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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|21ページ/65ページ|

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「普通は家族とか隣人の儀式には立ち会うものだろう。まったく、どんな環境で育ったのやら」
 部屋の隅で壁にもたれかかっていたエドアルドが、呆れたという顔だけをこちらに向けて言った。
「僕、孤児だったんで、そういうのないんだよね」
「あっ……」
 悪意があって言ったわけではないのだろう。そういう生い立ちの人間もいるということに考えが回らなかっただけだ。エドアルドは自分なんかより恵まれた環境で育ったのかもしれない。
「すまん」
 鼻をぽりぽりと掻きながら、エドアルドはばつが悪そうに謝った。いつも怒ってばかりな気がしていたけど、なんだ、怖い人じゃないんだ……。
「でもなんでシグムントだけなのさ。カペルにも“祝福”の儀式をやってあげればいいのに」
「そうだよ。カペルだって青龍様を助けるときに鎖を斬ったんだから」
 そう無邪気に言い出したルカとロカとは反対に、一同は唖然といった面持ちでカペルを凝視した。
「ちょっと何よそれ。私、聞いてないわよ」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってないわよ。大事なことでしょ、どうして言わないの!」
「ごめんなさい」
「カペルくん。どういうことか聞かせてくれるかな?」
「……ええとですね」
 ユージンに促され、カペルは青龍の話を始めた。トロルを倒したところまではアーヤにも話した。その後、青龍の姿が消えそうになり、代わりに天を貫く巨大な鎖が現れようとしていたこと。それを無我夢中で断ち切ったこと。それで生まれかけの鎖は消滅し、青龍が助かったこと。それらを思い出し思い出し話す。
 ユージンは興味深そうに聞いていた。シグムントは相変わらず表情が読めないが、こちらの話に耳を傾けているようだ。少し空気が重くなった部屋の中で、一人、エドアルドだけが血相を変えていた。
「青龍……鎖……それをカペルくんが斬った……」
「で、でたらめだ! おまえなんかに鎖が斬れるわけないだろ! 鎖を斬ることができるのは、光の英雄シグムント、ただ御一人だ。顔が似ている? それがどうした。それだけでそんなことができるわけがない!」
「いや、でも」と断りを入れようとしたカペルの声は、エドアルドの「うるさい!」という一言で遮られてしまった。
「ちょっと、エド! カペルはともかく、この子たちがそんな嘘つくわけないでしょ!?」
「ちょ、カペルはともかくって……」
 アーヤの抗議に、そうだそうだと双子も同調する。
 言葉に窮したエドアルドが、シグムントに助けを求めるように手を伸ばした。が、シグムントはそれを無視して、「部屋に戻る」とだけ告げて出て行ってしまった。
 やり場を無くした手をなんとか引っ込めると、エドアルドは大きな音をたててドアを開け、一睨みを残してそそくさと出て行った。
「まったく、子供なんだから」
 アーヤが嘆息を漏らす。ルカとロカがそうだそうだとはやし立てる。
「カペル君、もしそれが本当なら、君は解放軍にとって重要な人物になるかもしれない。まだしばらくは同行してもらうことになるよ、いいね」
 そう言うユージンの言葉は真剣だ。
「……やっぱりそうなります?」
「当たり前でしょ!」
 ユージンの代わりにアーヤが答える。
「……はい」
 どうしてこんなことになってしまったんだろうと思いつつ、カペルはそのきっかけとなった少女の顔を見つめた。



 剣を振る。
 最近はずっとそうだ。悩み、不安、やりきれなさ、戸惑い、怒り。自分の中で固まろうとする黒いものを消したい時は、こうやって剣を振る。そうすれば無心になれるはずだからだ。だがうまくいったためしがない。その動機に囚われたままなのだから、うまくいかないのは当たり前かもしれない。
 それでも剣を振る。それ以外には何も思いつかない。
 カペル。
 突然俺の前に現れた、シグムント様にそっくりな男。外見だけでなく、鎖まで断ち切ったという男。そんなはずはない。鎖を断ち切れるのは光の英雄シグムントだけなんだ。同じことができる者がいるはずがない。いてはいけないんだ。
 カペル。おまえはいったい何者だ……。
「エドアルドさん」
 呼ばれてエドアルドが振り返ると、そこにはしまりのない笑みを浮かべたカペルが立っていた。エドアルドは思わず視線を外す。ついさっき辛くあたったばかりの相手にいったい何のようだ。
「鍛錬ってやつですか、偉いですね」
「日課だ。偉くも何ともない。いったい何のようだ。何をしに来た」
「そんなにツンケンしないでくださいよ。誤解を解きたいだけなんで」
「誤解?」
「鎖のこと」
 そう切り出して、カペルは要領を得ない説明を続けた。
「――だから僕が鎖を斬れたのは、たぶん鎖がまだ完成していなかったからだと思うんだ。だいたい、月の鎖と同じものかどうかさえわからないし。その場にいたのがエドアルドさんだったとしても、同じ結果になったんじゃないかな」
「……なんだ、嫌みのつもりか?」
 違う。こいつはそんな嫌みを言うようなやつじゃない。それくらいはわかる……。
 エドアルドは、そんなことを言う自分にも、そう言われてもヘラヘラしているカペルにも、苛立ちを覚えていた。
「うーん、なんて言ったらいいのかなぁ」
「……もういい。言いたい事はわかった。次で試してはっきりさせればいい」
「うん、そうだね。邪魔してごめんね」
カペルが踵を返した。
「あ……」
「ん、何?」
 怒鳴ったり嫌みを言ったりしたままで行かせてしまうのは後味が悪い。そう感じる心にか、息が詰まるような苦しさを覚えたエドアルドは思わず声を漏らしてしまった。
「……悪かったな」
「何が?」
「! だから、その、おまえの過去のこととか……」
「いいよ、別に。事実だしね」
「……そうか」
「優しいんだね、エドは」
「なっ! 調子に乗るな! エドなんて呼んでいいとは言ってないだろ」
「ごめんなさい」
「もういい、邪魔だ、行け」
「じゃあまた明日。おやすみ、エドアルド」
 そう言い残してカペルは帰っていった。
 カペル。
 さりげなく呼び捨てにしたことは、まあ許してやる。
 おまえが鎖を断ちきれるかどうかも、この際どうでもいい。
 おまえには戦う意志がない。それは決定的なことだ。
 だから、シグムント様のお側にいるのはこれからもおまえじゃない。
 この俺だ。
 雑念を振り払うように、エドアルドは大剣を振り下ろした。すっかり手に馴染んだ得物は、いつもより鈍い音をたてて虚空を斬った。
 


 月が煌々と照る深夜。
 あてがわれたブルガス城内の一室で、シグムントは一人だった。
「エンマ……いるか」
「はっ」
 シグムントが呼ぶと、誰もいないはずの影の中から一人の男が現れた。一つに結んだ白髪と顔の皺、それに無数の傷跡。彼の生き様とその長さを物語る一つ一つが、影に隠れる技を紡いできた長い道程をも語っている。エンマは、シグムントに仕える忍びの一人だ。
「すべて思い出した。すべて……」
 月光を受けた月印が薄暗い部屋に赤く浮かび上がる。授かったばかりのそれを見つめながら、シグムントは続けた。
「苦労をかけたな」
「お館様」
「エンマ、頼みたいことがある」
「……はっ」