Those simple things
あんまりな返答に不意を付かれてまた距離を離される。
そうか…やっぱり自分の一方ならぬヨコシマな思いは読まれていたか。鳳は自らの不甲斐なさを悔んだ。
宍戸さんは一枚上手だったか。惜しむらくは歳の差か…。
…つか、こんな所でなんか出来るわけないじゃないですか!!
どんだけ危険視されてんだ俺!!
誤解されたままなのは我慢できない。鳳は根性で追いすがった。
「宍戸さん…っ」
「お前、大概にしろよ…」
宍戸は足を速めて、鳳を引き離そうとした。長太郎なんかチョロイ。宍戸はそう思った。
しかし今度の鳳は違う。なんと宍戸の手を掴んだのだ。当人は流石にぎょっとなった。
そして鳳は再び叫ぶ。
「俺は宍戸さんがとても…!!」
鳳が肝心の箇所を口にする寸前、宍戸はさえぎるように叫んだ。
「そんなん分かってんだよ!!」
宍戸は言い捨てて、渾身の力を込めて手を振り払い、再び加速を増した。
分かってる。宍戸さんは言われなくても分かってる?
鳳は考えた。更に、足が止まった。額へかかる風が心地いい。
それはある意味…最も凄いことなんじゃないか?
走り続ける宍戸の背中は遠ざかる。心なしか、首筋が赤らんでいるように見える。
「おい鳳、休んでんじゃねーよ!」
後ろから走ってきた、他の部員から声がかかる。
…これは今一度、宍戸さんに確かめなければなるまい!
鳳は再び走り出した。
作品名:Those simple things 作家名:りょくや