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【同人誌】カラフル・デイズ

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【進 と はる】

「あの、はるさん」
「何でしょう?」
「はるさんは、その、喜助さんと結婚するのが、嫌なんですか?」
 まず、彼女は言葉に詰まったようで、押し黙る。しかしすぐに、俯きかけていた顔を上げ、
「嫌ではないんです。いずれは結婚したいと思いますし、そのお相手が喜助さんだとしても不満はないです。知らない人よりは、知っている人の方がいいですから」
 見も知らない誰かと、ある日顔を合わせたと思ったら、そのまま結婚が決まってしまう。それが大抵の人の縁談だ。どんな人間かも知らないまま、夫婦になる。それで幸せになれる人も多い。だが、気心の知れている相手と一緒になる方が良いと考えるのも自然なことだ。
「でも、仕事を続けるために、喜助さんを利用する形になってしまうのが、嫌なのかも知れません。結婚しても、私は使用人の仕事の方を、家のことより優先せざるを得ないでしょうから。それが、申し訳ない気持ちもあります」
 だから、仕事を続けられるという理由だけで、安易に喜助との縁談を受けることもできない。
 嫌悪感ではなく、罪悪感のようなものだろうか。嫌だと言うのではなく、そうして良いのか分からないから悩んでいる。
「あっ、すみません、進様。こんなことをお話しても、困りますよね」
「いえ、そんなことありません。自分も、はるさんの気持ち、分かりますよ。そうですよね……それは、すぐに決められませんよね」
 決められないことなど、きっと人生の中では、たくさん出てくるに決まっている。進とて、警察官になると決めるまでには、ほんの少しも迷わなかったわけではない。
 そして、今また、一つの転機が目の前に降ってきている――たぶん。
 これは、特別なものだと思う。浅木はる、と言う人のことを、どうにか助けてあげたいと考える。父が突きつけた当主になるための条件、だからではないけれど。
(当主になりたいわけじゃないのだけど……)
 結婚しなくても、使用人を続けられる方法を、見つけてあげたい。
「進様……?」
 急に黙ってしまったから、はるは困ったように進の顔を見上げている。いえ、と言いながら、ほんの少しだけ笑いかける。
「とりあえず、頑張ってみます」

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【勇 と はる】

「――は、はい、承知いたしました」
 彼女は勇の言葉を、ただ受け入れる。しかし、こう応じてから、ややすると、それまで引き締めていた表情が、ふいと和らいだ。心なしか、その口の端には、笑みが浮かんでいまいか。
「何がおかしい?」
「え、いえ! おかしいわけでは!」
「では、何故、貴様は笑っているのだ?」
 馬鹿にしていると感じはしない。だが、笑うようなことがあったろうか。
 いいえ、と否定しながら、彼女は今度こそ明確に、小さく控えめながらも、くすりと笑うのだ。
 さすがに、勇は眉を顰めた。
「少し、嬉しいと思ったのです」
「何が嬉しい?」
 今、彼女が喜ぶようなことを、口にした覚えはない。
「その……勇様は当主になりたい方です。だから、旦那様の仰った条件については、もっと強引になさってもおかしくはないのに、ちゃんと私のことも考えて下さるのだと分かって、嬉しかったのです」
 これを聞いてもまだ、勇には分からない。首を傾げたい気持ちだ。
「使用人など、掃いて捨てるほどいるが、貴様は当主の専属だ。仕事のできぬ者は捨てられるものを、貴様のことは、父上も気に入っているのだろう。ならば、理不尽に切り捨てられぬ。貴様の立場も、考えねばならん」
 当然のことを考えているだけだ。
 これにも、はるは、はい、と応じる。まだ、その唇は綻んでいる。
 まだ仕事も一人前にこなせているようには見えない。それでも、彼女が当主の専属でいられるのは、当主が彼女を切り捨てる必要がないと考えているからに相違ない。仕事ができぬことを差し引いても、当主ははるに価値を見出しているのだ。それが何なのかは、勇には分からない。
 ただ、この使用人は、今まで宮ノ杜家に仕えた過去の者たちの誰とも違うのだとは感じる。
 使用人は、黙々と仕事をするものだ。命じられたことにはただ従えば良い。しかし、はるはそうも行かない。禁じられた質問をし、何度注意しても続けるので、兄弟たちの幾人かは、彼女にだけ特別、質問を許可しているようだ。勇は、許してはいないが、それでも、兄弟たちにそれを認めさせる何かがあるのやも知れぬ。
 昨年の夏、兄弟皆で、はるの実家にほど近い温泉へ行ったことも、記憶に新しい。彼女の縁談を阻止するためだと博などは騒いでいたか。これまで、兄弟だけでどこぞへ進んで出かけようなどとは思ったこともなかったし、きっかけもなかった。それが、浅木はるという使用人の出現により、兄弟の形を変えたのかも知れない。
 おかしなものだ。こうして振り返ってみると、この使用人は、存外、大きな存在になっているのではないか。そう考え始めると、妙なものだ。
 笑顔のままのはるを、勇はしばし見つめた。
「……ふむ、なるほどな」
 そして、一つ、思い至った。
「はる、貴様が使用人を続ける最良の条件を提示する」
「えっ!? もう思いつかれたのですか?」
 そうだ、と勇は首肯する。

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【茂 と はる】

「庭かな」
 正直なところ、探したくない場所だ。低木の枝葉の中に紛れていたら、見つけられるだろうか。月明かりがあっても、簡単に行くと思えない。
「……茂様、やはり」
「一人で探すのは禁止ね」
 言わんとしていることを皆まで聞かず、先回りして言うと、小さな子どものように項垂れるはるに、笑いかける。
「見つからないままじゃ、俺もすっきりしないからさ」
 これは半分ほど、本音だ。ちょっと面倒だと思ってもいるけれど、一緒に探すと言ったのは茂自身だ。
 何より、家族からもらったお守り一つを、一年以上懐に入れ、大事にしていたのかと思うと、胸の奥から温かなものが湧き上がってくる。だから、放っておきたくはない。
(結局、それが本音かなあ)
 自分でも、よくは分からないけど。
「でも、もう夜も遅いですし」
「それは、俺が君に言いたかったことなんだけどね」
「う、申し訳ありません」
 謝って欲しかったんじゃない。ただ、困った顔を見たくて切り返した。
 一つ、思いついた。
「それならさ、明日、君が仕事している間に、俺が探しておこうか?」
 案の定、はるはぎょっとして、茂の顔を見上げた。
「そんな、いけません!」
「どうして? 君は仕事ができるし、俺は暇潰しできるし、いいと思うけど」
「たとえ茂様がお暇だったとしても」
「いや、昼間は俺、本当に暇なんだよね」
 やす田で芸者をするのも、夜のことだ。昼間も日が出ている間中、寝ているわけでもない。起きた後、夕暮れまで時間を持て余しているのは事実だ。
 どうしようもない放蕩息子。芸者の揚羽の正体は、宮ノ杜家の関係者以外、誰も知らない。世間の彼への評価は、仕事もせずに道楽に耽る宮ノ杜家三男、といったところか。
「まあ、俺に任せておきなさいって」

----以下略-----------


【博 と はる】

「喜助と結婚した方が、はる吉は幸せ?」