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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

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「ごぶじだったんだね!」
「……そなたたちのおかげで我は助かった。だが、そなたらの大切なものを奪ってしまった。すまぬ」
「青龍さまは悪くない!」
「なんであやまるの? カペルも青龍さまも悪くないもん!」
 竜の表情なんてわからないけれど、少し寂しそうで、だけど穏やかな目で青龍は二人を見ているように思えた。
「ルカ、ロカ」
「はい」
「はい!」
「そなたらの父は我が友であった。友の魂は我と共にある。我と共に、そなたらを見守り続けよう」
「……パパは一人じゃないの?」
「青龍さまと一緒なら、寂しくないんだよね」
 青龍が二人のことを気遣ってくれている。聖獣と言われれば雲の上の存在で、見た目から言っても近づきがたい存在なのだが、カペルは少し青龍を身近に感じた。
「良かったね、ルカ、ロカ」
「うん!」
「少年。カペルと言ったか」
「は、はい」
「そなた、あれを断ち切れるのだな……」
 あれ、というのはあの光の鎖のことだろうか。
「……たまたまですよ、たまたま。何も考えずにやったら斬れちゃっただけですから」
 そう、あれはたまたまだ。どうやって斬ったのかさえよくわからない。無心でやったカペルには夢の中の出来事のようなものに感じられていた。
 何かを考える風に一拍おくと、嘆息をつくように鼻息を吹き出した青龍が首をもたげる。すると、カペルの眼前に一本の剣が現れた。青龍が取り出したそれは、竜が象られた鍔が蒼刃をくわえ込んだ、両刃の剣だった。
「カペル……そなたの未来には、避けられぬ戦いが待っておろう」
「嫌なこと言わないでくださいよ」
「その剣を持って行くがよい。我が力でそなたを守ろう。我が力で、そなたの敵を打ち払おう」
「カペル、すごい」
「青龍さまにみとめられたんだよ!」
 ルカとロカの声をよそに剣を見つめていたカペルは、何かを思いついたように青龍に視線を戻した。
「……あの、剣じゃなきゃダメですか?」
「……」
「出来ればこれ、フルートに変えてもらえませんか? 僕、剣士じゃないんで剣を貰っても困るというか……。フルート吹きの癒しのカペルがフルートを無くしたままってのも格好がつかないというか……」
「フルートか」
「はい」
「……よかろう」
 青龍がそう言うと、目の前に浮かんでいた剣は光の中に消え、代わりにフルートが現れた。それもまた青龍を象った装飾がされている。
「それを持っていけ。そのフルートは我が目、我が耳。それを通して、我はそなたと共にあろう」
「ありがとうございます」

 来た道と違い、帰り道は本道の洞窟を通る事にした。封印軍がもういないことは青龍が教えてくれた。
「カペル、剣じゃなくて良かったの」
「ん? まあ剣とかがらじゃないからね。それに……」
「それに?」
「最期にリュウカさんに聞いてもらいたかったんだよ、僕のフルート」
「……パパ、喜んでくれるかな?」
「カペル、下手っぴだけどきっと大丈夫だよ」
「はは……努力します」



 葬儀は粛々と行われた。
 リュウカの眠る棺に村人達が花を添えながら、それぞれ思い思いに別れの言葉を伝える。それが終わると、棺には青龍の刺繍が施された布が被せらた。青龍の加護に包まれて天国へ行けるようにという慣わしだそうだ。
 カペルは葬儀の輪の外にいて、その様子を見ていた。
 隣にアーヤがやってきて言った。
「お別れ、言わなくていいの?」
「あれは村の人たちの儀式なんだ。僕はよそ者だからね。終わってからこれ、聞いてもらうつもり」
 青龍にもらったフルートを見せながら、カペルは言った。
「そうなんだ」
 髪を耳にかけながら、アーヤが呟く。
「……私も聞かせてもらおうかな、カペルのフルート」
「泣いてもしらないよ?」
「バカ……ふふふ、でもロカは下手だって言ってたな」
「ロカ……。アーヤさん、フルート吹きだってこと証明しますから、よかったら聞いてやってください」
「うん」
 墓穴に棺が下ろされた時、大きな影が大地を横切った。
 村人たちが空を見ながら声を上げている。
「あれは青龍様じゃ」
「青龍様が来てくださったんだ」
 厚い雲の下をゆっくりと旋回した青龍は、遠雷のような咆哮を残して飛び去った。
「ルカ、ロカ、良かったな。青龍様がお別れを言いに来て下さったぞ」
「お別れじゃなくてお迎えだよ」
 ロカがぷりぷりしながら、その村人に言っている。
「青龍さまはパパをむかえに来てくれたんだ。パパはずっと青龍さまと一緒だから、寂しくなんてないんだぞ!」ルカが続けた。
 それを聞いた奥さんが、はっとしたように口元をおさえた。二人を抱きしめながら、堪えていたのだろう、あふれ出す涙を止められずにいる。
 胸がちくりと痛む。気丈に振る舞っていても、大切な人を失えば悲しいのは当たり前だ。
 ぶり返す後悔を押さえ込みながら、カペルは灰色の空を見上げた。



 葬儀も終わり、村は再び落ち着きを取り戻し始めていた。悲しんでいてもリュウカさんは喜ばないだろうことは、村人にも、そしてカペルにもわかっていた。当たり前に生きていくことが弔いにもなる。死者と生者の関係とは、そういうものなのかもしれない。
「わたし、そろそろ行きます」
 翌日、アーヤはみんなに告げた。
「もうすぐ封印軍との戦いが始まります。私、行かないと」
 封印軍が青龍の祠に来たときに、解放軍がブルガスに来て戦いの準備をしているという話を聞いた。ブルガスまでは歩いて一日か二日。急げば間に合うかもしれない。
「ルカ、ロカ、私行くね。封印軍なんて私が全部やっつけちゃうんだから」
 二人の頭を撫でながらアーヤは言った。
 それを聞いたルカとロカが目を輝かせている。まずい、あれは何かを企んでいるときの目だ。
「ボクたちも連れてって!」
「ワタシたちも戦う!」
「ええっ、何言ってるの!?」
 両手を突き上げて力強く言う二人とは対称的に、慌てたカペルは盛大に椅子からずり落ちた。
「奥さん、何とか言ってあげてくださいよ」
「カペルはボクたちが戦えるの知ってるだろ?」
「カペルなんかよりずっと役に立つんだから!」
「なんかって……」
 ロカの中での僕の評価ってどうなっているんだろうか……。
「あなたたち、戦いに行くということが、どういうことかわかって言ってるの?」
 奥さんが聞く。表情は真剣そのものだ。
「ボクたちだけじゃパパを守れなかった」
「封印軍はこんなこといっぱいやってるんでしょ、止めなきゃ!」
「だからシグムントのお手伝いをするんだ!」
「シグムントと一緒なら封印軍をやっつけられるもん!」
 守れなかった。その言葉がカペルの胸を締め付ける。目を見れば二人が本気なのはわかるし、月印があれば戦えるのも確かだろう。二人は二人なりに話し合ったのかもしれないが、それでもさすがにまずい。子供が解放軍に参加するということも、リュウカさんを失ったばかりの奥さんを一人にすることも。それに、リュウカさんを助けに行くときは、奥さんは子供たちを止めた。今回も許すことはないだろう、とカペルは思っていた。
「アーヤさん、もしよろしかったらシグムント卿に会わせてやってもらえないでしょうか」
「お、奥さん……?」