Weird sisters story
Atropos 3
撃ったそばから尽く避けられる。
逃げているだけの獲物の癖に、不用意に浮き上がると狙い済ましたかのようにビームが降って来た。
「クソッ…!」
いくら水中戦闘を得意とするアビスだろうと、水の中からの攻撃オプションにも限界がある。
見た事もないあの機体は、未だなお挑発しているかのように水面を滑空していた。
「おいスティング!何やってんだ、手伝えよ!」
空に向かって通信を飛ばすと、苛立った返事が返ってくる。
『俺だってコイツで手一杯だ!』
空ではカオスがアンノウンと戦っている。それがまた、手強いらしい。
応援は期待できないようだ。
舌打ちして、また照準を定め直した。
チラリとコンソールに視線を投げる。
エネルギーは大分減っている。持って半分といった所だろう。
「消耗戦をする気かよ!?バカか、こいつら!」
吐き捨てながら、一気に加速する。
MAの形態は、水の抵抗を最小限に抑えるものとなっている。
それ故に、空を飛ぶあの機体より速度はこちらの方が上だった。
敵機のほぼ真下に位置づけると、MSに変形した。
それに然程時間は掛からない。
一瞬の内に水面から飛び出し、両肩からレールガンを発射した。
だが、流石にアンノウンの反応はいい。
バーニアを噴射し、上昇して避けた。
「逃げんなよ、コラ!」
更にビームで追撃しようとしたその時、上からロックが掛かった。
「何っ!?」
それと同時にアビスは急遽水中へと退避した。
斜めから入射してきたビームは、水の中で散乱する。
当然、アビスを狙ったのは逃げていたアイツ・・・ではない。
その更に上空、スティングと戦っていた真っ赤な機体だ。
その事実が頭にくる。
カオスとドッグファイトをしておきながら、こちらを狙ってきたのだ。
完全に舐められている。
「上等じゃんか」
自然とアウルは口元を緩める。
こいつらとのゲームは、面白そうだ。
アウルは再びMAへと変形させながら、ディスプレイの敵機を睨みつけた。
司令部コマンドポストのドアを潜ると、そこは騒然としていた。
突然、ザフトが襲撃してきたのだ。無理もないだろう。
「状況は?」
「ロアノーク大佐!」
今までこの場を指揮していた中佐が振り返る。
仰々しく敬礼をすると、口を開いた。
「現在、ポイントN52、E170にてザフト軍と交戦中。我が軍はムラサメ隊で応戦しております!」
「敵の数は?」
「ハッ。今の所バビ8、ディン12、それとアンノウンが2機、確認されております」
「アンノウン?」
「これです」
中佐は慣れた手つきで記録された映像を再生した。
そこには真っ赤な機体と、青・赤・白の機体が映っていた。
それぞれ驚異的なスペックを誇っている。
「………Sシリーズの機体に似ているな」
「はっ?…そうでしょうか?」
呟きに、まだSシリーズの機体をよく知らない中佐は首を傾げる。
「第五ムラサメ隊、壊滅!」
被害報告がコマンドポストに響いた。
戦況は五分五分、ほぼ互角と見ていいだろう。
そうなると、司令官としてするべき事はひとつだ。
「近隣への応援要請は!」
「オーブ本島、並びに他基地より、ムラサメ、ダガー隊、それと…ウィンダム隊が向かっているとの事です!」
傍に居た通信兵が画面を確認しながら答えた。
それだけの戦力があるというのなら、十分だろう。
「念のため、キャノン装備のダガーを基地沿岸に配置して置け」
「了解!」
オペレーターがそれぞれ指示を出す。
だがそこへ、思いもかけない声が掛かった。
「それだけでは恐らく、不十分だろう」
思わず、振り返る。
ネオだけでなく、コマンドポストに居た全員の視線を集めたのは、地球軍の軍服に身を包んだレイだった。
「お前っ……」
次の句が続かなかった。
彼は確か、記憶を改竄する為に『ゆりかご』へと入っていたのではなかったのか。
レイは寄りかかっていた壁から身を離すと、勝手にコンソールを弄る。
「海上へと向かった部隊を呼び戻せ。今ならまだ間に合う」
「…何の話だ」
ネオは訝しみながら訊ねる。レイは一瞥すると、更にパネルを操作する。
映ったのは、今現在の戦況をモデル化した映像だ。
「敵は精鋭少数。その場合は戦力を合一し、一点突破を計るのがセオリーだ。だが、この敵軍は分散し、各個撃破に当たってる。つまり」
ピッと音が鳴り、最初の戦闘開始地点と現在の地点が比較された。
それを見た誰もが息を呑む。
明らかに、開始地点から離れて行っている。
少々のズレなどで説明できるようなものではない。
「あの部隊は陽動だ。狙いは主戦力の隔離、そしてこの基地と主力部隊をそれぞれ挟撃するつもりだろう」
淡々とそう告げると、レイはオペレーターへと視線を投げた。
「ガイアは?」
レイからの問いかけに、一瞬戸惑ったオペレーターはネオの顔色を窺う。
彼が静かに頷いたのを確認して、発言した。
「ガイアは現在、基地沿岸部、N59ポイントにて待機中」
「直ぐにS45へと向かわせろ。敵の部隊は縦に長く連なっている。北と南を守備隊に、火力部隊はそれぞれ側面から攻撃する」
次々に飛んだ指示に、各員に動揺が走った。
彼がザフトの脱走兵だとは誰もが知っている事だ。
そのような人間の命令を、聞いてもいいものだろうかと。
「……いいだろう。各員、すみやかに先の指示に従え」
その空気を断ち切ったのは、ネオの一言だった。
彼はこの基地の最高責任者だ。
その人の言葉に従うのが軍人というもの。
「…レイ」
それぞれ各部に指示が飛ぶ中、ネオは静かに呼びかけた。
彼は戦闘映像から視線を離し、振り返る。
「『ゆりかご』は…どうしたんだ」
「もう終了した。特に異常もなかったから、ここへ来ただけだ」
あくまで単調に話すレイに、ネオは眉を寄せた。
これは本当に記憶が変わっているのだろうか。
『ゆりかご』は確実に処理が終わってからではないと開かない仕組みになっている。
だが、あまりにも完了するのが早い。
「本当に、レイ・ザ・バレルか?」
「おかしな事を聞くな。それより、戦闘に集中した方がいい。相手はあの・・アスラン・ザラだぞ」
レイの一言に、その場に居た全員に衝撃が走る。
ネオも思わず、身を乗り出して訊ね返す。
「アスラン・ザラだと!?」
レイは静かに、頷いた。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ