怪盗スピードスターの初恋
相変わらず、謙也は時折挙動不審になる。やっぱり何か隠しているとしか思えないのだが、白石いわく「男のロマンは複雑やねん」ということだったから、もうあまり深くは追求しないことにした。気になるけれど、謙也にも謙也なりの悩みがあるらしいことを白石がこそっと教えてくれたから、しばらくは我慢していようと思う。
光もちゃんとした大人になったら、謙也は頼ってくれるだろうか。
「光にいちゃーん!」
ばたん、とドアがノックもなしに開かれ、子供たちが雪崩れ込んでくる。
「こら、ドアが壊れたらどうすんねん!」
「これ、ポストに入っとった!」
叱りつつ近寄り、先頭の少年が手にしていたものを見て、光は危うく卒倒しそうになった。
「おお、ピンクサファイア。さすがでっかいなあ」
呑気な白石に、謙也がしーっ、と指を立てて余計なことを言うなと怒っている。
きらきら輝く大きな宝石。添えられているカードには、シャワールームを直してあげてください、と書かれていた。
「スピードスターはすごいなあ! うちのシャワールーム壊れてるの知ってたんや!」
「やっぱり大きくなったらスピードスターみたいになりたい!」
口々にスピードスターを讃える子供たちに、一回ずつげんこつを食らわせてやる。
「今度こそ、捕まえてやる!」
シャワールームを直してあげてください。
怪盗スピードスターより。
――追伸。
後継ぎの子が、もしも本当は他にやりたいことがあるのなら、前回と同じように、この宝石もそのために役立ててください。
怪盗スピードスターの初恋・おしまい
作品名:怪盗スピードスターの初恋 作家名:小豆沢みい