非懐疑的人間の考察
「宍戸さん、明後日あいてますか?」
「明後日?」
「バレンタインデーです!」
「お前…俺をナメてんのか?どうせ俺はそりゃ予定なんかねえよ」
「そしたら…うちに来ませんか?」
なんという直球だと、宍戸と鳳を取り巻く彼らは感心した。
「あ?何が悲しくてお前と過ごさなきゃならねえんだ」
「家でちょっとご馳走が出るので」
「あ、そう」
「俺、誕生日なんです!」
あ、そうだったのか、と皆が納得した。
わりとつまらないオチだなと感じたことも言うまでもない。
「つーことは、お前は宍戸に祝ってもらおうと方々探し回ってたってことか」
跡部の言葉に、
「はい!!」
と鳳は明るく返事をした。
「結構自己主張の激しい奴やったんやな…」
「なんで宍戸だけなの~、同学年で友達いないの?」
「え、日吉や樺地も誘ってみたんですけど…」
向日の質問に、鳳は答える。
「日吉には『その歳になってお誕生日会か』って馬鹿にされたし、樺地にも門限があるとか言って断られました」
笑いながら言う鳳。その何気ない言葉の中にも、メンバーは悲哀を感じ取った。
「鳳…素直でいい子なまま育つんやで…」
「お、俺は祝ってあげるよ!おめでとう!」
「せいぜい楽しめ」
「ってオイ俺いつのまにやら行くの決定かよ。でも行ってもいいの俺だけか?」
「あ、いえ皆さんも良かったらどうぞ」
「眠くなかったら行く~」
「ほなら、さっき宍戸の場所聞いてた時に皆に言っとけば良かったやん」
「え、でももし宍戸さんがダメだった時、宍戸さんがいなくて、他の皆さんがいてもしょうがないですし」
素で意外と失礼なことを言うなと宍戸以外の者が思ったが、聞き流すことにした。
「宍戸さんが最優先ですから!」
こいつやっぱり大物だ。鳳の笑顔を見て、皆が確信した。
当日、「鳳の家を見てみたい」と好奇心半分で集まった連中に、結局日吉と樺地を加えた顔ぶれが勢揃いした。
ちなみに宍戸が鳳に贈った誕生日プレゼントは、チロルチョコ一個(アーモンド入り)だったという。
多少は根に持っているのかもしれない。
宍戸の思いはともかく、それでも喜びに、手の中でチョコを握り締め掲げる鳳。
その肩へ、お前の13歳の1年間に多幸あらんことを願うぞ、と日吉が手を置いた。
そして「それ溶けるぞ」と注意した。