Weird sisters story
Atropos 10
モニター上に映っていたバビが3機、海へと落ちていく。
これで第一波を突破した。
「アウル、そのまま右の離島を迂回、スティングの後ろに回れ」
『りょーかい』
満面の笑顔の映像が映っては消えた。
このような苦しい戦闘でも、相変わらず楽しんでいるらしい。
「ステラ、状況は?」
『敵…消えた』
「前方に足場があるだろう。そこに移ってくれ」
『わかった…』
全体に指示を出し終えると、レイもまたバーニアを噴かした。
今までのは手応えからして前哨戦といったところか。
本格的な戦闘はここからだ。
レイの読みどおり、モニターに映る機影がある。
セイバーとインパルスを前面に並べた陣形。
恐らく、あれが今回の主戦力の部隊なのだろう。
『レーイ!あれ、やっちゃうぜ?』
「あぁ。スティングは?」
『こちらも捉えた。アウル、行くぜ!』
カオスとアビスがインパルスに向かって直進する。
今回のモジュールはブラストインパルスだ。
あのモジュールは火力が半端ではない。主に拠点攻撃に用いるものだ。
一応、先行した2機にその事を打診した。
『要するに、撃たせなきゃいいんだろ?』
『お前こそ、あの赤い奴を落とせよ、レイ』
アウルとスティングからの返信に微笑で答えると、そのまま操縦桿を上にあげる。
そろそろセイバーの射程距離内に入る。
その前に、上に広がる雲の中へと入った。
視界が真っ白になる。
だが、レイはディスプレイではなく座標を確認していた。
ある一定の場所まで来ると、急激に降下する。
雲から抜け出て降り立った場所は、狙い通りセイバーの真ん前だ。
ウィンダムの背中に背負ったバックパックから、誘導のファイヤビーミサイルを発射する。
とっさに回避行動をとるセイバーだが、ミサイルはセイバーではなく周りに居た他の機体を尽く狙っていった。
その隙にビームサーベルでセイバーに切りかかる。
だが、さすがはアスラン・ザラと言ったところか。
回避行動から一転、防御をするでもなく逆にビーム砲を撃ち返してきた。
レイは舌打ちをして切りかかろうとしていた機体を制御、バックパックを切り離す。重量が減り、スピードの上がった機体を上昇させた。
プラズマのビーム砲はレイがリジェクトしたミサイルパックを爆砕。
噴煙に気をとられている隙に今度はライフルで防御の薄い背面を狙う。
しかし僅かに掠っただけで後は綺麗に回避されてしまう。
(さすがに、簡単にはいかないな)
相手との距離をとりつつ、冷静に分析する。
今どう動くのが一番有効であるのか、恐ろしいほどの正確さで無駄のない行動をしている。
スピードとしてはあちらの方が上だ。
問題は、そのハンデをどう補っていくか。
頭の中で緻密に作戦を立てながら、レイの操るウィンダムはライフルの照準を合わせていった。
空からふってくる破片が雨のようだと思った。
海面に叩きつけられて水滴が跳ねるのは、いつか見たクジラに似ていると思った。
ステラはそれが見たくて、ライフルで空を飛ぶ大きな鳥みたいな機体を落としていく。
水飛沫は太陽に照らされてキラキラと光る。それがとても綺麗だった。
だが、それを遮るように警告を知らせるアラームが鳴り響く。
「!」
咄嗟に機体を変形させ、四足獣型のMAになる。
地面を蹴ると、直ぐ隣に浮かぶ小さな島に着地する。
画面には、さっきまで自分が居た名も無い島が真っ赤なビームにより粉々に砕かれていく様子が映っている。
パネルを操作して、今ビームが飛んできた方向を拡大表示する。
見えたのは、赤いガナーザクウォーリア。
ソレハ敵ダと、脳が認識する。
記憶が感情を増大させた。
「アイツ…!!」
この機体を強奪した時にいた、あの赤い奴。
仕留められなかった、敵。
突撃砲を撃ちながら、四足のMAが疾駆する。
空に跳ねたガイアは、両翼のビームブレイドを広げる。
ビーム砲で牽制していたザクウォーリアは、ビームトマホークを取り出すと身構えた。
「沈める…!」
ガイアの影が、ザクウォーリアの上に落ちた。
追い込みをかけるカオスの先にはあの機体がいた。
今日はこの間と色が異なる。
深い緑色をしていた。
「もらい!」
と、水中から飛び出して一斉射撃を放つ。
インパルスは上昇しようとするが、直ぐにカオスの機動ポッドが両側面から挟撃する。
空中で動けなくなった隙を見計らってアビスがビームランスを構える。
しかし、インパルスはその矛先をビームジャベリンで受け止めた。
あと少しでもずれていれば確実にコックピットを貫いている。
うげっ、とアウルが思うと同時に、インパルスはレールガンを放ってきた。
分が悪くなったアウルはいったん水中に逃げる。
海面上に、まだカオスと戦っている姿が見えた。
「んだよ、アイツ…。まるで死んでもいいみたいな戦い方じゃん」
小さくぼやくと、スティングと連絡を取った。
こいつは普通に戦っても勝てないらしい。
それならば、2機で一気に押し込んでいくしかない。
「どっちが先にアイツを仕留めるかだ」
『いいだろう』
「それじゃ、ゲームスタート!」
空と海から、一斉にビームが放たれた。
レイはコントロールにチラリと目を落とす。
随分とエネルギーも押してきている。
しかし、恐らく向こうも同様の状況のはずだ。
何度か撃墜のチャンスも作ったが、なかなか致命傷は与えられない。
それどころか、わざと隙を作り逆にこちらが追い込まれることもあった。
変形したMAをライフルで牽制していると、不意に右腕が痛み出した。
「っ、!?」
それも尋常ではない痛みだ。
痺れるくらいに。
(こんな…時に!)
みるみるウィンダムの攻勢が弱まっていく。
その隙を見逃すような敵ではない。
直ぐにMSに変形すると、ビームサーベルを抜いてこちらに向かってくる。
(右手が…!)
動かない。
防御もできず、アラートだけが鳴り響く。
振りかざす、セイバーの影が見えた。
終わりかと、そう思った。
だが、セイバーの動きが一瞬止まる。
躊躇うようにサーベルを仕舞うと、離れて行って距離をあけた。
(なんだ…?)
絶好の機会を見逃すなど。
それっきり、空中に留まっているばかりで何も攻撃してこない。
判らない。なぜ、迷うのか。
レイは眉を寄せると、通信回線を開く。
まだ痺れが残る右手ではなく、左手を伸ばしてチャンネルを合わせた。
それはザフトの使用している通信チャンネルのひとつだった。
極めて機密性の高い通信に使われているため、半径500メートルしか傍受できない。
その周波数は、あの時――隊長服に身を包んだ男から貰った紙切れに書かれていた。
「…前方のザフト機に告ぐ」
静かに、レイは紡いでいく。
「何故、攻撃を止めた?」
訪れたのは、静寂だけ。
回答なしか、と僅かにしか動かない右腕を動かし、ライフルの照準を合わせようとする。
しかし。
『…………レイ―――』
驚いた。
返って来た答えは、自分の名前だった。
『レイ、やはり…レイ、お前なんだな!?』
何度も呼ばれて、呆然となった。
何故、自分の名を知っているのか。
『どうしてお前が地球軍に居る!?いや、何故あの時――』
判らなかった。
彼が何を言っているのか。
そして。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ