Weird sisters story
Atropos 11
名前を呼ばれる度に不安が募る。
目の前に居るのはあのアスラン・ザラのはずだ。
そんな彼が何故、己の名を。
『何故あの時…逃げたんだ、レイ』
逃げた?
何を言っているのか判らない。
いや、自分の頭も酷く混乱している所為でうまく彼の言葉が入ってこない。
『そうして地球軍に居ると言う事は…君は、初めからザフトを抜ける気でいたのか?』
初めから…ザフトを?
ますます困惑する頭に、ハッとして理性が告げた。
惑わされるな、と。
これは、一種の心理作戦かも知れない。
そう思うと一気に目が覚めた。
通信から入ってくる言葉はすべてが虚構だ。
レイは目の前の赤い機体をロックした。
それでも、敵機は動かなかった。
舌打ちして、少しだけ照準をずらす。
放たれたビームはセイバーのビームライフルを撃ち抜いた。
それでも、機体は動かない。
「…何故、避けない」
不可解な敵機の行動が無性に苛立った。
『…避ける必要がないからだ』
返ってきた声は酷く冷静だった。
判らない。
この敵の…アスラン・ザラという人間が。
「戦闘の意思がないのであれば、このまま撃破する」
静かに言い放つ。
ライフルは、今度こそコックピットを向いた。
『ラウ・ル・クルーゼ』
「っ!」
聞こえてきた言葉に、息が止まる。
『…俺の上官だった人だ』
声は止まらない。
『前大戦で、俺の親友と戦った。彼も…キラも、未だに行方が判らない。戦死したと言われている』
聞いてはならない。
これは虚構だ。すべてが嘘だ。
『君の行方を捜している時、彼の存在が浮かんだんだ。小さな屋敷で…君が帰っているかと思って向かった、君の屋敷で、彼の写真を見つけた』
頭痛がした。
頭が、割れるように痛い。
『君は…彼、ラウ・ル・クルーゼのように、最後の戦争を起こそうとしているのか?』
キイィン、と耳鳴りがした。
頭の中で誰かの声が響いている。
誰だ。
お前は。
貴方は。
誰ですか。
「ち、がう…」
知らない。
そんなもの、ただ俺は。
「違う…違う!」
この声を振り払いたくて、無心にトリガーを引いた。
ライフルから放たれたビームは、セイバーを貫通する。
赤い機体から炎が上がった。
爆発する寸前、レイは、知らぬ間に叫んでいた。
「―――アスランっ!!」
浮かんで消えた、彼の笑顔。
まさか。
会った事もない。
言葉を交わした事もない。
なのに、何故そんな表情を知っていたのか。
何故、俺は泣いているのだろう。
水中戦用に作られたアビス、空中戦用に作られたカオス。
状況やコンディションは、どう見てもこちらに分がある。
なのにどうして、落とせないのか。
アウルの視線の先には、ブラストインパルスの深い緑色が映っている。
連装砲で威力の高いケルベロスを狙う。
しかしインパルスは僅かに機体を流しただけでその砲撃を容易く回避した。
機体のエネルギーも押してきている。
長時間の緊張に曝されて、息が上がる。
だが目の前の敵は、時間が経てば経つほど集中力が増しているように感じた。
2機の攻撃を防ぎながら、確実にこちらを追い詰めてくる。
「化けモンだぜ、コイツ…!」
上空からスティングが急襲した隙を見計らい、水中からも魚雷を発射する。
弾数も残り僅かだ。
回避行動に移るかと思った敵の機影は、真っ直ぐカオスに向かっていく。
放たれた魚雷は同様にインパルスを追跡している。
寸前で回避し、同士討ちをさせるつもりだろうが、そこまで甘くはない。
「スティング!」
『判ってる!』
カオスもまた攻撃を休めない。
後もう少しで減速するはずだ。
その時が絶好の攻撃のチャンス。
だが、インパルスはまだ加速し続けている。
「…何!?」
まさか、このままカオスのビームサーベルに突っ込む気だろうか。
既に、減速しても間に合わない。
そう思った瞬間に、インパルスは全砲門を真下に向けた。
ブーストを一気に逆噴射させ、同時に全ての砲撃を撃ち放つ。
その反動でインパルスは魚雷の直線上から消えた。
ケルベロスから放たれた高エネルギーのビームが海水に衝突し、蒸気が上がる。
視界ゼロになったそこに居たのは、カオスの機影。
爆発音と共に、カオスの通信が途絶えた。
「ス、ティング…」
掠れた声が出た。
その瞬間、警告のアラートが響く。
ハッとしたアウルは見たのは、真っ直ぐに投擲されたビームジャベリンの矛先だった。
四足のMAは、とにかくスピードが速い。
着弾するより早く地を蹴りこちらへと向かってくる。
「くっ!」
MSに変形したガイアが二つのサーベルを振りかざす。
必死に回避するが、間に合わない。
左肩にあるシールドで防ぐも、衝撃が殺しきれずに後ろに倒れる。
体勢を立て直すのが早いか、ガイアのサーベルが早いか。
ルナマリアは決死の覚悟でザクを操作する。
しかし、サーベルを振り下ろそうとしたガイアが、横から飛んできたビームブーメランを受け横倒しになる。
ビームブーメランフラッシュエッジと言う事は。
『ルナ!退がれ!』
「…シン!」
エクスカリバーを結合させたソードインパルスが降り立つ。
サーベルを1本失ったガイアは、ザクウォーリアの前に立った新たな機体にカメラを向け、立ち上がる。
「カオスとアビスは…!?」
『シグナル・ロストが確認された。後はこのガイアだけだ』
あの2機を、落としてきたらしい。
シンは、いつの間にこんなに強くなっていたのだろう。
赤いインパルスの背中を見ながら、ルナマリアは唇を噛む。
だがそんな感傷に浸る暇もないまま、ガイアが動く。
MAに変形し、右や左にランダムに動きながら撹乱してくる。
インパルスは頭部のバルカン砲でそれを牽制すると同時にフラッシュエッジを放つ。
怯んだその隙にブーストを急速に噴射させ、一気に距離を縮めた。
ガイアもビームブレイドで迎え撃つが、エクスカリバーはそれを斬り倒した。
ショートし、小さな爆発が起こるガイアに向けてインパルスが更に斬り込もうとするが、ガイアは口元のビーム突撃砲を撃ち放つ。
距離をとる為に離れたインパルスの影から、ザクのオルトロスから放たれた高エネルギービームが現れた。
回避する前にガイアの前脚を爆砕。
動けない機体へと、戻ってきたビームブーメランが突き刺さった。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ