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桜の下で

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「え?大久保先輩、デートなんですか?」

驚きに思わずあげた大声。
咄嗟に口を押えたけれど、既に遅く周りに居た独り身の面々による鋭い視線がこちらに送られた。いや、正確に言うならば主に大久保に向けて、だが。

「え、ええと、いや…デートと言うほどの物じゃぁ…」

そんな視線に気づく事無く、ただ彼は指摘された言葉に対して動揺し、首を左右に振り続けた。なにも、そんな貧血起こすほどに否定しなくてもいいような気もするのだが。
それ程の必死な否定は流石に相手の女性に失礼だろう。
おいおい、という思いを心中で垂れ流しつつ叫んだ人物 ――― 真冬は切れ長の瞳をパチクリと瞬かせた。
以前はもう少し鋭く見せていた瞳は今となってはその影すら見えず、尖りが消えまん丸くなったが為かパッと見はただのお馬鹿さんなのだが、これでいてなかなかいざとなると片鱗すら見せない程に頼りになる女性でもあった。
そんな彼女が何故そこまでの大声を上げたかと言うと、つい先ほどまで大久保と交わしていた世間話の一端からだったのだが、言うなれば。

「へぇ~…『桜祭り』にねぇ…」

此処、もともと真冬が生活していた(地元でもある)地区は春の初め、『桜祭り』なるお祭りを催すのが昔からの風習となっている。と言うのも、最寄に在る神社には桜並木が在りその咲きっぷりは意外なほどに見事である、と言う理由故だ。
規模としては然程もない、こじんまりとしたものだがいやはや催す側の熱気が他の地区とは桁違いで始まってみるとこれがまた、盛り上がりが異常である事から参加者もノリにのって異様な空気が出来上がるのだ。
と、まあ、そんな説明はさておき、これまた恒例と言って良いのやらなんなのやら、今まで真冬達もこぞってこの祭りには参加してきたと言う過去が、確かに在る。ので、今年もこの時期に合わせて実家に帰って来た訳なのだが、明日に控えた祭りの前の集会・・・と言う名の唯の遊びの会にて偶々隣になった大久保と会話をしていた真冬は、話題のネタの一つとして先輩である彼より重大な話を告げられたのだ。
それが、つまるところ、

「大久保先輩に彼女……」
「あ、いや、だから、彼女と言う訳では…」

まさかまさかの、である。
大久保は、見た目柔和な面立ちで。且つ、穏やかな性格をしている為一見モテるだろう事は予想できるのだが、如何せん真冬は彼の実態を知っている。知っているが為に何とも言えない心情になってしまうのだ。
何故ならば、彼は、とてもではないが。

「…大久保先輩の『不運』、彼女さんにまで移りませんか…?」
「…………あはははは…はは…真冬さぁん…」

思わず尋ねた言葉に、返す彼の反応は嘆き。
当然と言った所だろうが、しかし真冬も真剣だ。
一応彼は先輩であるから直ぐ様詫びを入れたうえでフォローするべくいろんな言葉を重ねるが、どうにもフォローしきれない。大久保が不運の持ち主である事は事実であるので何をどういっても結局最期は落とす形になってしまうから。
最期は諦めて、親指だけを立てた形で握り拳を作ると。

「せ、先輩。ドンマイッ!!」
「慰めになってませんけどね」

こうして、強引に話を終わらせれば直ぐ様大久保の傍より離れ、逃げ出すようにして別の場所へ。そのスピード、マッハの如く。例え、背後で大久保が打ちひしがれていようとも、振り返ってはいけないのだ。
こうして場所を変えた真冬はしかし、先程大久保と交わした会話が蘇り思わず呟く。
これに、他意は無かったのだけれども・・・・・いや、本当はかなりあったのかもしれない。

「くそう。そうかぁ、大久保先輩に彼女……っていうか、恋人かぁ…」

いいなぁ。

・・・ああいや、そんな事、思わないぞぅ!
あたしはあたしで甘い青春を味わ・・・・・・の前に、友達っ!女友達が欲しいっっ!!!

切実な望みを胸中で零す真冬は思わず涙目握り拳となっていたのだが本人全く気付いておらず、移動先に居た元舎弟達が鬼気迫る表情の真冬に気づき恐ろしそうな顔で彼女を見守っていてもそれにすら気づく事が無かった。
対して舎弟たちも切実。もし今機嫌が悪いのだとして、傍に寄って行った場合とばっちりを喰らうと考えたら動く事すら出来なくなってしまう。
実際には機嫌など悪くも無いのだが、どうにも彼女は素であっても怪力であるなどの異能の持ち主であるから不用意な事は出来ない。と、ここに至って普段通りのテンションで彼女に向かって突撃して行った人物が。
思わず周りのみんなが『誰だ?あの勇者は誰だ!?』と胸の内突っ込んでみたのだが、なんて事は無い。

「どぅわっ!?…っ、って、なんだ、寒川かぁっ!」

現、番長だった。
元々真冬を探して仲間内の間を彷徨っていた為、見つけた喜びの勢いのままに突進してきたのだ。される方はたまったものではないが。
しかし、彼は何処までもマイペース。

「何が、『恋人か』なんですか?」

「はぁ?」

真冬の腰元に抱きつくような形でタックルしてきた寒川を、けれど彼女は然してよろける事も無く受け止める・・・・と思いきや思いっきり吹っ飛び寒川共々地面の上、寝転がっている状態。受け身が取れず、あちこち痛みを訴える身体を撫でたげたいんだけどな、と思いながらも真上に居る寒川を見上げ「一体何なんだ」と突っ込めば。

「もしかして、真冬先輩恋人が出来たんですかっ!?」

なんて、見当違いのド勘違い。
はぁっ!?と、例年稀に見る程に顔を崩し尋ね返すも寒川には通じず。

「ちょっ、何処のどいつですか!?真冬さんの彼氏になるにはまずっ、俺を通してからじゃねえと!!」
「ちょい待て。お前は私の何なんだ?」
「さあさあ真冬さんっ!どこの馬の骨ですかっ!?あなたをたぶらかしたのはっ!?」
「いやさ、少し落ち着いて」
「早く俺の前に連れてきてください!ボッコボコのギッタギタにしてやりますからっ!!! 」
「あの、いや、だからさ、」
「いやいやいやっ!それだけじゃ飽き足らないっ!!! いっその事顔が戻らない程にボッコボコぉ…?っ、にぃぃぃぃっ!?」


「……落ち付けっての」


「はいスミマセン」

どうにも他人の話を聞かない元舎弟その一。
いい加減話が進まないため、隅返しの要領で首根っこ掴み上げ、そのまま真上に投げ上げた。真冬の頭の上を通り越しデデンッ、と地面の上に伸された寒川の上、素早く載りあがり一言落とせば彼から返る言葉は漸く落ち着いたらしい冷静な謝罪。
ついでに付け加えると、周りで見ていた舎弟どもより拍手喝さいが沸き起こったのだがスルーさせて頂くとする。
疲労にため息ひとつ吐き出すと、腰を上げ右手を差し出し相手を起き上がらせた。

「ったく、何なんだよ、お前はー」

疲れたぞ、と言ったように吐き出す声に寒川が肩を下げるがしかし、彼は未だ引き下がってはいないらしく。

「だって、真冬先輩が彼氏つくったって」
「言ってないよ?一言も言ってないよー?え?どっから捏造されたその話?出来るもんなら既に三人四人とつくっとるわ」
「それは、三又四又という?」
「どうしたらそうなる?」
「うん?」
「あぁのね、本気で云ってるわけじゃ」


「え?真冬さん彼氏出来たの?」


「……………えっと、舞苑せんぱ」
作品名:桜の下で 作家名:とまる