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Weird sisters story

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Clotho 7




薄暗い通路を、アスランは難しい顔をして歩いていく。
その手には先程のシステムデータが握られていた。
(シン・アスカ、か……)
彼のテストパイロットとしての素質は全く問題ない。
しかし、妙に引っ掛かるものがあった。
チラリ、データファイルに目を落す。
彼の初期能力が、回数を重ねる毎に高くなっている。
尋常じゃないスピードだ。
以前、これに良く似た事を経験した事がある。
不完全なOS、最悪のコンディション、それらを一気に解決させたあの――。
と、アスランはここまで考えて頭を振って紛らわせた。
ある筈がない、と声もなく呟きながら。
自室のロックを外す。
驚いたのは、部屋の明かりが灯っていた事だ。
「……レイ!?」
呼ばれて気付いたのか、彼は向かっていたパソコンから目を離し、立ち上がって敬礼する。
「お疲れ様です」
「お疲れ様って…戻らなくていいのか?」
もう深夜、などとっくに過ぎてしまっている時間帯だ。
何をしていたのだろう、と近くに寄り覗き込めば、インパルスのレッグフライヤーのバグの除去をしていたようだ。
それはアスランが自室に戻り、やらなければならないと考えていたものだった為に殊更驚く。
「勝手だとは思いながらも、手伝わせて頂きました」
「そんな事はいい。君、最近寝てないだろう?」
アスランの問いかけに、レイは短く「そうでもありません」と答えた。
わかりきった嘘だ。
遅くまでアスランと共に仕事をし、朝は自分より早く起きて支度をしている。
アスランでさえ睡眠を確保できる時間はほんの2、3時間だ。
下手をすると彼は全く寝ていないのかもしれない。
「今日はもういい。明日は昼からの仕事を頼みたいから、それまで自室で」
「折角ですが、結構です。それに私の仕事は貴方の」
「世話係、か?」
先立って言い捨てると、青い瞳は驚いたように見開かれた。
長い溜息を落すと、真っ直ぐレイに向き直った。
「レイ、仕事熱心なのはいいが、働きすぎて倒れては意味がない」
「私は、」
「いいか、今日のところはゆっくり休むんだ。…これは命令だ」
それでもどうにか返せないか、思案したようだが諦めたように唇は閉ざされた。
「……わかりました」
視線を下げた、レイの瞳には何も映っていない。
アスランがこうして戻ってきたという事は、彼もまた戻っている。
会いたく、ない。
会ってしまったらもう、戻れない。
意を決して、レイは拳を握り締める。
「一つだけ、頼んでも良いでしょうか?」
「なんだ?」
顔を上げた。
「ここに居させて下さい」
アスランは瞬きを数回、繰り返した。
「ここって…俺の部屋ここか?」
「……ご迷惑、でしょうか」
「いや構わないが…いったいどうして?」
金色の睫毛が僅かに震えた。
それを隠すように再び俯く。
「帰りたく、ないんです…」
喉の奥から出した小さな声。
それは今にも泣き出しそうな声音だった。





実際、今日行ったのは簡単な動作確認のみだ。
それも実体機ではなくデータを登録したシミュレーションマシンに乗って、だ。
それでもかなりの改善点が見つかった。
取り分け、他の4機とは根本的なフレーム構造が違うX56S−インパルスは相当数のOSの書き換えが必要だ。
一箇所書き換えてはまたどこかに不具合が起きる、の繰り返しである。
半数以上、そうやって改善したところで時間を確認してみれば、もう寝なければならない時間だった。
レイにああいった言葉を吐いておいて、自分が倒れてしまっては元も子もない。
ログを保存し、そのまま電源を落す。
座りっぱなしだった身体を解す為伸びをして、今後のスケジュールを確認しベッドルームへ足を向ける。
ドアの前に立つとセンサーが反応し、圧縮式のドアが開く。
薄暗いだけに、フットライトだけが頼りだった。
ベッドに近寄ると、金色の髪を流してレイがすっかり寝入ってしまっていた。
あれからソファで休む、などと言って聞かないレイを説得するのに大分苦労した。
そもそもこのベッド、アスラン一人で寝るには大きすぎる。
それに加え、疲れているだろうレイをいくら柔らかいとは言えソファで休ませるなど出来るはずもない。
漸くこのベッドを使う、という事に納得してくれたが、アスランの事を考えてかベッドの端の方で丸くなっている。
あと一回でも寝返りを打てば、そのまま床に落ちてしまうだろう。
スペースなど有り余ってるのに、と苦笑を零さざるを得ない。
いつもよりも少しだけ幼い顔立ちに見えるレイだが、ふと、その寝顔に一筋の跡を見つけた。
不思議に思い、覗き込む。
(泣いていた、のか…?)
間違いなくそれは涙の跡だ。
そのままにしておくのも億劫で、レイの前髪をかき上げてやると、そっと指先でそれを拭う。
すると、唇が何事か呟き、冷えたレイの手がアスランの指を掴む。
「……………」
アスランは絶句した。
こういう場合どうすればいいのだろうか、と考えるも答えが見つからない。
振り払ってしまう事など簡単だが、あまりに弱々しく握られていてはそうする事が理不尽に思えてならない。
暖めてやるように包み込んでやると、安心したのかレイの顔がふっと緩む。
仕方がない、とアスランは心を決めた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ