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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|33ページ/65ページ|

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 中継地点のオアシスで一泊し、道のりも半分を越えたが、モンスターが現れる気配はない。いまだ慣れないオラデア砂丘の強い日差しを浴びながら、カペルはショプロン村の住人たちの最後尾を歩いていた。
 助けたお礼を言いに来たファイーナがそのまま隣にいるのは、世間話以外に特にやることもない平和な旅路では、自然な成り行きだった。
「——とまぁ、そんな感じで僕は解放軍に同行してるってわけ」
「じゃあ、アーヤさんの勘違いから始まったんですか?」
「そうそう。なんだかすっかり逃げられない空気になっちゃっててさ。ね、アーヤ? ……アーヤ?」
 隣にいたはずのアーヤは、いつのまにか後ろを歩いていた。妙にいらついているようで、近づきがたい雰囲気を醸し出している。ああいうときは話しかけない方がいい。何故かじっと睨まれてしまったカペルは思わず前をむき直すが、背中に突き刺さる視線に嫌な汗が止まらない。
 この感覚、初めてじゃない。確か、ミルシェさんとブルガス城で話した時にも……。
「じゃあアーヤさんに感謝しなくちゃ……」
「えっ?」
「こうしてカペルさんに会えたのも、アーヤさんのおかげってことですよね」
「ま、まぁそうなるのかな」
 対照的に、このショプロン村の女の子、ファイーナはいたって機嫌が良さそうだ。
 モンスターに追われていた疲れも見せず、ファイーナは屈託のない笑顔を会話の合間に見せていた。無地のワンピースとその上に重ねられたカーディガンはすっかり汚れてしまっていて、瞳の色に合わせたようなエメラルドグリーンが色褪せて見える。ファイーナはそれが気になって仕方ないようだが、同じグリーンのリボンで一つにまとめた髪と合わせて、その仕草も彼女の女の子らしさを引き立てているようで好ましくも思える。活動的なアーヤや大人の色香を放つミルシェとはまた違う魅力だと言っていい。
「レイム君もルカロカとすっかり仲良くなったみたいだね」
「ええ。同年代の友達なんてなかなかできないから、嬉しいんでしょう」
 先頭を歩くルカとロカ、それにレイムを加えた三人は、みんなを先導しているつもりなのだろうが、周りから見ればはしゃいでじゃれ合っているようにしか見えなかった。
「……あーあ、三人ともはしゃぎすぎて盛大に転んじゃってるよ。大丈夫かな」
「もう……。私、ちょっと見てきますね」
「双子の方もお願いします」
「ふふふ。はい」
 ファイーナが子供たちに駆け寄っていく。
 それを見送ると、カペルはアーヤの方を振り返ってみた。ぷりぷりと怒っているアーヤは彼女らしいとも思えるが、イライラと何かを溜め込んでいる姿はあまり見ていたくないものだ。その原因をつきとめるべく、カペルはアーヤの隣に並んで話しかけた。
「優しいお姉さん、って感じだよね。ファイーナさんは」
「……あの子のカペルを見る目、なんだか普通じゃないよね」
「そう?」
「そうよ……。別にどうでもいいけど」
「何を怒ってるのさ」
「怒ってないわよ。ふん」
 そう言ってアーヤは早足で行ってしまった。
「ちょ、アーヤ……。おなかでも減ってるのかな」
 結局、怒っている理由はよくわからないままだ。


 落とし穴が最後に待っているのは、解放軍に巻き込まれてからの旅の常だ。ショプロン村の門が遠くに見えたというときに、平穏な顔を見せていたオラデア砂丘の様相が変わる。
 火を吐くクマ、ナルヴァル=セラベヒールが、馬鹿でかい鳥、ガルーダと戦っているのが遠くに見え、それを避けようと岩壁に沿って迂回していた矢先だった。ちょうど道の折れた先にいたサボテンの化け物に気づかず、村人が襲われた。それはすぐに撃退し、その村人は幸いにもかすり傷だけで済んだのだが、騒ぎを聞きつけた先ほどのクマ、鳥、それにどこに潜んでいたのか、周りにいた毒蛇の群れなどなど、およそ砂丘に生息するモンスターが勢揃いと言った風情でカペルたちを襲ってきたのだ。
「みんな、走って!」
 わらわらと集まってくるモンスターの群れに、全部を倒すには数が多すぎると判断したカペルとアーヤは、村人たちを急がせつつ最後尾でそれを食い止めていた。ルカとロカは村人たちの護衛だ。
「数が多すぎるよ!」
 カペルが剣を一閃して、毒蛇、スワンプ・サーペントの首を飛ばす。
「文句言ってないで、手、動かしなさい!」
 砂を泳ぐ肉食の魚、インプ・フィッシュが飛び出してきたのをアーヤの矢が射落とした。
「何事もなく終わりそうだったのに……いてっ!」
 サボテンの化け物、アミーゴ・カクタスが飛ばした針が一つ二つと腕に突き刺さる。致命傷になるようなものでもなければ毒もないが、ちくちくと刺さる度に動きを制限されてしまう。
「カペル、下がるわよ! あっちにもモンスターが来てるわ」
「う、うん」
 クマの爪を交わし、脇を駆け抜けながら一撃を入れて離脱。アーヤとともに、カペルはそのまま村人たちに追いつこうと走り出した。
 そうしてモンスターの群れに背中を向けた瞬間、カペルの真後ろで地面が爆発する。爆風に巻き込まれ、カペルは派手に吹っ飛んだ。
「ぎゃあ! ちょっと、やめてよー」
 爆発は、先ほどのクマがはき出した火球によるものだった。手負いのクマは走って追ってこようとはしないが、もう一度火球を作り出そうとしている。
 すぐにアーヤが矢を放つ。一つ、二つと突き立ったそれがクマの生命をかき消し、火球を吐くことなく、巨体は焼けた砂の上に崩れ落ちた。
「大丈夫? さあ、立って」
 差し出された手を取ってカペルが立ち上がろうとしたとき、村人たちの様子がアーヤの姿越しに見えた。誰も気づいていないのか、空から先ほどのガルーダが急降下してきている。ぶつかるかに見えた瞬間、そのガルーダは地表すれすれで停止し、同時に村人の中から何かを鷲づかみにして飛び去ろうとした。
「アーヤ、レイムが!」
「えっ!?」
 ガルーダが村人達の中から掴みだしたのは、ファイーナの弟のレイムだった。アーヤはガルーダの姿を確認すると、すぐに矢を引き絞った。放たれた矢が月印の赤い光を尾に引きながらガルーダに直進する。それをかわそうと旋回した勢いで、ガルーダがレイムを手放した。放り出されたレイムは村人から離れたところに転がり落ちる。身体を丸めていたせいか、砂地の起伏にひっかかるまで勢いよく転がっていた。
 連れ去られなかったことにほっとしたのも束の間、レイムを受け止めた砂地が突然隆起を始めた。砂がぱらぱらと流れ落ち、そこから現れたのは……。
「また蛇!?」
 砂に埋もれるようにしていた大蛇、スワンプ・サーペントは、レイムが与えた突然の衝撃に攻撃を受けたのだと思ったのだろうか。えらの張った菱形の頭を威嚇をするようにもたげ、喉を鳴らす。その音に呼応して、二匹、三匹と仲間が集まり始めた。立ち上がれば人間の大人よりも大きな蛇が、レイムを囲い始めた。
「アーヤ!」
「村人の方は任せなさい!」
「お願い!!」
 そう言うや否や、カペルは全力で砂を蹴った。


 アーヤは村人たちの方へと走りながら、月印を発動させた。
 右手が赤く光ると炎が吹き出し、それがやがて一本の矢に収斂する。