桜の下で
「え?マジで?本気で言ってるんですか?真冬先輩に?」
「ケンカ売ってるんですか?」
「買ってくれるんですか?」
「あ、いや、遠慮しておきます」
「そんな事言わずに」
「いえいえ結構です」
「お安くしておきますから」
「そんなサービス要りません」
本当に、なんだってこんな下らない漫才を繰り広げなければいけないのだろうか?なんて。首を捻りつつも舞苑をあしらっていると、そこへ強引に入り込むはやはり、寒川。
「それでっ!結局真冬さんのクソ彼氏は何処にっ!?」
「いや、だからね、何度も」
「そうそう、クソ彼氏を紹介してください」
「…クソクソって君たち」
「ほら、真冬さん早くーっ!」
「だから」
「真冬さん?余り焦らすと俺、…快か 「よし、貴方はちょっと土に還りましょうか?」 …真冬さんっ!もっとっ!」
自身の身体を抱きしめ身悶えだす舞苑にげんなりしつつ、「めんどくさっ!もー舞苑先輩いい加減にっ」と怒鳴りつけようとした矢先、またもや寒川に邪魔される。
「真冬さんもですよっ!」
「なんであたしがっ!?」
「俺等の知らないうちにクソ彼氏なんて作るからっ!」
「ちょっと待てぇっ!?なんであたしの彼氏が『クソ』という表現されなければいけないわけぇ?」
「真冬さんを選ぶ奴なんてっ、クソでじゅうぶ 「よし。お前そこに正座な?」 …真冬さぁんっ!!! 」
どうにもこうにも毛先程にも話が進まない。
いい加減イラつき出した真冬は青筋を幾つも浮かべ、舞苑寒川両名を地面の上だろうが寒空の下だろうが何だろうが、気にせず強制正座を強いた。
片やしょ気て俯く男。
片や愉しげに瞳を輝かせる男。
どう考えても後者の男が厄介すぎて放置したくなるわけなのだが、放っておいてもそれはそれで面倒くさい展開になる事は分かり切っているので纏めて話を進めようと考えた真冬は、それぞれへ指差を差し向けて。
「まずっ!何が悲しくてこんな主張しなくちゃいけないのやらさっぱりわかりませんがっ!あたしは未だフリーだしっ、言うなれば常に彼氏募集中ですっ!!! 」
「え!」
「ほぉ」
宣言した途端、しょ気ていた男は顔を上げ煌めかせた瞳を真冬へと向けた。
対して元より瞳煌めかせていた男は素の表情へと戻り、真っ直ぐな視線を同じく真冬へ注ぐ。
これら強い視線に一瞬たじろぐも、其処は元番長としての威厳がある・・・退かないのか分からないが、踏ん張ると続いて言い放つ。
「恋人云々は、大久保先輩の話!あたしじゃないのっ!分かったっ!?」
ビシーっ、っと二人を指さし断言した彼女に、それぞれ返事と共に神妙な顔で頷き返す。
だが、その心中では同時にガッツポーズ。
成程。彼女は未だフリーで、その枠を募集している、と。
それは良い情報を聞かせてもらった。
彼女はあまり色恋に興味はないと思っていたのだが、と言う事は今まで要らぬ遠慮をしていたと言う事か。
気づけばあとは、即行動。
「ならこれからは俺、遠慮なく攻めさせてもらいますね?」
にこやかに、言い放つは寒川。
勿論この言葉に彼女が返すは「は?」という余り意味の分かってない様子な顔と声。
次いで、
「俺の心を満たしてくれる人、貴女意外にそうそういませんからね…」
ふふふ、と意味深に笑んだ舞苑。
此方に対して真冬が返すは「…え?え?」という戸惑いの言葉と態度。
どちらも獲物を狙う瞳なのだけれども、ええと?これは、どういうこと?なんて。今更困惑と不安に揺れたところでもう、完全に、遅いのだ。
「あ、の?二人、ともっ…なにっ」
震える声を上げる真冬に。
熱きモーションをしかける二人の男がいたと言うのだが、これを見ていた舎弟たちは皆、見て見ぬ振りを貫き通したのでこの場に居なかった面々はこれら一連の騒動を知らぬまま翌日いつも通りの穏やかで楽しい桜祭りを満喫したと言う話。