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らんぶーたん
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novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

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 世界の命運を背負おうとするから重く感じる。
 ただ彼女がそう望んだから。そう考えれば勝ちすぎる荷も軽く感じられるから不思議だった。そんな風に思う自分に、らしいな、と頬を掻いたカペルは、意を決して皆の方をむき直した。
「みんな、聞いてください」
 ペンダントを握り、カペルは言った。
「光の英雄シグムントは死んじゃいない」
「カペルくん……?」
 ユージンが怪訝そうにこちらを見るのを感じたが、カペルは続ける。
「この戦いで死んだのは、旅芸人のカペル、ただ一人」
「……」
 ミルシェはバルバガンの治療を続けたまま、こちらを見ようとはしない。
「光の英雄はここにいる」
 シグムントの代わりに月の鎖を斬る。その決意を言葉にしたカペルだったが、答える者はなく、しんと静まってしまった空気に後ずさりそうになるのを耐えることになった。
 沈黙を破ったのはユージンだった。終始眼鏡にやっていた手を下ろした彼は、まっすぐにカペルの方を見て言った。
「カペルくん、自分で言ったことの意味をわかっているのかい? それがどれだけ大変なことになるのかを」
「そのつもりです」
「そうか……」
 かちゃりと眼鏡を押し上げ、ユージンが続けた。
「カペルくん、一度始めたら逃げ出したりはできないよ。僕らは世界を騙し続けなくちゃいけない。月の鎖を斬る光の英雄はここにいる。鎖を全て斬り捨てるまで、僕らはそう言い続けなくちゃいけないんだ。その意味がわかるね?」
「うっ……」
「シグムントがいなくなっても、世界はまだ英雄を必要としている。君がそれでいいというのなら、僕は君を利用させてもらうよ。あいつの意志を遂げるためにも」
 自分の中で抱いた決意も、他人の言葉を通して確認されれば別のものに見えてくる。たたらを踏みそうになる足を押しとどめ、「は、はい」とかろうじて答えたカペルは、直後、「ふざけるな……」と絞り出された声を聞いた。
 ドミニカに肩を借りながら、何とか立っていたエドアルドが顔を上げぬまま呻いていた。
「おまえに……おまえなんかに……シグムント様の代わりができてたまるか……ふざけるな……!」
 吐き出した言葉を最後に、エドアルドは再び沈黙した。
 最初から受け入れてもらえるとは思っていない。光の英雄シグムントと同じことをできるなんて自惚れる材料も見当たらない。ただ、エドアルドの言葉から、彼のシグムントへの思いの強さがわかってしまって、それが辛かった。
 意識を失ったエドアルドを支えながら、今度はドミニカが言う。
「坊や、覚悟はいいんだね? きつい毎日になるよ、きっと」
「はい、わかってます」
 そう言うと、ドミニカはふっと笑って肯定の答えとしてくれた。
「とにかく、一度フェイエールに帰りましょう。ちゃんとしたベッドにバルバガンを寝かせてあげないと」
 ミルシェが立ち上がってユージンに言った。とりあえずの応急処置は終わったのだろう。張り詰めていた雰囲気も少しだけ緩んだ気がする。だがミルシェはこちらを見ることはなかった。
「そうしよう」
 ユージンの言葉を合図に、それぞれがフェイエールへの道を歩き出す。
 ぼろぼろの、失意の凱旋だった。
 これで良かったのかな。シグムントさんの代わりなんて、出過ぎたことを言っちゃったんじゃ……。力なく並んだ背中を見つめ、逃げ出したいと思う弱い自分が頭をもたげた瞬間、そっと手に触れてきた温もりをカペルは感じた。
「やれるだけやってみなさい。フォローはしてあげるから、ね」
 自分に向けられたと信じられる笑顔を見つけ、凝りそうだった心の澱がそれだけで溶け出す。そんな自分の現金さにカペルは笑った。
「頼りにしてます」
「うん」ともう一つ弾けた笑みを残して、アーヤは皆を追いかけていった。
 揺れる黒髪をぼんやりと見つめた後、カペルはふと塔の方を振り返った。瓦礫の上に浮かんだ青白い月を仰ぎ、自分の背中を押すもう一人の姿をそこに見つけたカペルは、彼に向かって語りかけた。 
「シグムントさん、見ていてください。頼りないと思うし、どこまでやれるかもわからないけれど、僕、やれるだけやってみます」
 シグムントが笑ったと感じられたときには気負いも消え、少しだけ軽くなった足を返し、カペルはその場を後にする。
「何やってるのー? 置いていくわよー」
「待ってよー」
 その運命を知ってか知らずか、鎖に縛られながらも悠然とたゆたう月が、虚空からカペルの歩みを見下ろしていた。


<第一部 完>