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Weird sisters story

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CAT 3




運命なんて言葉はキライだ。

そう言った俺に、お前は答えた。

    「でもそれを選んだのは、運命じゃなくてレイ自身だろ?」



「約束どおり、来たぞ」
目の前に陣取っているのは、地球軍の服を着た軍人。
その隣に居るのは、目隠しをされ、口封じをされている小さな女の子。
レイの傍らに立つシンが叫んだ。
「マユっ!!」
その声に、女の子はビクリと身体を揺らす。
(……本物、だな)
尚も身を乗り出そうとするシンを、後ろに縛ってある手錠をきつく掴む事で黙らせる。
「さぁ、交換だ。シン・アスカを先に」
「断る」
兵士の声をレイが遮る。
「マユ・アスカを先に手渡してもらう」
しばらく黙り込んでいた兵士だが、チッと舌打ちしてマユを乱暴に前に押し出した。
「そのまま歩け!」
前が見えず、どうすればいいのかわからなかったマユに荒い声がかかった。
震える足で、ゆっくり一歩を踏み出した。
レイはマユが近づいて来るのを確認し、その肩に手を当てまた震えるマユに尋ねる。
「マユ・アスカか?」
わけがわからないながらも、コクリと頷いた。
シンはそんな妹の様子を心配そうに見ていたが、レイの視線と目が合う。
「マユ・アスカと確認した。約束通り、シン・アスカを引き渡す」
ガツッとシンの背中を押す。
シンは一瞬よろめきながらも、真っ直ぐ地球軍兵の元に向かった。
「……!!んー!!」
途端に、マユが騒ぎ出した。
どうしたと、レイが問いかけようとして、気付いた。
マユの手錠に備え付けられた、爆弾に。
レイが行動を開始するのと、爆弾が電子音を奏で爆発するのは同時。
耳を塞ぎたくなる爆音に、シンは我を忘れる。
「……マユ?……レイ?」
「今だ!殺せ!!」
「!?」
隠れていた兵士が一斉に飛び出し、シンに銃口を向ける。
「っクソ!!」
付けられていた手錠を外す。
もともと、この手錠は知恵の輪の要領で簡単に外せる物だ。
………レイが、わざわざ取り寄せてくれた物だった。
襲い掛かる弾丸を避けるべく岩陰に身を潜め、隠していた銃で応戦する。
(マユなら大丈夫だ…。レイが、あのレイがそんな簡単に死ぬはず、ないんだから)
そう自分に言い聞かせ、シンは予定された通りに動き出す。
銃弾が飛び交う中に、一人飛び出して行った。



「くっ」
右腕をやられた。
痛みが麻痺しているほどの傷。
おそらく、骨も何もかも砕けている。
今腕の中に居るこの震える子がいなければ、こんなヘマはしなかったが、とレイは自分の非力さに苛立つ。
口を覆っていたテープを外す。
途端に消え入りそうな嗚咽が聞こえた。
目隠しは、外さない。
あんな戦場ものなど、見えない方がいい。
「怪我は平気か?」
僅かに、頷く。
それでも震えは止まらないらしい。
(仕方が無い、か)
並みの民間人にとっては。
ゆっくりと引き寄せ、震える背中をなだめるようにさする。
「大丈夫だ。俺が守る」
その言葉に、マユはよりいっそう泣き崩れた。
「居たぞ!こっちだ!!」
金切り声が聞こえるのと同時に銃声が響く。
レイはその場を離れ、地球軍の死角に入る。
右手をやられ、更にマユまで抱えていてはこちらから攻撃する手段はない。
とんだ誤算だった。
これからどうするか、考えていて後ろから近づく兵士に気付かなかった。
嫌な気配にレイが振り向くと同時に、銃から弾が発射される。
とっさにマユを庇う。
だが銃弾は一向に襲ってこない。
いぶかしんで顔を上げると。
「らしくないな」
倒れている地球軍兵士と、見慣れた笑顔があった。



目の前に現れたレイと、マユと、更にもう一人。
「マ、マスター!?」
「おいおい、それはバーの中だけだ」
いつもの笑顔だ。
だけどその手にはしっかりとマシンガンが持たれていて、しかも物凄い勢いでぶっ放されている。
「来る途中、地球軍の増援にパッタリ会ってね、それで少し遅れたようだ」
「問題ありません。許容範囲です」
レイがマユを抱えながら呟く。
それにマスターが呆れた。
「よく言う。…死にかけていたくせに」
とっさに、シンが目を見開く。
何か言おうとす口を開いた瞬間、マユを渡された。
「あちらは総崩れです。もうそのくらいでよろしいかと思われます…トダカ一佐」
「了解」
トダカと言われた男は、ついでと言わんばかりに手榴弾を投げ込む。
その爆発が、戦闘終了を告げる合図となった。
地球軍はもはや動けない者しか居ない。
残りは全て撤退したようだ。
シンとマユが互いに喜び合う様子にわずかに微笑みながら、レイは声を張り上げる。
「動ける者は負傷者の運搬、または手当てを。それからドクターに伝えろ。『民間人』二名が負傷した。優先的に診てやってくれと」
傍にいた兵士が声を上げながら敬礼をした。
「待って!」
その場を去ろうとした兵士に、幼い女の子が叫ぶ。
マユ・アスカだった。
「あたしは大丈夫です。怪我なんて掠っただけだから…。それより、軍人さんたちの方を先に診てやってください!」
「俺もいいです。このくらいの怪我は、慣れてるから」
『民間人』である兄妹は顔を見合わせ、口をそろえる。
どうすればいいか判断をつきかね、戸惑っていた兵士にレイが更に口を開こうとした。
だが。
「と、言う事だ。先に軍兵から診てやれ」
「ハッ!」
敬礼が向けられたのは、トダカ。
レイはいつものように呆れた。
「この場合は『民間人』である彼等を優先させるべきでは?」
「だから彼等の意見を優先させたんだ」
にんまりと笑われて、これ以上はどうしようもないとレイは経験則から知っている。
大人しく引き下がる事にした。
「……議長に、繋げるか?報告がしたい」
レイからかかった声に、近くに居た通信士が慌ててパネルを弄る。
だがシンはこの時になってやっと、さっきから感じていた違和感に気付いた。
スタスタと、一直線にレイに近づく。
物凄い勢いでせまる影に気付いたのか、レイが顔を向けたと同時に。
右腕を強く、掴まれた。
「っ!!」
「……やっぱり」
シンはためらいなく血で固まった服を力任せに破る。
その下にあるはずのレイの腕は、赤黒く変色していた。
元々赤い軍服だっただけに、その変化がわからなかったのだ。
さっきからあった違和感。
そう、レイの右手が、ピクリとも動いていないことだった。
あまりの惨状にトダカが目を見張る。
「これは酷いな…火傷に切り傷、骨折、打撲…まだある」
「このくらい、何とも…」
「レイっ!」
反論は、空を切り裂く程の呼び声で消される。
「何が『民間人』を優先だ!お前の方がよっぽど…」
くしゃりと、顔を歪ませる。
ああ、コイツをいつも、泣かせてばかりだ。
「俺はお前が死んでまで、生きたくないよ、レイ…。レイに、生きていて欲しいんだ」
放たれた言葉に、レイは酷く驚き、そして微笑と共に地面に崩れ落ちた。
自分の名を叫ぶ、彼の声が聞こえる。
―――懐かしい。
その思いを確かに胸に抱いたまま、レイは自身の意識を手放した。






『君に―…、レイに生きていて欲しいと私は思う』


生まれて初めて外の世界へ連れてきてくれた人に、生まれて初めて貰った言葉。
最初で最後の、あの人の望み。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ