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Weird sisters story

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自分と同じ瞳と髪と声を持つ、もうこの世界にいないあの人の望みだからこそ。
俺は生きている。

そんな俺にあんな事を言ったのは、お前が二人目だ。
――――シン。






起きてみても、指一本動かせる状態ではなくて。
気付いたシンが、泣きながら縋り付いて来たりしても。
その髪を撫でてやる事さえ、出来なかった。
繰り返し「よかった」を繰り返す彼に静かに問いかける。
「…怪我は?」
「え?…あ、うん。だいたいの治療は終わったから後は安静にしとけばイイって。…あんなんでどうやって動いてたのか知りたいって、ドクター言ってたよ」
「いや、俺じゃない」
「ぇえ?………俺!?」
「そう、お前の怪我の事を訊いたんだが」
シンは何回か瞬きさせた後、盛大に笑い崩れた。
レイが不審な表情を作る。
「なんで全治三日の俺が、生死を彷徨ったレイに心配されなきゃいけないんだよ!」
どうやらそこまで、怪我は酷かったらしい。
これでは議長―…ギルにも多大なストレスを与えてしまったに違いない。
後で謝罪する事のひとつとして脳内にメモしていると。
ゆっくりと医務室の扉が開き、飛び出してきたのは小さな人影。
「レイさん!目、覚めたんだ!!」
「こらマユ!お前は入ってきたらダメだって」
「なによ!お兄ちゃんばっかりレイさん独り占めして!」
漏れ聞こえたシンの笑い声に痺れを切らしたらしい。
マユは頬を膨らまして兄に負けない負けん気である。
その様子がおもしろくてしばらく様子を見ていたが、この兄弟は論争を終える気が無いらしい。
ぽつりと呟いた言葉は、意外にも部屋全体に響き渡った。
「兄妹喧嘩……」
「「え?」」
シンとマユがハモる。
「初めて見る。…中々おもしろいものだな」
アスカ兄妹はそろって顔を真っ赤にして言い訳してきた。
それがまた、おもしろい。
どうにも体裁が悪くなったシンが、頭を掻いて強引に話を逸らした。
「とにかく!レイ、俺はザフトに入る事決めたから」
わずかに驚くレイを、更に驚かせる声が上がる。
「あたしも入る!」
「マユっ!!」
シンが嗜める声が広がる。
シンとしてはやっと護り抜いた妹を、どこか安全な場所に住ませたかったのだ。
だが少なからずアスカ家の血を受け継いでいるマユは、シンと同じで一度言い出したらきかない。
とうとう軍に入るなどと言い出した始末だ。
「だからダメだって!お前が住むとこは、ちゃんと俺が…」
「イヤ!絶対イヤ!あたしだってレイさんに助けられたんだよ?何かお礼がしたいもん!!」
「だけど!」
「こうしたらどうだ?」
間に入った仲介人は、二つの相貌を受け止めながら言った。
「マユはザフトに入る」
その言葉にシンが落胆、マユが喜びの声を出す。が。
「但し、オペレーターとして、だ」
「…オペレーター?」
しばらく何か考え込んでいたシンが、納得した声で呟く。
「まぁ、それなら前線にも出ないし…他と比べれば安全だけど」
「じゃああたし入っていいの!?」
キラキラ輝く瞳を前に、とうとうシンが折れた。
それを確認したレイがドアの向こうの人物に投げ掛ける。
「と、言う事だそうです。早急に手配願えますか?」
「へ?」
レイの視線につられてシンはドアに顔を向ける。
そこはただ、静かなだけだ。
「隠れていてもムダです。三分前からそこに居る事は把握済みですから」
「まったく…」
観念して出てきたのは、マスターもとい、トダカだった。
「相変わらず可愛げのない奴だな。少しは見舞いにきたお礼くらい聞けるかと思ったんだが」
「ソウイウコトをお望みなのでしたら、別の隊に付かれればよろしいかと思われます」
いつもの態度にわずかばかり苦笑が漏れる。
そして傍らのシンとマユに手を上げて挨拶した。
「入隊希望か。まぁ入りたいってんなら俺は止めないがな」
意味深に視線を投げられ、シンは何故か返答に困る。
レイはなるべく語気を正して言い出した。
「よろしければ、議長に…」
「『議長に連絡をつけて欲しい』だろ?」
先読みされて驚くレイにトダカは子供のような笑顔を向けた。
「本物の親子みたいだよ、お前等は。議長は議長で『レイが目覚めたら連絡して欲しい』と言われていたぞ」
レイは気まずそうに、視線を伏せた。



「やぁ、久しぶりだね。身体の方は?」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
あれから目を見張るような回復力をみせたレイと、マユと、仲良く議長室に出頭だ。
「君は…シン、だったかな?」
「あっ、は、ハイ!!」
震える膝を叱咤した。
相手は今まで最も憎むべき敵として植え付けられてきたあの議長なのだ。
地球軍のスパイをしていたこともあり後ろめたいシンは、もちろんこれまでにないほどの緊張を感じていた。
「そして…」
「マユ・アスカです!」
幼い子供特有の高い声を張り上げてマユは叫んだ。
マユは政治だとか権力だとかにはまだうとくて、ただ単に軍に入れてもらえる事が嬉しいらしく、自分達が今どんなにスゴイ人と話をしているかなどほとんど理解していなかった。
「志願したと聞いているが」
「はい。レイが、その、『好きにすればいい』って言ったから」
「ほう、レイが…」
いっそう深くなった笑みにレイがいたたまれなくなる。
仕方なく、レイは敬礼をする事にした。
「申し訳ありません」
「謝ることはない。私は君に『命令』をしたのではなく『お願い』をしたのだからね」
「しかし…」
なおも口を開くレイをやんわりと押しとどめ、今のやり取りがよくわかっていないだろうシンとマユに向き直る。
「私はレイに、『シン・アスカのザフト軍への入隊』を頼んでいたのだがね。まさか自分から志願させて、更にその妹までも連れてくるとは」
さすがレイだと、議長は笑いながら告げた。
さっきから思っていたことだったが、レイと議長は一介の軍人と最高評議会議長として接し方が親しい気がする。
トダカさんが言ってた、「本物の親子みたいだ」という言葉が浮かんでは消えた。
だがそれよりもっと大きな疑問が頭をもたげる。
「あの…なんで俺…ぁいや、自分をザフトに?」
琥珀色の瞳が、シンを捉えて細められる。
「君には少し遺伝子について興味があってね。何十億といる人類の中からはじき出された人物だったのだよ」
まぁ、私の趣味の延長でもあるが…と続けた。
ではあの時レイが地球軍に持ちかけた「DNAの問題」とは全くのウソではなかったのだ。
少しレイを睨むと、涼しい顔で返された。
「あたしは…?」
マユが自身無げに呟いた。
「君も一応調べてみよう。シンの大切な家族だからね」
マユは眩しいくらいの笑顔で返答した。
「では、そろそろ失礼します」
大方の用事が済み、「ゆっくり休みなさい」と言う議長の声を背中に三人は退室した。
パタンとドアが閉まると、シンがどっと息を吐いた。
「きっ緊張した〜〜!!」
「行くぞ。ここで立ち止まっていては邪魔になる」
あくまで淡々としているレイに恨めしい視線を送りながら、レイの後についていく。
「この後、どうすればいいの?」
「部屋に案内する。お前は向こうの建物。マユはその東側の建物…女兵士用の寮だ」
途端に「えー?」というマユの不満が上がる。
「レイさんと一緒がいい…」
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ