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比翼連理

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 急速な浮遊感とともに、五感が研ぎ澄まされていく。己の身体を優しく抱く羊水の中で、ゆっくりと目を瞬かせると薄い膜の向こう側で揺らぐ巨人の姿を認めた。傷だらけの巨人は大きな単眼で己を見つめていた。
「生キテル。生キテル……ヨカッタ」

(ここは?これは一体、なんだ?)

 巨人は直接心に語りかけてくる言葉に一瞬驚いたように目を瞬かせると、少し細め、口端を上げる。優しい笑顔というには程遠いが、巨人なりに笑みを何とか作ろうとしているようだ。
「ココ、母サン。俺、生マレタ。光、消エル、悲シイ。ダカラ、ココ着タ。母サン、優シイ……光、大丈夫。光、消エナイ!」

(―――おまえの言いたいことがよくわからぬが……つまるところは、何か生命の源である力が存在するところということか?)

 たどたどしい言葉で伝えようとする巨人の言葉では、すべてを理解するまでには至らなかったが、要するに何か特別な力が宿る場所であるのだろうと、勝手に解釈する。
 無数にあった傷は痛みもなく、見事にその痕さえも見当たらない。瀕死であったはずだが、少なくとも、復活時の体力ぐらいまでには戻ったようである。

(しかし……これでは身動きが取れぬ。ここから出したまえ)

 膜を突き破ろうと手を伸ばすが、ふにふにと心許ない感触でありながら、一向に幕は破れる気配がなかった。
「光消エナイ。デモ、弱イ。マダ、光小サイ。母サン、出ル、ヨクナイ。無理!」

(―――フ。無理、かね?)

 巨人にすれば、思いやりの言葉なのであろうが、少なからず『弱い』だの、『小さい』だの、『無理』などという言葉はシャカの矜持を刺激した。
「ダメッッ!!」
 巨人の制止も聞かず急速に小宇宙を高め、一撃を放った。

―――バシャアーーーッ!

 膜が破れ、羊水のような水が勢いよく流れ出た。その流れに乗ってシャカも身体ごと流される。
「げ…ほっ!ゴホッ…ごほっ!」
 シャカは肺に溜まった水を懸命に吐き出した。思いのほか外の世界は寒く、一気に濡れた身体から体温を奪い去る。シャカは口唇の色を失くし、小刻みにぶるぶると震えた。
「アア…ッ!?ドウシヨウ!」
 オロオロと手を伸ばしては引っ込める巨人に構うことなく、しとどに濡れた身体を震わしがら、シャカは立ち上がろうとするが、足に力が入らず、産まれて間もない小鹿のように、へなへなとその場に崩れ落ちた。
「く……!」
 自由の利かぬ己が身を呪い、瞳だけは意思強く周囲を見回す。大理石で覆われた冷たい室には扉の存在もなく、柱と柱の間では人とは思えぬ醜い姿をした化け物たちが行き来しているのが見て取れた。
「ジットシテ、動カナイデ、待ッテテ!」
 そういうと、ドスドスと地響きを立てながら、単眼の巨人が何処かへと姿を消した。
「今が……好機というのに……っ!」
 室の中心にある柱を目指し、力の入らぬ足を引き摺るように床を這いながら、進む。ほんの数メートルしかない距離が遠く彼方のような気がしてならない。
 水分を含んだ衣が、まるでシャカを放さぬ亡者たちの恨みの手のように幾つも伸びて常闇に引き摺り込もうとしているかのようだ。
 それでも、必死になってずるずると柱までたどり着き、柱の凹凸に爪をかけ、何とか立ち上がろうとする。
 ガリっと嫌な音とともに爪先が割れ、痛みに顔を顰めるがそれでも構わず、しがみつくように立ち上がった。
「…はぁ……はぁ…」
 ただ立ち上がろうとするだけで、どれだけのエネルギーを消耗させたのか。冷え切ったはずの身体に熱が篭る。
 柱に凭れながら、深い息を数度つき呼吸を整えると、意を決したようにふらつく足元を叱咤しながら、次の柱へとすがりつく。
 そして、もう一度回廊へと続く柱を目指そうとしたとき、凶暴な光を宿した瞳がシャカを見つめているのに気づいた。
 スルスルと音もなく近づいてくる、その者の姿が薄暗い室の中で徐々に明らかとなる。上半身は鱗に覆われた女の姿。そして下半身には大地を踏みしめる足はなく、蛇のように長くうねる爬虫類の尻尾のようものがあるだけだ。
「…….」
 冷やりと冷たいものがシャカの背筋に流れる。間合いを取りながら用心深く近づいた化け物は、抵抗する気配を見せないシャカに安心したのか、細い作りの顔の口元から、チロチロと先の割れた赤い舌を覗かせ、シャカの白い貌を舐めようとした。
「私に触れるなっ、汚らわしい!」
 一瞬にして、キンと張り詰めたシャカの小宇宙に慄き、下がった化け物はググっと身体を持ち上げ、高みから見下ろすようにシャカを威嚇する。
 言葉は発せず、耳障りなシャーシャーという音が室に響き渡る。すると、回廊のほうから1匹、2匹と同じような化け物たちが結局6匹姿を現し、互いに顔を見合わせると、シャカの回りをぐるぐると円を描くように取り囲んだ。



作品名:比翼連理 作家名:千珠