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【にょたりあ】ビードロと真っ赤な私

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はじめまして私、日本と申します。

 国の象徴として、上司に使えています。

 女の体をしていますが、その体は未熟。女になった象徴ともいえる生理も、きた事がありません。

 オランダさんやポルトガルさんやイスパニアさん。

 自分の中でかなりの国の方と交流を持ちましたが、体にコレといった変化はありません。身長も、鎖国と共に止まりました。

 もしかしたら、女の国というのはこれが完成系なのかも知れません。

 民は幸せに暮らし、兜も殆ど売り払ってしまいました。

 そのくらい、我が国は平和でした。

 皆が一様に、確かな幸せを感じていたのです。

 海の向こうは物騒な事件が多いそうです。ですが私は離れ小島。

 海の向こうなど、興味はわきません。

 時折来るオランダさんが聞き伝えてくれる、武勇伝で充分です。鞠をついて、時折昔を懐かしむ。それで充分です。何もいりません。



 そんな時の事でした。

 時代で言うと嘉永七年の一月あたりの事でしょうか。

 アメリカという異国の大陸が開国するように持ちかけて来たのです。

 私は勿論、上司は怒りに震えました。何故なら彼らは、私たちに恐ろしく膨大な要求をしたのです。

 けれども相手は大国。私たちに選択肢などありません。

 身の振り方一つで、わが国の今後が決まると、上司はコッソリと私に漏らしました。

 上司の視線の先には、あの若き国がいました。

 彼は此方に気付くと、ひとなつっこい笑顔を向けました。

 それが私と彼の、初めての出会いでした。

 彼はビードロをはめ込んだような、変な目をしていました。見ると、底なしの沼のように底が見えないのです。

 天狗の子。狸の子。

 子どもたちは好き勝手に騒ぎました。

 私も、馬鹿な……と思いつつ、自然とそうなんじゃないかと思い始めるようになりました。それほど綺麗で、怖かったのです。綺麗なのに怖いと思うなんて、化け物の類に違いありません。

 隙があれば、取り入れと、ある上司は私に漏らします。ある上司は、取り入られるなと私に漏らしました。

 互いにもらしていく一人事に、私は何も否定も肯定もせずただ受けとりました。



 アメリカさんとやらは大変非常識な方でした。

 話合いの途中なのに思いついた事を直ぐに口に出します。ですが、英語でしかも早口な為、その言葉は断片的にしか通じません。

 その度に、彼の上司はガミガミと怒ります。思うに彼はまだ子どもなのでしょう。

 馬鹿馬鹿しい。こんな国に、我が国は屈しなければいけないだなんて。腹立たしいにもほどがありました。

 その日もまた、彼は突然発言しました。

 彼と彼の上司と通訳。そして私と上司と通訳。そして後ろに女が控え、私たちはそれぞれに向き合うように座っていました。

 まるで置物のように其処に座っていた私に、それらの方々の視線が一気に向けられました。

 彼は云いました。

「君と二人きりで話がしたいんだぞ!」

 馬鹿げている。普段なら流せる彼の失言も、今日は酷く耳障りでした。

 あぁ、イライラする。

 また何時ものように、上司に叱られてしまえ。そう思ったのに、敵国の上司は何も言いません。

 何故?

 見ると、敵国の上司は、不思議な顔をしながらアメリカさんをみていました。私の上司も、同じように顔をして首を傾げていました。

「ねぇ、日本、いいだろ?」

 彼が訪ねます。上司は何も言いません。

 そこで私は気づきました。彼の言葉は英語でもオランダ語でもなかったのです。

 私たち国の間だけに通じる不思議な言語で話をしていたのです。

「一緒に庭を散歩しないかい?」

 その声は、私だけに真っ直ぐ届きました。そして水のように私に染み渡りました。

 私は相変わらず不思議な顔をしている上司に事情を話ました。

 上司は渋りながらも、「粗相のないようにな」と言いました。

 あちらも事情を話したとみえ、彼は勢いよく立ち上がりました。

 ビードロは光を受けずにキラキラと輝いていました。その目は何時もより一層綺麗でした。

 私はゆっくりと立ち上がりました。

 すると、後ろに控えていた女が「あっ」と声を上げました。

「祖国。足を怪我していますわ」

「え…?」

 女に言われて私は足を見ました。紫色の着物からはみ出た足からは、赤い血がながれていました。

「日本。大丈夫か?」

「はい。どこかで引っ掛けたか、内戦が起こったのでしょう。……お客様の前ですいません。至急手当てをしてまいります」

「あぁ。いい、別室に移動するからここで手当てしなさい」

 男たちは数回話をして、部屋を後にしました。

 女の血が流れてケチがついたとでも思ったのでしょうか。自虐的な言葉を喉元で飲み込みました。

 部屋を出る時、彼は私をチラリと見ました。彼は私を心配しているようでした。私は彼を安心させる為、思わず微笑みました。



 部屋に残ったのは、私と女だけになりました。

「今は皆殺気だっていますわ。大方、どこかで小競り合いでも起きたのでしょう」

「えぇ、それに今日はなんだかずっと頭痛が酷くて。これもアメリカのせいなのでしょうか?」

 女の手が、カタカタと震え始めました。

 肩を叩くと、女は顔を上げました。

 女の目は真っ赤でした。ですが、泣いてはいません。ただ真っ赤に染まっているのです。

 この国の女は、夫や息子が死んでも人前で涙を流す事はしません。なぜならそれが誇りであり美徳だからです。

「……わが国は、戦争になるのでしょうか。私の夫は、今こそ立ち上がる時と毎日私に言い聞かせます。だけど私は怖いのです。祖国」

「…………」

「あぁ、祖国。私は告白します。私は弱い女です。あの人の妻失格でございます。ですが……あの人に幻滅される事よりも、あの人が死ぬ事の方が怖いのです」

 私は国なので、女の気持ちはよくわかりました。

 だけど女としての気持ちはよくわかりません。これだけは上手く理解できません。

 流れぬ涙を袖でそっと拭いてやると、女は大層喜びました。

 振袖と間着を脱ぎ去り、下着を捲り上げると、女は再び「あっ」と声を上げしました。声は先ほどより大きく、どこか艶を感じました。

「おめでとうございます、と言っていいのでしょうか。………いえ、これは女として、一家の母として申し上げますわ。祖国、おめでとうございます」

 女は深々と頭を下げました。

 そして、私は自分の体の異変に気付きました。

 私の太ももにゆったりとした線を描きながら、赤い血が伝っていたのです。

 (おめでとうございます。)

 それは地獄の言葉のように感じました。

 私の自覚のないままに、私の体は成長していたのです。

 私は逃げられぬ事を悟りました。目の前の女も、この国の運命を感じとりました。



 女が着せた黒い着物は、ただでさえ暗い気持ちを、更に重くさせました。だけどこれが習わしなのです。そう女は教えてくれました。

 私は黒い着物の袖を重たげに振るわせながら、敵国の姿を探しました。