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【同人誌】カラフル・デイズ

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「わあ、気持ちのいい風だねえ」
 はるは、箒を持って外に出た途端、ふわりと髪と服の裾を揺らした風が心地好い。思わず暢気な感想を漏らす。
 忙しなく過ぎた春を思うと、やっと季節が変わるのね、などと妙に実感する。
「ちょっと、何してるのよ!」
 しかし思いに耽って、ぼんやりしている場合ではなかった。背後から、たえが顔を出して、眉を吊り上げている。
「あ、たえちゃん」
「箒持って突っ立ってないで、掃除するならさっさとしなさいよ」
「分かってるよー。ちょっとだけ、季節を感じてたんだもの」
「そんな余裕ないでしょ。さっさとしてよね。今日は旦那様が朝早くに出かけていらっしゃらないからって、のんびりはできないんだから」
「はーい」
 宮ノ杜家当主である玄一郎は、今日は随分と早くから支度をして、出て行った。お陰で、はるもそれに合わせていつもより一時間ほど早く目を覚ました。いや、正確には目覚め切れずに、千富に叱られながらようよう起きられたのだが。
 庭の掃き掃除にも慣れてきた。少しはこの仕事を楽しめるようにもなったと思う。
 ――ほんの一年前、だ。
 彼女、浅木はるが宮ノ杜家で使用人として雇われ始めたのが、昨年の四月のことだ。この一年間は、一言では表せぬほどに濃密だったような気がする。彼女自身が、何かをしたわけではない。ただ、宮ノ杜という家は、はるの全く知らない世界だった。
「また、ぼんやりしてる!」
 たえに指摘され、はっと我に返る。
「あはは、ごめんね。今、すぐにちゃんとやるから!」
 だから千富さんには言いつけないで、と慌てるはるに、先輩使用人であるたえは、すっかり呆れ顔だ。
「こんなのが、旦那様の専属使用人だなんて、全く信じられないわよねえ」
 その点に関しては、はるにとっても、大いなる疑問だった。

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 たえを置いて食堂へ向かうと、最初に姿を現したのは、正だった。
「お早うございます、正様」
「……ああ」
 昨夜も帰宅が遅かったのだろうか、少し眠そうだ。一度厨房に行き、朝食の載った盆を取ってくる。
 戻ると、正だけでなく、いつの間にか四男の進が席に着いていた。
「進様、お早うございます」
「おや、はるさんですか。お早うございます」
 はるが盆を斜めにしないよう、慎重に頭を下げると、進もまた僅かに頭を下げて見せた。
 それから、正の目の前の食卓――西洋式で足の長いものだ――に、給仕する。
「そういえば、お前が私の食事を運んできたのは、久々か?」
 ふいに、正が言う。突然のことで、目を瞬いた。
「確かに、そうですね。はるさんが一人でここにいらっしゃるのも珍しい気がします」
 進も、頷いた。
「いつもは、旦那様のお世話をさせて頂いていますから。ええと、そうですね、この前皆様のお食事を運んだのは、二月か三月だったような気がします。旦那様が、お出かけでいらっしゃらなかったときに」
「今日は、当主が朝から留守にしているわけか」
 なるほど、と正は納得した様子だ。
「お前が当主の専属とは、未だに信じ難いが、当主の決めたことだからな」
「でも、はるさんは何にでも一所懸命ですから、お父さんもそれで選ばれたんでしょうね」
 兄弟二人は、それぞれに異なることを言う。正にも進にも、すみません、と返すしかない。
「何にしても、我が宮ノ杜家に相応わしい立ち居振る舞いを、千富から学ぶことだ」
「はい、頑張ります」
 正の言葉に、はるは両手をぐっと握り締めて承知した。相手は、やや苦笑している。おかしなことを言っただろうか、と首を傾げるはるだったが、
「努力することだな」
 そう続けた正の目許は、以前に比べて、随分柔らかいような気がする。
「でも、あまり無理はしないで下さいね。お父さんの専属となれば、大変なことも多いでしょうから」
「ありがとうございます、進様」
 宮ノ杜家の六人兄弟のうち、一番優しいと感じるのが、進だ。母親が唯一、庶民だからなのか、使用人にまで気を遣ってくれる。

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「そんなとこで、何してるわけ? ゴミのくせに、僕の目の前うろうろしないでくれる?」
 人を人とも思わぬ、というどころではない発言。玄一郎の息子のうちの六男、つまり末っ子の雅だ。階段の上から、こちらを見下ろしていた。はるは、それを見上げる。
「正様と進様がお出になったので、お見送りをしたところなんです」
 しかし、こんな態度も物言いも、大分聞き慣れてきた。
「そんなこと聞いてるんじゃないんだよ。お前は父様の専属だろ。正と進の見送りなんか、する必要ないだろ」
「今朝、旦那様はとても朝早くお出かけになったので、私も皆様のお世話をしているんです」
「てことは、僕の朝食もお前が運んだり、見送りもしたりするわけ? 最悪なんだけど」
「雅様がそこまで仰るのでしたら、私は――」
「おい、貴様、そこで突っ立って何をしている?」
 ちょうど玄関の扉を開けて入ってきた人影が、居丈高な声で言い放った。じろりと、こちらを睨む鋭い視線に、一瞬ひやっとして、首を竦めそうになってしまう。
「なんだ、勇じゃん。朝に帰ってくるって、何してんの、はそっちじゃない?」
 入ってきたのは、次男の勇だった。彼を相手に、こんなことを言える雅には、毎度驚かされる。はるなど、妹にこんな態度を取られたら、気落ちしそうだ。
「雅……、貴様、兄に対する態度を誤っているぞ」
「うちには兄だ弟だなんて、大した問題じゃないだろ。当主になるのは、長男とは限らないって家なんだからさ」
 昨年の四月から今年の三月にかけて、宮ノ杜家当主の玄一郎は、息子である六人の兄弟に、最も自分を楽しませた者を当主にする、と宣言した。これは点数制で、何かしら玄一郎の琴線に触れれば、加点された。しかし、一年という期間では、誰も規定の十点を越えられず、玄一郎は隠居することをやめ、今も当主として、宮ノ杜家に君臨しているのだった。
 大抵、名のある家を継ぐのは、その家の長男と決まっている。しかし、玄一郎はそう考えていないのだった。
(旦那様って、変わった方よね)
 正月になれば、皆、一斉に年を重ねる。けれど、宮ノ杜家は西洋の「誕生日に一つ年を取る」ことを踏襲していて、当主自身や兄弟の誕生日には、必ず晩餐会と称して宮ノ杜家の皆が夕食をともに取ることになっている。また、誕生日を迎えた人に、贈り物をするのも西洋の倣いらしかった。
 庶民の、田舎の貧しい家に育ったはるには、この家の風習は見知らぬものが多かった。
「あの、それより雅様は、そろそろ食事を済ませた方がよろしいのではありませんか? 学校に行く時間が」
「お前には関係ないだろ!」
 はたと思い返し、睨み合う二人の間に入るように、はるが雅に忠告するも、雅は不愉快に怒鳴る。
「そう怒鳴るでない。朝食を取るように言われただけであろう?」

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「茂様、お早うございます。今日はお早いんですね」
「んー、そうだよねえ……」
 まだ欠伸を噛み殺している。夜の仕事だから、寝るのも遅い。その分、茂が自室から出てくるのは、昼を回ることも多い。まだ日の低いうちに起きてくるのは、珍しい。