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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|37ページ/65ページ|

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「じゃあこうしよう。二人はいったんモンタナ村に帰ってお母さんを安心させる。その後フェイエールに戻ってくればいい。すぐに戦いが始まるわけじゃないし、なんだったら僕が引き留めておくよ」
「ほんと?」
「約束するよ」
 カペルは嘘をついた。二人が帰っている間に、戦いが終わればいいと思っていた。こんな嘘なら、たぶんついても許されるだろう。
「……じゃ、じゃあ、ちょっと帰ってみようかな」
「わーい!」
「ロカ! それじゃあボクたちが帰りたがってるみたいじゃないか!」
「あっ! す、すぐに帰ってくるんだから、カペルはシグムントを引き留めておかなくちゃダメなんだからね」
「わかってるよ、ロカ」
 素直じゃないなと笑いつつも、二人が喜んでいる姿を見ればこれで良かったとも思える。
「……三人で何やってるの?」
「アーヤ」
 声をかけてきたのはアーヤだ。どこへ行っていたのかはわからないが、どうやら落ち着いたらしい。
「お母さんを安心させるために、二人は一度モンタナ村に帰ることにしたんだよ」
「でもすぐに戻ってくるからね!」
「戻ってくるんだから!」
「そう……うん、その方がいいかもね。お母さんも……心配しているだろうし」
 歯切れの悪いアーヤの物言いが気になったが、理由を聞いたらまた怒り出しそうな気もするので、カペルは何も聞かないことにした。
「そうと決まったら腹ごしらえだ。ファイーナさんが晩御飯を用意してくれるんだってさ」
「レイムが、ねーちゃんのごはんはおいしいって言ってたよ」
「アーヤのよりおいしいのかなぁ」
「じゃあ行こう、ルカ、ロカ!」
 二人と一緒になってカペルも走り出す。
「ごっはん! ごっはん!」
 思い出したように腹の虫が騒ぎ出した。
「……あんたまで子供になってどうするのよ」
「アーヤ、何してるのー。置いていくよー」
「まったくもう……ちょっと待ちなさいよー!」

 太陽は顔を隠し始め、あたりは徐々に薄暗くなってきた。家々から明かりが漏れ始め、大変だった一日の終わりを伝えようとしている。
 先に行かせた双子の背中を見ながら、カペルはアーヤが並んでくるまで待ってみた。
 自然と隣に並んだアーヤも、双子の背中を見つめている。
「ちょっと寂しくなるわね」
「まぁでも仕方ないよ。ここまで連れてきたのだって無茶だったわけだし」
「そうね……」
 ルカとロカは、この旅の最初の仲間だ。カペルもアーヤも、旅の間に親心がわいてきたのか、自然と二人を見る目も優しくなる。
「もう怒ってない?」
「知らないわよ、バカ」
 そのおかげか、アーヤの怒りも静まったようだ。


 ファイーナの手料理に混じって村人からの差し入れも並んでいる食卓は、思っていたよりも豪勢だった。味も文句のつけようがない。
「おいしーね」
 舌鼓を打ちながらロカが言う。
「本当はもう少し良い物を出したかったんですけど」
 謙遜するほど悪いものとも思えないのは、旅が長くなって舌が貧乏になったからだろうか。たぶん違う。単純にファイーナの料理の腕が良いからだ。アーヤには、それがなんだかおもしろくない。
「あっ……おいしい」
「ありがとうございます、アーヤさん」
 おもしろくなくても、アーヤの舌は嘘をつけない。思わず口に出した賞賛の言葉にお礼を言われ、複雑な気分になったアーヤは話題を変えようとした。
「それにしても、どうして封印軍はこんなところに来たのかしら」
 ショプロンには新月の民がいる以外は、何もない土地だった。封印軍がわざわざやってきて鎖を打ち込む理由がわからない。
「もしかしたら、だけどね」
 ドミニカが言った。
「坊や、ブルガスのモンタナ村で封印軍と遭遇したんだったよね?」
「そうです。青龍が月の鎖に変えられようとして」
「このショプロンの土地はね、元々はフェイエールの聖獣、朱雀の座所だったんだよ」
「モンタナが青龍のそれだったように?」
「ああ。ただ、オラデアはこういう土地だからね。フェイエールが拓けていく過程で、不便なこの場所からは人がいなくなってしまったんだ。その後に入植してきたのが新月の民さ」
「それじゃあ、ショプロンの鎖ってもしかして朱雀が……」
「いや、朱雀は数年前に姿を隠している。それも封印軍にやられたっていう話だけどね。自分のところの聖獣を守れないなんて、私たちにしてみれば情けない話さ……。ただ、青龍が月の鎖に変えられようとしてたってのは、逆に言えば、月の鎖を創り出すには闇公子の力だけでは足りないんじゃないか、っていう風に考えられると思わないかい? その媒介になるものがが聖獣であるにしろ、その座所であるにしろ、さ。もちろん、これは仮定の話だけど」
「……無尽蔵に月の鎖を打ち込めるわけじゃない、ってことですか」
「延々といたちごっこになるわけじゃないのかもね」
「…………」
 カペルとドミニカの会話を聞いているうちに、アーヤだけでなく他のみんなも押し黙ってしまった。せっかくの食事の時間に、空気を悪くするような話題をふったことに、アーヤは少し後悔した。
「まっ、考えてもわからないさ。ヴェスプレームの塔で闇公子の首根っこをひっつかまえて、直接聞いてやればいい」
 そうやってドミニカが場の空気を笑い飛ばしてくれたおかげで、その後の食事は笑いあり涙ありの楽しい時間となった。

 食事も終わり、アーヤは後片付けをするファイーナを手伝っていた。
「アーヤさん」
「何?」
「あの、アーヤさんにもお礼をさせてください。いいものがあるんです」
「いいもの?」
「ふふふ……」
 無邪気に笑ってから、ファイーナは続けた。
「お風呂」


 ファイーナが用意してくれた風呂は、家の裏にある石積みの中にあり、簡易の露天風呂と言った風情だった。周りには衝立が立てられていて、外からは見えないようになっている。
 とはいえ、屋外で裸になることにアーヤは少なからず抵抗を感じていた。
 だがそれもお湯に入るまでだった。
 フェイエールには入浴の習慣が無い。汗や汚れを流すだけということが多く、こうして湯につかることは滅多に無いのだ。だからと言って嫌いというわけではなく、満天の星空を見ながら湯につかることが気持ちよくないわけがない。
「はぁ〜、気持ちいい〜」
「お湯加減、どうです?」
 諸々の準備をしてくれていたファイーナは、隣にかしずくようにして湯加減を見てくれている。
「うん、最高。ありがと、ファイーナさん」
「ケルンテンに行ったときなんです。向こうの人は、毎日お風呂に入って身体を温めるっていうのを聞いて、うちでもやってみようと思ったんですよ」
「へえー、うちにも露天風呂、作らせようかしら……」
「えっ?」
「あ、ああ、なんでもないの。でもケルンテンに行ったって、ファイーナさんも行商を?」
 新月の民が行商のようなことをしているという話は、先日、カペルとしたばかりだった。
「昔、村の人について行っただけですけどね。今はちょっと……」
「オラデアがこんな状態じゃあね」
 モンスターが跋扈するようになってからは、交通は不便になった。新月の民ならなおさらだろう。
 アーヤがフェイエールを飛び出して解放軍に参加したのは、これが理由だった。