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比翼連理

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「―――おかえり。どうやら無事終わったんだね」
「ああ」
 ふわりと光の球体の中から現れたプロメテウスの表情を見て、ヘリオスは事が上手く運んだらしいと悟り、笑顔を向けた。
「そう。それで…会えた?」
 愛しそうに光の球体を見つめるプロメテウスの表情は常に無いほど満ち足りたものだった。その表情をみれば、答えは明確だった。
 ずっとずっと求めていた愛しい者に会えたのだろう。
「よかったね……」
 ずっと苦悩の面を張り付かせていた彼を一瞬にしてこんな表情に変えてしまったペルセフォネ。どうしてこんな風にふたりは離れ離れにならなければならない運命にあるのだろうか。やりきれない想いをヘリオスは抱いたが、刹那の時だけでも通い合うことができたのならば、ふたりはきっと永遠に想いを抱きしめていくのだろうと思うのだった。
「どうして、君たちだったのだろう」
 つい毀れでた言葉にプロメテウスは悲しく笑った。
「――それが運命だったのだろうな」
 あまりにその声が穏やかなものだったからなのか、それともプロメテウスが切ないほどに綺麗な笑顔を向けられたからなのか、ヘリオスの瞳から光る滴が零れ落ちた。
「違う選択肢もあったのに。どうして?」
 それこそがプロメテウスが望むほんとうの未来のはず。そんな風にずっと優しい眼差しで愛しき者と共に歩むことだって、できたのではないのだろうかとヘリオスは思うのだ。
「私の望む未来はひとつだ。私の意志はペルセフォネに伝えた。あとはペルセフォネに託すのみ。そしてそれが……私の望む未来となるはずだ」
 静かに光に包まれて眠る人間にもう一度だけ優しい眼差しを向けてそっと瞳を伏せた。
「アテナやハーデス、ポセイドンに真実を伝えても良かったんじゃない?」
 その言葉を吟味するかのように、じっとヘリオスを見つめたプロメテウスは小さく吐息を零した。
「いや。それこそ奪い合いとなり、いらぬ争いが起きただろう。彼らは今“私”という共通の敵が現れたことで結託している。私を貶めた者たちへの復讐の意味もあるが、彼らが結束しあわねば、万一……ペルセフォネが暴走した場合の抑止力とならないのでは困る。それに彼らが協力し合わねば、あの男の真の目的を打ち破ることはできぬのだ」
 一瞬、瞳がひどく凶暴な色合いを帯びた。プロメテウスは『天球』以外にもまだゼウスが野望を抱いているとでも言いたいかのようだった。
「真の目的?それは……あの約束に関わることかい?」
 それには答えず、ゆっくりと瞑目したプロメテウスには常の厳しい表情が戻っていた。
「さあ、行ってくれ。ここはもうすぐ破壊の渦と化す。ヘリオス……君への呪縛はもう解いてある。ほんとうに……君には随分と世話になった。ありがとう」
「君のためならば、なんだってするさ。あの約束は必ず守るから……必ず」
 すっと差し伸べられた無骨な手を握り返し、精一杯の笑顔を浮かべて答えた。
「さようなら、ヘリオス」
「さようなら……再び会えることを祈っているよ」
 ほんの少しだけ目元を和らげたプロメテウスの手が緩む。ヘリオスは雄々しい男の姿を目に焼き付けた。
 もう二度とは会えぬだろうとわかっていても奇跡を信じたかったから、再度同じ言葉をヘリオスは繰り返した。
「ほんとうに……もう一度会おう!」
 プロメテウスに向かってヘリオスは叫ぶと、その姿をすっと大気へと溶かしていった。ヘリオスの姿を見届けたプロメテウスは静寂の中で輝く光をしばらく見つめる。
「曙光の君よ。あまねく君の光で世界を照らしておくれ」
 そして子守唄でも歌うように静かに言葉を紡ぎ出した。


 破壊者よ。
 我が元に訪れたまえ
 時は満ちた。
 天と地の狭間にありて
 揺るぎ無き世界を齎す者よ。
 この腐り崩れ堕ちた世界を破壊し
 すべてを無に帰する者よ

 新たな世界を創る者よ
 訪れたまえ
 我が元に。


 大地を、大気を震わす轟音が鳴り響く。光の卵は胎動するかのように一層の輝きに満ちた。
 生まれいずる者は光か、闇か―――それとも混沌か。
 プロメテウスはそっとその光を見守った。




作品名:比翼連理 作家名:千珠