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らんぶーたん
らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー

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<四>


「はぁー、やっと着いた」
「お疲れさま、カペル」
「アーヤこそ」
 とうに日は暮れ始めていた。
 モンスターとの遭遇戦も何とかしのぎ、カペルたちは無事に村人を送り届けることができた。その結果が、今、目の前にある。
 赤く焼けた村の中央広場では、カペルが送り届けた村人たちと、村に残っていた人たちが思い思いに再会を喜び合っていた。夕日に伸びた影が幾重にも重なり合っているのを見て、柄にもなく頑張った甲斐があったものだと、カペルは充足と疲労をない交ぜにして感じていた。
「怪我はどう? さっきは途中になっちゃったけど」
「うん、もういいみたい」
「後でもう一度見てあげるわ。帰りにモンスターに襲われてから、痛いーって泣きごと言われても困るしね」
 アーヤにどう思われているのかが何となくわかる発言に、カペルは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。助けられてばかりの今までの戦いのことを考えればそれは仕方ないとも思えるが、もう少し評価されてもいいとも思う。男としては少々情けない。
「あの、今日はもう遅いですから、みなさん、うちで一泊していってください」
 ファイーナが遠慮がちに申し出てくれた。願ってもない申し出だ。
「助かります」
「ちょっとカペル!」
「お言葉に甘えて休ませてもらおうよ、アーヤ。僕、もうおなかぺこぺこ」
「ファイーナさんの迷惑も考えなさいよ、まったく……」
 そう言うアーヤも疲労は隠せない様子で、結局、ファイーナの申し出を受けることになった。


「あ、あの、カペルさん!」
「ん、何?」
 レイムに先導されてたどりついた家の前。
 ふいにファイーナが大きな声を出したことに驚いて、カペルは足を止めた。
「今回は本当にありがとうございました。命を救ってもらっただけじゃなくて、村にまで送り届けてもらって」
「ほんと、がんばったよね、僕」
「カペル、あんたねぇ。そういうことは自分で言わないの」
 調子のいいことを言えばアーヤが突っ込みを入れる。いつのまにか当たり前になっているそのリズムが心地良い。何かに怒っていたのも、戦いのどさくさで忘れてしまっているようだ。
 逆に、機嫌の良かったファイーナは、今は思い詰めたような堅い表情をしている。モンスターに襲われたのだからそれも当然かとカペルは納得してみたが、どうもそれとは違うような気もした。
「ファイーナさん?」
「あの、お礼をさせてください。私、カペルさんのしてほしいこと……な、なんでもしますから!」
「いや別にお礼なんて……って、な、なんでも!?」
「ほらそこ、変なこと考えない」
 かわいい女の子に何でもしてあげると言われて、変なことを考えない男はいないだろう。相手の意図がそこにないことがわかっていても、男は妄想を止められないものだ。その辺りの機微をアーヤはわかっていない。これは男の性であって、カペルだって本気で期待したわけではないのだ。
 だが……
「カペルさんなら、別に変なことでもいいよ……」
「……!!」
「!!」
「あ、やだ、あたしったら。何言ってるんだろ」
「な、なんでも……」
「カペル!!」
 アーヤに一喝されて、カペルは身を竦めた。
「ちょっと、ファイーナさん、何言ってるかわかってるの!?」
「……アーヤさんはどうなんです?」
 大人しそうな印象のファイーナの語調がいつになく強いことにカペルは驚いた。それはアーヤも同じようで、二人の間の空気が急に張り詰めていく。
 い、息が詰まる……。
「ど、どうって……」
「私はカペルさんのためなら何だって出来ます。あなたは出来ないんですか!?」
「で、出来るわよ!!」
「…………アーヤ?」
「う、うるさい! 知らないわよ。な、なな、何言ってるの!?」
「いや、それは僕の台詞でして」
「わ、私、もう行くからね!!」
 そう言って、アーヤは地面を踏み砕かん勢いで今来た道を戻っていってしまった。
「行くってどこにさ。ちょっと待ってよ、アーヤ! じゃ、じゃあ、ファイーナさん、また後で。とりあえず気持ちだけもらっておくってことで」
「……うん」
 ファイーナと目を合わせるのを気恥ずかしく感じたカペルは、これ幸いにとその場を後にした。ファイーナには少し悪い気もするが仕方ない。
「気持ち……か」
 だから、ファイーナがそう呟いたのを聞いたのは、隣にいたレイムだけだった。


 アーヤを追って広場まで来てみたはいいが、カペルは彼女を見つけられないでいた。広場には再会を喜ぶ村人たちがまだたくさん残っていて、ちょっとしたお祭りといった雰囲気になっている。人ごみというほどではないにせよ、この中から人を探すのは骨が折れそうだった。
 しばらくふらふらと探してみたが、アーヤは見つからなかった。代わりに、と言ってはなんだが、カペルはルカとロカの二人を見つけた。
「二人とも、お疲れ様。大丈夫だった?」
「当たり前だろー」
「わたしたちにかかれば、かんたん、かんたーん!」
「ほんと、頼りにしてます」
 まずは二人の無事に安堵した。二人の母親から預かってきた身としては、今回は多少無茶をさせた気がする。
 それでも、二人がいてくれたことは、本当に助けになった。二人だけじゃない。アーヤもドミニカもだ。村人を送るだけならひとりでもなんとかなると思っていた自分の見通しの甘さには、今は苦笑するしかない。
「あー、あの人!」
「おーい!」
 二人が声をかけようとしたのは広場の対角にいる女性だろうか。彼女は確か、ショプロンからフェイエールへと出発しようとしたときに、二人と話していた女性だ。母親のようにも見えると思ったのを、カペルは思い出した。
 村人たちの間をすり抜けるように駆けていく二人を追いかけながら、その嬉々とした姿に、やっぱり母親が恋しい年頃なんだと再確認する。
 しかし二人は、広場の中程で立ち止まってしまった。
 見れば、ちょうど二人と同じ年頃の少年を、彼女が抱き上げようとしているところだった。親子なのだろうか。
 その睦まじい姿を見て、ルカとロカはそれ以上近づくことをためらったのだろう。子供の癖に気を遣うところがあるものだ。
 二人の背中を、カペルはそっと抱いて言った。
「二人とも、お母さんに会えなくて寂しいんじゃない?」
「……そんなこと、ないよ」
「ルカもわたしも、もう子供じゃないもん……」
 言葉とは裏腹に、声は沈んでいる。大人に混じって戦う力があると言っても二人はまだ子供だ。寂しくないわけがない。
「そっか……。でもさ、二人は寂しくなくても、お母さんは寂しがってるかもしれないよ?」
「……カペル」
「一度モンタナ村に帰ってみない? お母さんのためにもさ」
 次の戦いは、封印軍の本拠地だ。子供を戦いに巻き込むのもここいらが限界。連れて行くのもどうなのかと思える。アーヤとそう話していたのもあって、カペルはそれとなく促してみた。直接「帰れ」と言っても、二人は多分帰らないだろう。
「でも、ボクたちがいなかったら、カペルは何も出来ないじゃないか」
「んー、まあ何とかなるよ。今は解放軍のみんなもいるしね」
「でも……」