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らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

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 あごを打ち抜かれた兵士は意識を断ち切られ、派手な金属音と一緒にメイスを落とすと、膝からその場に崩れ落ちた。
「カペル、やるじゃない!」
「はぁ……はあ……まあね」
 久しぶりに正対した敵意をなんとかはねのけ、緊張から一転、身体の力がすっと抜ける。剣をだらしなく下げたまま、カペルはとりあえずの笑みを返した。上気した顔を汗が伝う。
「って言ってる場合じゃなかった。行くわよ。出口はもうすぐ――」
 唐突に言葉を切ったアーヤが、いきなりカペルを突き倒した。
 仰向けに倒れながら、カペルは頭の上を通り過ぎていく何かを見た。咄嗟に身を翻したアーヤは直撃を避けたが、その何かが壁にぶつかり、爆発する。
 薄暗い地下の通路を一瞬の閃光が照らし出し、爆発音が狭い空間に反響する。熱風が追うように辺りを吹き上げ、積もった埃もろとも、爆砕した破片を撒き散らした。
「きゃあ!」
 爆発音に混じってアーヤの悲鳴が聞こえた。カペルをかばって逃げ遅れた彼女は、至近で爆発の衝撃を受け、大きく吹き飛ばされたのだ。
 焼かれた視界を庇いながら薄く開いた目に、壁にもたれかかったまま動かないアーヤの姿が映る。
「アーヤ!」
 急いで身体を起こすと、カペルはアーヤのもとに駆け寄った。
 大きな出血はないが、壁にぶつかったときに頭を打ったのか、意識が混濁しているように見える。
 カペルが支えると、アーヤは重そうに上体を起こす。その拍子に、彼女が小さな悲鳴を漏らした。左の足首が腫れている。
「うう……大丈夫。でも……」
 足首を押さえながらも、彼女の視線はカペル越しに階段の方に注がれる。
 振り返ると、来た道は幾人もの兵士たちによって塞がれていた。追っ手だ。
 兵士に混じって、その中に人間より二回りは大きい巨人がいる。
「トロル……!」

 人の数倍はあろう怪力と、見るからに頑強な体躯。破壊を好む残忍さと、それを象徴するような凶暴な面容から、人々に忌み嫌われているのがトロルという種族だ。封印軍には、そんなやつまでいるのか。
「俺の持ち場にいてくれるなんてな。こいつは運がいい」
 棍棒と大きな樽を抱えたそのトロルを中心に、十人ほどの兵士。それに遅れて、トロルと同じ樽を二人がかりで運ぶ兵士が数組。さっき飛んできたのは、たぶんあの樽なのだろう。トロルの怪力を活かして投げるという原始的な攻撃方法だが、効果は先ほど見たとおりだ。
 とてもじゃないが、自分一人では相手にならない。
「悪いが逃げらんねえよ、英雄様」
 トロルが下卑た笑みを浮かべる。半分開いたままの口から唾液がしたたり落ちているのが、ここからでもよくわかる。
「ここで死んでも事故だよな。ぶはははは」
 他の兵士に語るトロルと、追従の笑みを浮かべる兵士たち。
 その目に、そのにやつきに、カペルは激しい怒りを感じだ。
 それが、幼い頃、自分に向けられ続けたものと同じだったからだ。他人の弱さをあざ笑うことで自分の優越を確認し合い、そうすることでしか己を確立できない連中。それこそが弱さだということも認識できない、いや、認識していても認められないからこそ、無くなることもなく、永遠に続く差別の目……。
 それも人の有り様の一つと考えられる程度の分別はあるつもりだが、蔑む目を向けられて許せるかどうかは別だ。あれを見れば、どうしても怒りが頭をもたげてくる。
「カペルだけでも逃げて」
「何言ってんの!? そんなの駄目に決まってる」
「そんなこと言ったって、このままじゃ……」
「駄目だ!」
 意図せずはき出した怒りが言葉に重なり、アーヤの目が一瞬、怯えを映したように見え、カペルは思わず目をそらした。
 彼女には関係がないのに……。
 怒鳴る相手を間違えている自分が情けなくて、アーヤをうかがうこともできず、カペルは階段の方へと視線をやった。
 にやけ面に相対し、再燃する怒りに任せてカペルはトロルを睨み付ける。
「怖いねぇ。でも、そんな態度もここまでだ」
 不快な笑みを浮かべて「じゃあな、英雄さん」と言うと、トロルは樽を持ったまま大きく振りかぶった。嘲笑うかのように、尊大に、ゆっくりと……。
 このままじゃ、やられるだけだ。またやられっぱなしなのか。
 それは嫌だ。それは――
 拒絶の言葉が額の奥で爆発し、カペルの身体を突き動かす。叫びとともに剣を逆手に持ち直すと、カペルは衝動に任せてそれを投げつけた。
 暴力の快楽にひたるために大きく振りかぶっていた分、トロルの投擲が遅れ、宙を切り裂く剣が距離を詰める。そして、剣は樽がトロルの手を離れるその瞬間を狙ったかのように直進し、突き刺さった。
 樽と剣、互いの速度を相乗した衝撃が、樽の中の物質に猛烈な燃焼反応を促し、トロルの直近に閃光の花を咲かせる。
 破片と炎を孕んだ爆風がトロルもろとも一帯を吹き飛ばし、巨体が階段の下へと跳ね飛ばされた。近くにいた兵士たちも、抗う術を持たずに激しく壁に打ち付けられる。運ばれていた樽はすべて落とされ、押し寄せる破片と炎によって引火し、さらなる爆発が連鎖する。悲鳴はすべて、轟音の中に埋没した。

 誘爆によって引き起こされた狂乱を、カペルは呆然と見つめていた。
 怒りに任せて投げた剣が、意図していなかったにしても、目の前で凄惨な破壊を生み出している。自分の頬を焼く熱風さえこれだ。直近で受けた人はただじゃすまないはず……。
「カペル!」
 アーヤの呼ぶ声が、遊離していた意識を呼び戻し、カペルはそちらを振り返った。辛そうに壁にもたれながら、彼女はすでに立ち上がっている。
「逃げるわよ。肩貸して」
「うっ、うん」
 アーヤの左足は歩けないほどにはひどくはないようだ。だがそれでも、大きな汗が頬を伝っている。
「足、大丈夫?」
「うん。……それより、気にする必要はないわよ。これは封印軍との戦いなんだから」
 視線は前を向いたままだが、彼女は自分の怯えを見透かしていた。
 それを気遣ってくれている言葉に、彼女があんな連中と戦いを重ねてきたんだという事実を確認させられたカペルは、どこか気後れする自分を感じていた。
 とにかく、今はここを離れることだった。