Weird sisters story
Atropos 12
圧しているのか、圧されているのか。
逐一入ってくる大まかな情報だけでは、判断が曖昧になる。
「第七護衛艦隊、沈黙!」
「敵中央線、突破しました!」
「あ…アビス、カオス、共に…シグナル・ロスト」
「何!?」
飛び交う声の中で、それだけは聞きたくなかった声だった。
ネオは身を乗り出して聞き返す。
「パイロットは!?」
「生死不明です!現在回収班が向かっています!」
「ガイア、シグナル・ロストが確認されました!」
「なっ………」
コマンドポスト内の空気が冷えた。
騒ぎだっていた音が、沈黙する。
「大佐………」
傍らに立っていた中佐が、おずおずと口を開いた。
主戦力だったG3機が落とされるなど、状況は絶望的だ。
誰しも、最悪の事態を考える。
だがそこへ、思わぬ吉報が入ってきた。
「セイバー、撃沈!」
「!」
セイバー、という事は。
「パイロット及び機体の状態は!」
「ウィンダムに軽度の損傷は見られますが、まだ行けます!」
「よし!レイに繋いでくれ!」
ネオは渡された通信機を手にする。
あの3機が落とされた今、鍵を握るのは彼だけだ。
「レイ、あの3人が落とされた。やったのは恐らくインパルスだろう。今直ぐ行けるか?」
返事を待った。
だが、焦る気持ちとは裏腹に、返ってくるのは耳障りなノイズだけ。
「…どうした、レイ…レイ!?」
「ぼ、妨害電波確認!」
通信兵が慌てて報告する。
見れば、戦闘の様子を映し出していたメインディスプレイさえ砂嵐になっている。
ネオは通信機を投げ捨てると、ドアへと向かう。
出て行く寸前で、中佐が追ってきた。
「大佐!どちらに…」
「ウィンダムを出せ!俺が出る」
「え!?」
「ここの指揮は…任せたぞ」
大佐!と呼ぶ声が聞こえる。
しかしネオは足を止めなかった。
黒煙を上げるガイアから視線を逸らすと、状況を確認しようと司令部に繋ぐ。
だが、聞こえてきたのは妹の悲痛な声。
『お兄ちゃん!ザラ隊長が…隊長が―――――』
え?と聞き返しても、ノイズしか返ってこない。
明らかに通信障害だ。
こんな時期に磁気嵐など起こるはずがない。
だとすると、考えられるのは。
「ジャミング…」
しかしこんな広範囲で起こすなど。
これでは敵も味方も巻き込んでしまう。
『…シ…シン!』
ルナマリアから通信が入る。
肉眼で見えるほど近くに居るのに、ほとんど声が入らない。
「ルナはいったん戻って補給を。俺は隊長の所へ行ってくる」
それだけ言うと、シンはインパルスを上昇させた。
あの人は確か前線防衛を任されていたはずだ。
最後に確認した地点を目指していく。
ジャミングの所為でどこの隊も混乱しているのか、今ではほとんど戦闘を続けている者は見当たらない。
「…ここだ」
機体の座標を確かめ、バーニアの噴射を抑える。
だがレーダーはまるで役に立たない。
舌打ちしながら肉眼で探していく。
『………シ…ン………』
普段使うことの無い、機密用のチャンネルから不意に、名前を呼ばれた。
それが聞き慣れた声に聞こえて、心臓が跳ねる。
(………ま、さか)
ありえない、と過ぎった考えを殺す。
その時、急に前方に機影が見えた。
敵か、味方か。
識別シグナルさえ掴めない今の状況では、最終的に判断するのは己の意思だ。
シンはエクスカリバーを構えた。
近づくにつれ、機体が浮かび上がっていく。
―――白いウィンダム。
地球軍機。敵だ。
一気に加速をつけ、斬りつけようとする。
しかし、インパルスの目の前でウィンダムは張っていた糸でも切れたかのように均衡を失った。
みるみるうちに落下する。
呆然とするシンの目には、海面に叩きつけられ飛沫を上げたまま消える白い機体が映っていた。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ