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比翼連理

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1. 甦エル命


-1-

 ―――闇は去り、光溢れる花園が目の前に広がる。

 その光景を満足そうに眺め、春の木漏れ日のように微笑むアテナの姿があった。
「これで、ようやく聖戦前のようになったわ。あとは……ここの美しい宮守を目覚めさせるだけ」
 振り返り、アテナの前に跪く黄金聖闘士に優しく微笑む。ムウ、アルデバラン、サガ、カノン、デスマスク、アイオリア……童虎、ミロ、シュラ、カミュ、アフロディーテ、みんな……。
 伏して待つ、誇り高き黄金聖闘士たちに慈愛の瞳を向ける。彼らの想いを抱きしめながら。本来ならば、阿頼耶識に目覚めさせてくれた彼を、いの一番に復活させてあげたいと思っていたのだけれども。
 悲しい思い出に彩られたまま破壊された処女宮と、この神聖な沙羅双樹の園をそのままに、彼を 現世に復活させたくはなかったから。

 それに。

 あの金色に輝く黄金聖闘士ならば、異界の中とて一人でも強くあれるはず。
 他の黄金聖闘士たちは気が気でない様子であったが、アテナの想いを知ってか、黙って処女宮の修復に心血を注いでくれた。もちろん、他の青銅や白銀聖闘士たちも。
 本当に自分の身には過ぎた者たちばかりだと、そして、信頼に足る彼らとともに在れることをどれほど嬉しく思えるだろう。
 そよぐ風が沙羅双樹の園に咲き誇る花々を優しく撫でる。アテナは二対の沙羅双樹の根元を見つめた。記憶の中にある、かつて散っていった沙羅双樹の花々……。
 消えゆく尊き生命の煌めきを惜しむかのように、狂い咲き、舞い散っていった花。ほんの少し記憶の片鱗に触れるだけで、目頭が熱くなった。
 意を決し、呼吸を整えるとアテナは両腕を大きく広げた。
「さあ、戻って来て下さい。貴方を愛し、待つ者達が集うこの場所へ。生命の煌めくこの園へ!」
 アテナの高貴なる小宇宙が高まる。透明な風が流れる。光が一点に凝縮する。
「シャカ」
「シャカよ……」
「ここへ……」
「戻って来い」
「―――待っている、皆が」
 凝縮する煌光の珠の眩しさに黄金聖闘士たちは目を細め、祈る。



 シャカ!



 カッ!!

 光が弾けた。

 そして。

 光の残滓。

 淡い人影が揺れる。



   トクン。




   トクン。



   トクン。


 温かな鼓動が聞こえる。心地よい金色の小宇宙が黄金聖闘士たちを包み、沙羅双樹の園に広がる。やがて、それは処女宮全体に広がり、白き翼を広げるが如く、優しく抱く。

 帰ってきたのだ。
 彼が。
 この処女宮の宮守が。

 自然と黄金の聖闘士たちの瞳から涙の雫がこぼれ落ちた。



作品名:比翼連理 作家名:千珠