Weird sisters story
Atropos 7
灯りも付けずにぼんやりと中を眺める。
最近はずっと、時間が空くとこうやって何も考えずに過ごしている。
ふと、もうひとつのベッドが目に入った。
随分と長く使われていない。
いや、もう使われる事もないだろう。
「………レイ」
呟いた名前は、懐かしい感覚さえ呼び起こした。
目を閉じれば、いつだってレイが脳裏に浮かんだ。
手を伸ばせば、その柔らかい髪に触れられそうで。
抱き締めたい。
けど、そう思った瞬間にいつもレイは消える。
後には空虚な時間が残った。
どうしてこうなった、なんて、もう考えていない。
アスランのように暇が出来る度に探し回って、今、何処で、何をしているのかなんて、知りたくない。
「レイ……」
ただ、この想いだけを持て余す。
コツリと掌を額に当てた。
すると、コール音が鳴る。
出るのも面倒で聞こえないフリをした。
すると、勝手にドアが開く音がする。
あぁ、鍵、掛けてなかったんだっけ。
「あ、やっぱり居た」
高い声。
マユが小さいくせに腰に手を当て、偉そうに上から見下していた。
「ご飯、食べよ」
「…勝手に食べればいいだろ」
「お兄ちゃんが食べないんだったら、私も食べないから」
踏ん反り返って、意地でも動かないとでも言いたげに口を尖らせる。
あぁ見えて、心配しているのだろう。
証拠に、マユの瞳は不安そうに揺れていた。
なぜだか、少しだけ判った気がする。
今俺がここに居て、こうやって戦うのはきっと、自分を心配してくれる皆の為。
ひとりだったらもう、生きている意味さえ見失っている。
シンはベッドから起き上がり、まだ怪訝そうに見上げてくるマユの頭を撫でてやった。
驚いたように見開かれる瞳。
ドアまで歩いて、不意に口を開いた。
「何食べる?」
少しだけ振り返り訊くと、弾かれたように破顔して駆け寄ってくるマユの姿。
上辺だけの笑顔を浮かべながら、思う。
戦闘に出る事が恐ろしくないのは、死ぬ事が怖くないから。
どうせ生きていたって、あいつに会えない事は判っている。
だってもう、会うつもりもないんだから。
レイならきっと、それを運命と呼ぶんだろう。
それなら。
こんなに弱い心なんて、最初から要らなかったのに。
ふと、思う事がある。
右手にある、酷い傷痕。
こんなに大きな怪我を負った記憶などなかった。
だがそれが、最近よく痛む。もう完治しているというのに。
そっとその痕に触れると胸が軋んだ。
どうしようもない、溢れ出しそうな切なさで胸がいっぱいになる。
理由など判らない。
「…イ、レイ!」
ハッとして顔を上げる。
握り締めていた右手を解いた。
呼ばれた方へと視線を向けると、ネオがこちらを見ていた。
「大丈夫か?少し、休憩でも」
「いや、いい。続けてくれ」
大事な時にぼうっとしていた自分を叱咤した。
こんな風に集中できない事など、滅多にないのに。
ネオはまだ少し躊躇いながら画面を指差した。
「…このバックパックは何とか装備する事が可能だそうだ。その他のオプションは、残念ながら使えないらしいな」
「充分だ。撹乱にも使えるだろう」
「問題は、ブースターだな。重量超過でスピードが落ちるそうだが」
「それなら全弾掃射した後、リジェクトすればいい」
「…なるほど」
考えもしなかった答えにネオは頷く。
相変わらず、レイの利発さには驚かされる。
「ロアノーク大佐!」
ブラックアウトしていた部屋の中央のモニターに通信兵が映る。
それと同時に慌しい声が掛かった。
「どうした?」
「本部より、緊急通信です。至急、コマンドポストへ!」
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ