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The tide is high

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あ、上着忘れた!すいませんけど待っててください。
 そう言って部室を飛び出した鳳に、おう、と小さく応えて宍戸は机に身を持たせかけた。

 その机の前に座った跡部は部誌を義務的に書き込んでいて、忍足は隣で跡部の様子を眺めていた。
 着替えてもいない二人に反し、宍戸はすっかり帰り支度を済ませて、制服を着て鞄まで肩からかけている。あとは帰るばかりだ。 ポケットに手を突っ込んで、一層体を倒すと、後ろの机がぎいと鳴った。

 「あいつ、よう懐いとんなあ」

 疲れも手伝って、背後から掛けられたからかい口調の忍足の言葉を宍戸は無視した。見向きもしない。
 「なー」
 忍足なんかの相手をするのはめんどくさい。そう思っていたから、宍戸は答えようともしない。
 「お前、結構人望てかそういうんあるのかもな。まあ相手が鳳だからって言うのもあるけどー」
 うるせえな。
 「あの手なづけップリは見事や。名ブリ~ダ~決定」
 しかもしつこい。

 「テニス辞めても、生きてく道があんで」
 さすがに、宍戸は振り返る。ここまで言われる理由がない。
 「…ああ?」
 「鳳長太郎、属性:犬。これは上部会議での既決事項や」
 「あ?そんなのいつ決めたよ」
 「だから上部会議やって」
 「記憶にねえよ。いつだ」
 「そら、お前がレギュラー落ちしてた時に決まってるやん」
 「…!」
 抑えが効かないという時はあるものだ。宍戸はいきり立ち、忍足の襟首を掴んだ。
 「いややわ、上方ジョークでっせ」
 「うっせ!」
 「やめろ!」
 二人の間に挟まれても微動だにせず、跡部が二人を牽制する。
 「うっとーしい。早く帰ってさっさと寝ろ」
 「跡部、だってこいつ」
 「『だって』じゃない!傍から聞いてりゃまったくアホらしいことでウダウダ」
 「お待たせしました~」
 雰囲気を一蹴するような声を張り上げて、鳳が入ってくる。
一瞬にして緊張がとけた。
 「あ、あれ?」
 宍戸と忍足の間に漂う見るからに険悪な雰囲気に流石の鳳も気づき、しばし戸惑った。
 「あの…?」
 「遅えよ、長太郎」
 宍戸は忍足から手を離して、鳳の方へ向かった。
 「じゃあな。バカ忍足」
 「ボーズの方が似合うで。りょーたん」
 「!」
 宍戸の顔に血が上ったのがよくわかった。
 鳳と、レギュラー落ちのこと。宍戸にとって突かれて痛いのはその2点なのだ。忍足は良く知っている。
 「忍足!」
 跡部が咎める。そして宍戸を促した。
 「宍戸、早く帰れ」
 「畜生。行くぞ、長太郎!」
 「あ、はい。お疲れさまでした」
 礼儀正しく二人の先輩へ挨拶をして、鳳は大股で去る宍戸の後を追った。

 「お前、なんでああいうこと言うんだ。宍戸はすぐムキになんだから」
 「あの二人、なんもなしにつまらんねん」
 くだらねえ、と跡部は文字を書く手を止めた。
 「アレで、なんとかなるもんでもねえだろ」
 「宍戸君の態度が気に食わへん」
 「だからってああ言うか?趣味悪ぃな」
 「あれはなー、愛されとる者の驕りが見える!!」
 「お前の言う事はよくわからん」
 なんだ、ただ面白くないだけか。忍足の本音を跡部は察した。
 「お前も帰れよ」
 「跡部が帰るときに帰る」
 「勝手にしろ」

作品名:The tide is high 作家名:りょくや