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らんぶーたん
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novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

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 そう思った瞬間、シグムントの手から剣がこぼれ落ちた。
 手が震え——
 身体が硬直し——
 口から血があふれ出す——
「ぐっ……」
 口に当てた手は吐血を抑えきれず、シグムントは自分の血で赤く染まった石畳の上にうずくまった。
 くそ、こんなときに……。
「……くくく、ふははははははは。やはり神に愛されているのは余だ。そなたではないのだよ、英雄! ふふははははは」
 シグムントを蹴り飛ばし、レオニードは笑い続けた。
「さしもの英雄も病には勝てぬか。さあ、どう料理してくれよう」
 勝利を確かめたレオニードの高笑いが響き、役者じみた態度で考えてみせる。
「ふむ。英雄を生け贄に捧げれば、我が神もさぞかしお喜びになるだろう。そなたには贄の世界へと行ってもらうとするか。溜め込んだ力を使うのは少々もったいない気もするがな」
「シグムントさん!」
 カペルの声が聞こえ、再び視界の端にその姿を捉える。サランダにやられたのか、血を流してはいるようだがカペルは無事だ。そう確認した直後、カペルに視線を移していたレオニードが、再びシグムントを見下ろして言った。
「いや、そなたはもう残滓に過ぎぬ、か……。希望を奪われ苦しみにのたうち回る姿を見るのも一興」
 そう言ってレオニードがカペルの方へと歩み寄りながら、月印の力を解放させる。
「やめろ、レオニード……」
 絞り出した声に振り返ったレオニードが不敵に笑い、紫色の雷光を迸らせる光球が頭上に掲げられた。それは一瞬にして膨れあがり、その内部に、ここではないどこかの光景を映し出す。
「消えろ」
 ばりばりと音を立てて空間を抉り出す光球は、別の空間につながる門となる。
 カペルを取り押さえていたサランダが飛び退くが、眼前に展開される異様な光景に圧倒されたのか、カペルが動けずにいる。
 まずい。あそこに引きずり込まれては……。
 本能的にそれが致命的な何か、カペルの生命を奪う、致命的な何かだと理解する。
 瞬間、カペルが危ないと爆発した感情が、動かぬ身体を無理矢理動かした。
 床を蹴り、シグムントはレオニードに飛びついた。
 油断をしていたのか、反応の遅れたレオニードに手が届く僥倖に、離さないと決めた意志でとりつく。シグムントは、最期の力を振り絞って、光球を操るレオニードの腕を引き寄せた。
 驚愕の色を浮かべたレオニードが振り払おうとする。しかし、自らが作り出した光球に引かれ始めた身体が、シグムントともども、徐々に宙に浮かびだす。
 そうだ、これでいい……。
「は、離せ、英雄!」
 英雄。
 それはもう、自分を呼ぶ名ではない。
 膨れあがった光球の向こうに吸い込まれながら、シグムントはただ、カペルの目を見つめていた。
 こちらに向かって叫んでいる、自分と同じ顔の少年。
 もう声は届かない。だから、心の中で語りかけた。
「カペル、月の力に頼らず、おまえはおまえのまま強くなれ」
 伝えたいことはまだまだあった。だが、言葉にせずとも、それはいつかカペルに届くと思える。
「強く生きろ、カペル」
 白濁していく世界の向こう側に、シグムントは声にならぬ声を残して消えた。

「カペル、世界を任せた——」