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【同人誌】カラフル・デイズ

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 躊躇うように、彼女は口を僅かに開いたまま止まった。しかし、まっすぐに博を見下ろし答える。
「正直なところ、自分でも分かりません」
 肯定も否定もしない、できないのだ。だけど、彼女は誤魔化さず、気持ちを口にしている。
「喜助さんは良い方ですが、結婚したらどうかなんて、考えたこともありませんから」
「それじゃあ、ずっと使用人を続けるのが、はる吉の幸せ?」
「……それも、難しいです」
 はるが何を思ってるか、本当の気持ちを知りたい。でもその分、困らせてしまっている。
「使用人のお仕事も、できるだけ続けたいとは思います。でも、結婚をしたくないわけではありません。いずれは誰かと一緒になって、新しい家族を作りたいです。そうなれば、どちらにしても使用人を辞めることになるでしょう。でも、それは今、どうしたいと言えることではなくて」
 たとえば、博もそうだ。今は、エゲレスで学ぼうとしているけれど、その先のことなど、一つとして分からない。考えられない。ほんの一年先さえ、まだ見えない。
 しかし、はるには、ずっと先の将来を見据えた決断が迫っている。昨年の縁談もその一つだったし、今も同様だ。
「迷惑かな?」
「え?」
「おれが、使用人辞めて欲しくなくて、騒いで父さんと約束したこととか……」
 はるは、緩やかに微笑んだ。首を横に振って、
「いいえ、そんなことありません」
 そう答えてくれる。
 気を遣わせていると思う。博は、彼女が働いている屋敷の息子だし、どう思っていても、否定的なことは言えないはずだ。でも、そんな立場とは関係なく、きっとはるは、こうして博を気遣ってくれる。
「でも……」
「博様が本当に、私を心配して下さるのは、嬉しいんですよ? だから、もし博様が――もしかしたら、他の方かも知れませんが、私が喜助さんと結婚しなくてもお仕事を続けられる方法を見つけて下さるなら、私は有り難いと思ってます」
「本当?」
「勿論です」
 本当は絶対、困っている。玄一郎が、当主になる条件だと宣言したときは、博は勿論、はるも絶句していた。固まっていた。
「おれが見つけても、嬉しい?」
「はい」
 でも、こんな確認をして、笑ってもらおうとするなんて、本当に自分は駄目だと、博は思う。

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【正 と はる】

「正様は?」
「俺が、何だ?」
「ご結婚はなさらないのですか?」
「当主になるまでするつもりはないからな」
「では、それがもしかしたら、十年後になっても?」
 もしも今回の課題を、誰も達成できなかった場合、当主の代替わりも、ずっと先のことになる。ともすれば、――なれぬことも。
「四十代も半ばだと遅いと言う意味か?」
「少し……」
 寧ろ、三十四歳にして独身では、既に結婚が遅いと言われているのだから、四十歳では少しどころか、相当遅い。
「だが、当主は四十代の半ばにして、伊村と結婚したぞ。問題はないだろう」
 当主はそのとき、既に何人も息子がいたし、妻も複数人目、という状態だったが。
 この答えに、はるは納得したように見えない。眉間に皺を寄せ、うーん、と唸る。しかし、ふと思い立ったように、笑ってこちらを見上げてきた。
「では、私も今から十年くらい独身でいても、大丈夫ですよね」
 何と脳天気な発言か。正は少々面食らい、しかし妙なおかしさが込み上げてきて、口許を歪めた。
「庶民と我々では、事情が違うだろう。それに、女であれば子を産むのが遅くなるのは好ましくないな」
「う、それはそうですが」
「まあ、その半分くらいの年月ならば、いいんじゃないか?」
「――そうですよね!」
「しかし、女では嫁き遅れと言われても仕方ないだろうがな」
「別に構いません」
 目に見えて、彼女は嬉しげな様子だ。素直な性質で、嘘のつけない人間だ。
 両親のために、慣れぬ仕事を始めて、嫌な思いをしても辞めずに踏ん張った。
 ――喜助と結婚すれば仕事を続けられる。
 それは、いっそ不憫な話だ。だが、はる自身が仕事を続けたいと望んでいるならば、最良の条件ではないか。
 しかしはるは、それを良しと思っていない。
「はる、お前、――」
 好いた男はいないのか?
 訊ねようとして、その寸前に言葉を飲み込んだ。

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【雅 と はる】

「うるさいんだけど!」
 しかし、雅の文句など聞いていない。はるは、勝手に部屋の奥にずかずか入っていき、雅の机まで到達している。そこに載った何かを手に取る動きを見せた。
「ちょっと! 勝手に人の物に触らないでよね!」
「これ!」
 しかし、またも人の話など聞きもしない。勢いよく振り返ったはるは、その手にあるものを雅に突きつけた。赤い巾着だ。
「どうなさったんですか!?」
「はあ? どうって何?」
 意味が分からない。どうも何もない。
「拾ったんだよ」
「どこで?」
「風呂場。さっき、扉に引っかかってたから拾っ」
「雅様、ありがとうございます!」
「――た?」
 意味が、分からない。
 自分で質問しておきながら、人の答えを最後まで聞かずに遮って、叫ぶような声を出して。
 でも、それは、謝礼の言葉だった。
「昨日から、ずっと探していたんです。でも見つからなくて、だからもう駄目かもって諦めかけてたんです。それも仕方ないからって、自分で元気を出そうと思っていたんですけど、でもやっぱり気になっていて!」
 何となくは分かるような、でもよくは分からない説明というか、主張というか、そんなものを、はるは熱く語っている。ちっとも冷静ではない。
 状況が分からぬほど感激しているのか、ずいずいと雅を壁際に追いつめる勢いだ。
「本当に本当に、ありがとうございます、雅様!」
 もう顔も、ほとんど眼前に迫っている。
(……あ、涙?)
 近いから、よく見える。泣きそうなほど、はるの目が潤んでいる。
 そんなに嬉しいのか。それほど失くして辛かったのか。雅には全く理解できない。
 しかし、ふと我に返った。
「近過ぎなんだけどっ!」
 思わず手を伸ばして、はるの肩を無理に押し返す。はたと、少し冷静になったはるも、
「もももも申し訳ありません!」
 すぐさま、雅から離れた。
 何しろ近かった。ちょっと顔を下に向ければ、息が混じりそうなくらいには、近かった。
 ――でも。
(気持ち悪くはならない……)
 それが、妙なことなのだ。
 もう前からずっと、そうだ。女が嫌いで、触るのはもちろん、近づくのも嫌で嫌で堪らない。本当に吐き気がすることもあるほどだ。
 それなのに、はるにはそういうものを感じない。
 彼女が使用人になりたての頃は、もっと嫌悪感があったはずだ。どう見ても、ゴミ虫だった。でも、気がついたら平気になっていた。

----以下略--------