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Weird sisters story

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Atropos 6




データファイルを移し終えると、ディスクを取り出した。
後はこれを開発部に持っていくだけだ。
レイは立ち上がると、パソコンの電源を落とした。
持ち出したいくつかの資料とディスクを手に、部屋を出る。
これが終わったら次はメンテナンスの為にハンガーに向かわなければならない。
着々と頭の中で今日の計画を立てていると、通路を駆ける忙しい音が聞こえてきた。
しかもそれは確実に自分に向かっている。
溜息をついたレイが振り返るより早く、アウルが背中から飛びついた。
「レイ、はっけーん!な、バスケやろーぜ」
「この間やったばかりだろう」
「今日はチーム変えてさ、僕とレイ、スティングとステラ!」
子供のように目を輝かせてアウルが腕を引く。
それに諦めたような笑みを零して、レイはディスクをアウルの目の前に差し出した。
「これが終わったら」
直ぐに不満そうな声が返ってくる。
「えー?いつ終わんだよソレ。だいたいレイって働きすぎだぜ。もっとあいつら使ってやればいいのに」
頬を膨らませるアウルの頭をポンと叩いて、レイは踵を返した。
背中越しに、しぶしぶといった感じの声を掛けられる。
「終わったら絶対来いよ!待ってるからな!」
少しだけ振り返って、笑って答えてやった。
アウルはまた来た道を走って戻っていく。
おそらく、自分を探しに基地内を走り回っていたのだろう。
一体どこからそんな元気が溢れてくるのか、少し謎だ。
通路を曲がり、開発部のドアを開ける。
そこに思わぬ人の姿を見つけた。
「…ネオ?」
「あぁ、レイか。どうしたんだ?」
「Sシリーズの機体の限界出力の計算結果を届けに来た」
「なるほど」
それっきり、仮面の男は目線をディスプレイに戻す。
気になって、レイもそれを覗き込んだ。
ZGMF――ザクのデータ画面だ。
「これは…」
「以前、この近海で起こった戦闘の時に落とされた、ザクファントムのサルベージに成功してな。機体はもう駄目だが、装備は修復可能だそうだ」
「ブレイズザクファントム…指揮官機だな」
事も無さげにレイが呟く。
一瞬だけ、ネオの口元が歪んだ。
この機体が一体誰の物であったか、知ったらレイは何を思うだろう。
「ネオ?」
「…いや、何でもない」
そう言うと、レイは怪訝そうな顔をした。
だが直ぐに、傍に居たチーフにディスクを渡す。
そのまま出て行こうとしたレイに、ネオは驚いて声を掛けた。
「見ていかないのか?」
てっきりレイの事だから、このザクのデータの解析に参加するとばかり思っていたのだが。
「早くメンテナンスを終わらせないと、先約がある。あまり待たせて拗ねられても困るからな」
緩く微笑して、レイはドアの向こうへと消えた。
ネオは腰に手を当てて納得する。
「アウルか…まったく」
「あぁしていると、やはり子供ですね」
画面ばかり睨んでいたチーフが、ふと零す。
ネオはその言葉に首を横に振った。
「さぁ、これほどの知識と技量を秘めた奴だ。あれは人間というより、よほど…」
続きは、口にしなかった。
感情の起伏はあるが、それは上辺だけのもの。
本当のレイの心を知る者など、誰も居ない。
いや、とネオは記憶を思い起こす。
たったひとり、居るのではないか。
記憶を消す前に、彼が涙を流しながら零した名前。
レイのあんなに切なげな表情を見たのはあの時が最初で最後。
(誰、なんだろうな…)
ネオは溜息をつくと、その思いを振り払うように再びザクの画面に見入った。







驚きに、咄嗟に声が出なかった。
なのに目の前の人から零れる言葉は止まらない。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて遮ると、今度はギルバートが驚いたように目を見開いた。
「どうしたね?」
「本気なんですか、それは!」
「アスラン、ここは冗談を言って済むような場所ではないだろう」
と言う事は、やはり本気なのだ。
今、彼が言った言葉は。
「ザフトの半分以上の戦力を持って、総攻撃…」
確かめるように繰り返した後、アスランは真っ直ぐにギルバートを見た。
「ご再考ください。とても良案だとは思えません」
「それは、どうしてかな」
「お言葉ですが、現在ザフトと地球軍の戦力はほぼ同等。精鋭寡兵で攻める我が軍と、数で攻める地球軍とが戦えば、戦況は泥沼です。お互いの戦力が尽きるしか、決着はつかないでしょう」
「それでいいのではないのかね?どうせ、こちらには『あれ』があるのだ」
「しかし、徒に兵を減らすばかりでっ…」
「そこをどうにかするのが、隊長ってもんだろ」
急に背後から掛かった声に、振り返った。
トダカがドアに腕を組み、寄り掛かっている。
「あなたは…トダカ一佐…」
「どんな任務だろうと、文句ひとつ言わずに遂行する。それがフェイスの役目だろう?」
アスランは口を噤む。
確かに軍人である以上、上からの命令は絶対だ。
「言われた任務は全て完遂する。俺はそういう奴を知っているんだがな」
ハッと、アスランが息を呑んだ。
誰の事を言っているのか、判ったのだ。
「…どうしても、総攻撃を仕掛けるおつもりですか」
「あぁ、そうだ」
「…………判りました」
アスランは敬礼をし、背を向けた。
失礼しました、と声を掛け、部屋を後にする。
(…絶対に、おかしい)
眉を寄せたまま、アスランは苦い表情で部屋に向かった。






ドアが閉まる音がすると、トダカはやれやれと首を振った。
「さすがはアスラン・ザラか。馬鹿ではないな…勘がいい。あなたの事も、薄々気付いているかも知れませんよ?」
「あぁ、彼は優秀な兵士だね。君と同じだ」
ギルバートは微笑をつくる。
トダカは机の前まで歩くと、慇懃に敬礼した。
「で、俺を呼んだのは何故です?とうとう牢に連れ込む気になったんですか?」
まさか、とギルバートは引き出しから一枚の紙を取り出す。
見るからに、極秘文書だ。
「私の理想を一番良く理解している君だからこそ、捕えるのではなく役に立って欲しいと思うのだよ」
「ははっ、コソコソあなたの周りを嗅ぎ回ってた奴にこんな重大任務を任せるとは…。つくづく、あなた方には驚かされる」
ギルバートはただ静かに、微笑んだ。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ