走らせる前に、とりあえず北にするか、と、決めたので、その方向に進んでいる。
「はい、おやつ。」
横手から差し出されたのは、ソフトクリームで、チョコとバニラのミックスされたものだ。
「あんたは、また・・・」
「甘いものは好きだろ? 珍しいな、おまえが買い物か?」
「あんたが濡れると、風邪をひくからだ。」
「それほど、軟じゃないんだがな。まあ、いいさ。おまえさんが、そういうことに気をつけることができるようになったのは、俺には嬉しいことだ。」
差し出されたソフトクリームを受け取って、ぺろりと舐めた。この保護者、成人している自分のことを、まだ、おやつが必要な子供だと思っている節がある。
見上げていた案内表示板を、保護者も見上げている。どこへ? と、尋ねることはない。行き先なんて考えていないことは、先に告げた。
「疲れたら、そこで一泊っていうのも、いいな。」
「ティエリアが怒るだろ? 」
「別に、一泊するぐらいで怒らないさ。・・・気が向いたら、ティエリアに土産でも買ってやるんだな。」
保護者は、缶コーヒーを手にしている。それを、ごくりと飲んで、そう笑った。
「必要ない。」
「そうか? 」
とろりとしたソフトクリームは、すぐに溶けてくる。急いで、それを食べたら、紙オシボリを渡された。いちいち、用意周到な保護者だ。
さらに、クルマを走らせて、二時間後には一般道へ降りた。そこから、海までは、わずかのことだ。大きな砂浜に出たので、そこでクルマは止めた。目の前には、荒れた海がある。
「目的地に到着か? 」
「ああ。」
暑いはずの季節だが、雨のお陰で温度は、それほどでもない。しとしとと霧雨のような雨と、荒れた海しかない静かな場所で、それを眺めていた。これといって、何も話すこともないし、何か言わなければならないこともない。
「・・・なあ・・・刹那。」
「なんだ? 」
「なんで、海? 」
「なんとなく、だ。空から眺めたことしかなかったから、地上から眺めて見たかった。・・・・それだけだ。」
「・・・そっか・・・」
クスクスと横手で笑う声がする。たぶん、自分が、こんなことをしたのが、おかしいのだろう。いつも、目的のために動く自分が、思いつきでやることなんて有り得ないからだ。
「待機所の南の島とは、全然違うな? 俺、こっちの海は、初めてだよ。」
「そうだな。色が違う・・・・・海の色は、地域によって格差があるんだ。」
世界を放浪して、そんなことも知った。画一的な色ではないし、季節や天候によっても、海は色を変える。砂漠が、時間によって形や色を変えるように、海も変る。それまで、そんなことも知らなかった自分には、かなり驚くことだった。
「・・・あんたが、世界を見て来い、と、言ったから、俺は、こういうことも知ることができた。」
五年前に、そう勧められていなかったら、こんなことも知らなかっただろう。保護者が教えてくれたことは、たくさんあって、それらは、自分のためになるものばかりだった。今から考えたら、よく、あれだけ反抗的な態度の自分を世話してくれたものだ、と、自分で呆れる。
「外、出なくていいのか? せっかくだから、波打ち際まで行こうぜ。」
フロントガラス越しでは、意味がないだろうと、保護者が背もたれから身体を浮かした。その保護者に、傘を突き出して、ドアを開けた。
霧雨と風で吹き上げる海水が入り混じって、顔に吹き付けてくる。さくさくと砂浜を歩いたら、背後から傘をさしかけられた。
「あんたが使え。」
「おまえな、俺は運転てきないんだよ。おまえの具合が悪くなったら帰れないだろ? 」
入れ、と、強引に傘の下に入れられた。波が荒くて、波打ち際までは近寄れない。少し離れたところから、また眺めていた。
「あなたにも幸せを願っています。」
アザディスタンのお姫様が、そう願ってくれた。戦うことしか知らないし、その方法でしか、世界を変革できないのだから、そんなものは必要でないと思っていた。
「俺は、幸せなのかもしれない。」
「ん? 」
何気ないことだが、仲間がいて、保護者がいて、嫁がいて、それらと、たわいもないことをする時間を持つことができる。これからも、戦って傷ついていくだろうが、それでも、この時間は持つことができるはずだ。戦いだけの時間ではない時間がある。お姫様の言う幸せとは違うかもしれないが、これが満ち足りるということだとは思う。
「あんたが約束を守ってくれる限りは、俺は幸せなんじゃないかと思うんだ。」
「安い幸せだな? まあ、約束は守るさ。おまえが、休息できる場所として俺を必要としてくれる限り、俺は、ここにいるよ? 」
「できれば、あんたも幸せであって欲しい。」
「幸せねぇー幸せなんじゃないか? とりあえず、食うには困らなくて、適当におまえらが顔出してくれて、こんなバカげたデートに誘ってくれんならな。」
「そうか、なら、これからも誘う。」
「ものは相談なんだが、俺は、腹が減ってんだがな? 刹那さん。」
ぼおうっと海を眺めていて忘れていたが、もう、とっくに食事時間は過ぎている。デートなら、ちゃんとエスコートしてくれよ、と、がしがしと頭を撫でられた。
「あんたが食べたいものを検索してくれ。」
引き返すために、踵を返しつつ、そう言うと、保護者は、「おまえさんは、何がいい? 」 と、尋ねてくれる。
「なんでも構わない・・・・また、あんたは・・・」
どこへ行くんだ? と、尋ねられることもなく、クルマを適当に走らせている。目的地を入力すれば、そこまで自動運転も可能だが、思いつくままなのでハンドルを握っている。
「次のSAで停めてくれ。」
サングラスをした保護者が、そう言う。そろそろ走り出して二時間だから、休憩なんだろう。運転している俺の休憩ということだ。保護者は、これといって難しい話をするわけでもなく、ただ、のんびりと助手席に収まっていた。「せっかくのデートなのに、雨だったな。」 とか、「寒い時期じゃないから、濡れても風邪はひかないな。」 とか、そんなことを、ぽつりぽつりと言うだけだ。
次のSAへクルマを乗り入れた。そこそこ大きなSAだったから、大きな公園まであった。
「しばらく、休憩。」
「ああ。」
保護者は、そのまんま外へ歩いていく。雨なのに、傘も用意していなかったから、ちょっと濡れている。傘を買おうと、そこのショップへと向かった。トイレにでも行ったのか、保護者の姿は、そこにない。ハイウェイの案内表示板を見上げて、今、向かっている方向を確認する。このまま北上すると、海に出る。特区は、小さな島だから、東西南北、どこへ進んでも海に出る。走らせる前に、とりあえず北にするか、と、決めたので、その方向に進んでいる。
「はい、おやつ。」
横手から差し出されたのは、ソフトクリームで、チョコとバニラのミックスされたものだ。
「あんたは、また・・・」
「甘いものは好きだろ? 珍しいな、おまえが買い物か?」
「あんたが濡れると、風邪をひくからだ。」
「それほど、軟じゃないんだがな。まあ、いいさ。おまえさんが、そういうことに気をつけることができるようになったのは、俺には嬉しいことだ。」
差し出されたソフトクリームを受け取って、ぺろりと舐めた。この保護者、成人している自分のことを、まだ、おやつが必要な子供だと思っている節がある。
見上げていた案内表示板を、保護者も見上げている。どこへ? と、尋ねることはない。行き先なんて考えていないことは、先に告げた。
「疲れたら、そこで一泊っていうのも、いいな。」
「ティエリアが怒るだろ? 」
「別に、一泊するぐらいで怒らないさ。・・・気が向いたら、ティエリアに土産でも買ってやるんだな。」
保護者は、缶コーヒーを手にしている。それを、ごくりと飲んで、そう笑った。
「必要ない。」
「そうか? 」
とろりとしたソフトクリームは、すぐに溶けてくる。急いで、それを食べたら、紙オシボリを渡された。いちいち、用意周到な保護者だ。
さらに、クルマを走らせて、二時間後には一般道へ降りた。そこから、海までは、わずかのことだ。大きな砂浜に出たので、そこでクルマは止めた。目の前には、荒れた海がある。
「目的地に到着か? 」
「ああ。」
暑いはずの季節だが、雨のお陰で温度は、それほどでもない。しとしとと霧雨のような雨と、荒れた海しかない静かな場所で、それを眺めていた。これといって、何も話すこともないし、何か言わなければならないこともない。
「・・・なあ・・・刹那。」
「なんだ? 」
「なんで、海? 」
「なんとなく、だ。空から眺めたことしかなかったから、地上から眺めて見たかった。・・・・それだけだ。」
「・・・そっか・・・」
クスクスと横手で笑う声がする。たぶん、自分が、こんなことをしたのが、おかしいのだろう。いつも、目的のために動く自分が、思いつきでやることなんて有り得ないからだ。
「待機所の南の島とは、全然違うな? 俺、こっちの海は、初めてだよ。」
「そうだな。色が違う・・・・・海の色は、地域によって格差があるんだ。」
世界を放浪して、そんなことも知った。画一的な色ではないし、季節や天候によっても、海は色を変える。砂漠が、時間によって形や色を変えるように、海も変る。それまで、そんなことも知らなかった自分には、かなり驚くことだった。
「・・・あんたが、世界を見て来い、と、言ったから、俺は、こういうことも知ることができた。」
五年前に、そう勧められていなかったら、こんなことも知らなかっただろう。保護者が教えてくれたことは、たくさんあって、それらは、自分のためになるものばかりだった。今から考えたら、よく、あれだけ反抗的な態度の自分を世話してくれたものだ、と、自分で呆れる。
「外、出なくていいのか? せっかくだから、波打ち際まで行こうぜ。」
フロントガラス越しでは、意味がないだろうと、保護者が背もたれから身体を浮かした。その保護者に、傘を突き出して、ドアを開けた。
霧雨と風で吹き上げる海水が入り混じって、顔に吹き付けてくる。さくさくと砂浜を歩いたら、背後から傘をさしかけられた。
「あんたが使え。」
「おまえな、俺は運転てきないんだよ。おまえの具合が悪くなったら帰れないだろ? 」
入れ、と、強引に傘の下に入れられた。波が荒くて、波打ち際までは近寄れない。少し離れたところから、また眺めていた。
「あなたにも幸せを願っています。」
アザディスタンのお姫様が、そう願ってくれた。戦うことしか知らないし、その方法でしか、世界を変革できないのだから、そんなものは必要でないと思っていた。
「俺は、幸せなのかもしれない。」
「ん? 」
何気ないことだが、仲間がいて、保護者がいて、嫁がいて、それらと、たわいもないことをする時間を持つことができる。これからも、戦って傷ついていくだろうが、それでも、この時間は持つことができるはずだ。戦いだけの時間ではない時間がある。お姫様の言う幸せとは違うかもしれないが、これが満ち足りるということだとは思う。
「あんたが約束を守ってくれる限りは、俺は幸せなんじゃないかと思うんだ。」
「安い幸せだな? まあ、約束は守るさ。おまえが、休息できる場所として俺を必要としてくれる限り、俺は、ここにいるよ? 」
「できれば、あんたも幸せであって欲しい。」
「幸せねぇー幸せなんじゃないか? とりあえず、食うには困らなくて、適当におまえらが顔出してくれて、こんなバカげたデートに誘ってくれんならな。」
「そうか、なら、これからも誘う。」
「ものは相談なんだが、俺は、腹が減ってんだがな? 刹那さん。」
ぼおうっと海を眺めていて忘れていたが、もう、とっくに食事時間は過ぎている。デートなら、ちゃんとエスコートしてくれよ、と、がしがしと頭を撫でられた。
「あんたが食べたいものを検索してくれ。」
引き返すために、踵を返しつつ、そう言うと、保護者は、「おまえさんは、何がいい? 」 と、尋ねてくれる。
「なんでも構わない・・・・また、あんたは・・・」
作品名:こらぼでほすと デート1 作家名:篠義