比翼連理
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多くの命の犠牲による流血と破壊の旋風が吹き荒れる一方で、もうひとつの戦いは終盤を迎えつつあった。
「―――さしもの死神とて、一神ではやはり無理があったようだな」
「そうか?まだまだ準備運動にもならぬが」
唇を吊り上げ凶笑を浮かべる死神を憎憎しげに見つめる男は太陽の如く輝く黄金の瞳でタナトスを見つめた。
「まだ、ほざくか」
「残るは貴様のみだが?さぁ……どうする、ヒュペリオン?」
にじり寄る死神から少しずつ後退さっていたが、ぴたりと足を止め不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ、私は他のティターンとは違い、もとより死は覚悟の上で此度の戦いに参戦した。あとは我が子ヘリオスだけでも生き長らえてくれれば、それでいいのだからな」
「どういう……意味だ?」
「おまえたちには与り知らぬことだろうて。愚かなおまえたちは所詮、プロメテウスの掌の上で転がされていただけだ。まあ、それは我々も同じだがな」
意味深く言うヒュペリオンを厭うように睨めつけていると、不意に左前方の空間が歪んだ。
ちょうど二神の中間あたりの距離だった。
ふわりとそこから現れた者はぎょっとしたようにその場で踏みとどまり、交互にニ神を眇めた。
「おや?……間の悪い時に来てしまったようですねぇ」
観念したというようにほうっと秀麗な顔を歪ませて溜息をつく男にタナトスはぶっきらぼうに答えた。
「邪魔をするな。引っ込んでいろ」
「―――するつもりはありませんよ。お好きなだけどうぞ」
淡々と答える男を一度睨み付けたタナトスは、一瞬怪訝そうに眉を顰めたが、すぐに顔を引き締めヒュペリオンに向き直った。
「さて。決着をつけようか、ヒュペリオン?」
にやりと意地の悪い笑みを零すと、それに答えるようにヒュペリオンも軽く頷いた。
「……おまえの仲間も遅いお出ましのようだしな。早々におまえを倒して安全圏に逃れるとするか!」
放たれた最強の光と最凶の闇の小宇宙が激突する。その凄まじさを目の当たりにしながらも涼しげな瞳を向ける男……ムウ。
―――返り血を全身に浴びた死神と、かたや光源のような輝きを持つヒュペリオン。
どちらが邪神かと問われれば、自分だったらタナトスを指差すかもしれないと少々暢気なことを考えていたが、紛れもなくヒュペリオンと呼ばれた男はシャカと共にいた男と同質の力を持っていると感じ取った。
タナトスは疲れを感じさせぬ破壊力で相対しているが、ヒュペリオンの力もまたそれを凌ぐ勢いがあった。
双方の戦い振りを惹きつけられるように見ていたムウはタナトスの怒号にハッとする。
「避けろっ!!!」
目映いばかりの閃光がムウに向かって放たれた。まずいと思った瞬間、ビリビリと空気が震動した。